昨年からハーセプチンも使えるように。新たな新薬登場にも期待 温存と治療予測というメリットも!乳がんの「術前化学療法」
アンスラサイクリン系とタキサン系を計6カ月
術前化学療法で使われる薬剤は、術後化学療法と同じで、中心はアンスラサイクリン系抗がん剤である。アンスラサイクリン系には、アドリアシン(*)(A)やファルモルビシン(*)(E)といった抗がん剤がある。このどちらかと、エンドキサン(*)(C)を組み合わせ、AC療法、EC療法といった併用療法が行われる。さらに5-FU(*)(F)を組み合わせ、CAF療法、FEC(CEF)療法、とする場合もある(図4、図5)。
どの併用療法も3週に1回の投与で、一般的に4サイクル行われる。計3カ月である。
これに続き、タキサン系抗がん剤による治療が行われる。タキサン系には、タキソール(*)とタキソテール(*)があり、どちらも単剤で使われる。
一般的に、タキソールは毎週投与で12サイクル、タキソテールは3週に1回投与で4サイクル繰り返す。どちらも3カ月。アンスラサイクリン系と合わせ、計6カ月の治療となる。
タキサン系抗がん剤を加えず、アンスラサイクリン系ベースの併用療法だけを行うこともある。この場合は6サイクル繰り返し、治療期間は4カ月間になる。


*アドリアシン=一般名ドキソルビシン
*ファルモルビシン=一般名エピルビシン
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド
*5-FU=一般名フルオロウラシル
*タキソール=一般名パクリタキセル
*タキソテール=一般名ドセタキセル
術前のハーセプチンはタキサン系と併用
昨年から、術前化学療法に分子標的薬のハーセプチンが使えるようになった。この薬は誰にでも効くわけではない。がん細胞を検査して、HER2タンパクが過剰発現しているかどうかを調べる。その結果、陽性だったがんにだけ効果を発揮する薬なのだ。

[図7 術前化学療法での治療スケジュールの1例]
「ハーセプチンは、アンスラサイクリン系抗がん剤とは一緒に使いません。ハーセプチンには、副作用として心臓の機能を低下させる可能性があり、アンスラサイクリン系は心筋障害という副作用が出る可能性があるからです」
そこで、アンスラサイクリン系ベースの併用療法が終了した後、タキサン系抗がん剤と併用する。ハーセプチンは3週に1回、もしくは毎週サイクルで投与される(図6)。
ハーセプチンは、再発予防のためには1年間続けることになっている。そのため、最初の4サイクルは術前にタキサン系と併用し、残りは手術後に単独で投与する(図7)。
新しい治療薬の開発が進む
術前化学療法は、再発しにくい人を明らかにすると同時に、再発しやすい人を明らかにする治療でもある。再発リスクが高いのは、ホルモン受容体陰性で、がんが完全に消失する結果が得られなかった人たちだ。
「ただ、すべてが再発するわけではありません。定期的に検査を受け、たとえ再発しても早く発見できるようにすべきでしょう。以前は早く発見してもしかたがないと言われましたが、治療薬が進歩した現在、再発の早期発見は、QOL(生活の質)の維持に役立ちます」
また、新しい治療薬の開発も進んでいる。HER2陽性乳がんに対しては、新しい分子標的薬のペルツズマブ、ハーセプチンと抗がん剤を結合させたT-DM1と呼ばれる薬剤などがあり、実用化はそう遠くないと見られている。他にも多くの分子標的薬剤の研究が進められている。
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