乳がん再発予防:乳がん治療を大きく変えたハーセプチンが、さらに適応を広げる ハーセプチンの術前療法で再発を防止、乳房温存も可能に!!
ハーセプチンを含む術前療法でのメリット

「治療開始の時点で乳房切除術が必要な患者さんでもHER2陽性乳がんでハーセプチンを含む術前療法を受ければ、そのうちの約半分以上の人で乳房温存手術が可能になります。このような効果は、従来行われていた化学療法だけでの術前療法では考えられませんでした。HER2陽性乳がんと診断され、ハーセプチンを含む術後補助療法が必要だといわれている患者さんには、ぜひハーセプチンを含む術前療法も治療選択肢として提示すべきだと思います」
ハーセプチンを含めた術前療法には、乳房温存率を向上させるというメリットがある。またもう1つのメリットは、患者さんが、がん細胞の縮小効果を実感できる点。術前療法では、自身の乳がんが小さくなっていくので、治療効果を実感でき、治療への心の支えになってくれるのである。

ハーセプチンを含む術前療法は、どのような患者さんに行われるのだろうか。
「施設によって多少違いがあると思いますが、当院では、HER2陽性の過剰発現がある1センチ以上の乳がんがある患者さんに、ハーセプチンを含む術前療法を勧めます」
ハーセプチンを含む術前療法により、pCRが得られ、より予後を改善することも海外での臨床試験で示唆されており、がんの大きさが1センチ以上あれば、ハーセプチンを含む術前療法を先行すべきだと髙橋さんは言う。
術前術後で合計1年の治療期間が必要

ハーセプチンを含む術前療法は、一般的に次のようなスケジュールで進められる。まず、アンスラサイクリン系抗がん剤の投与を3週ごとに4サイクル行い(3カ月)、引き続き、ハーセプチンとタキサン系抗がん剤の併用投与を、3週ごとに4サイクル行う(3カ月)。計8サイクル(半年)の治療である。ハーセプチンの治療期間は手術前後で合計1年間の期間が必要だ。
「手術前の治療で乳がんの細胞が完全に消失した(pCR)場合でも、そこで治療は終わりにはなりません。手術後にもハーセプチンによる単独の治療が必要となります。再発リスクが下がるというデータはハーセプチンによる治療を1年間行ったことによるものなので、途中でやめてしまったら、その恩恵をきちんと得られるかどうかわからないからです。乳がんは全身病と考えられ、術前療法で乳房内のがんが無くなっても、目に見えない転移が全身に残っている可能性があります」
たとえ、乳房内のがん細胞が完全に消失したと判断されても、体内のどこかにがん細胞が潜んでいる可能性があると考え、定められた治療を継続することが大切だ。
ハーセプチンの点滴時間は、初回投与時は90分で行われ、その時に問題がなければ2回目以降は、30分まで短縮することができる。点滴時間が短いのは患者さんにとっては大きなメリットとなるだろう。
事前に副作用について知っておくことが重要
「ハーセプチンの主な副作用として初回投与時の寒気や発熱があります。吐き気や頭痛、倦怠感なども出る場合がありますが、頻度はさほど多くはありません。また、これらの副作用は出たとしても初回の治療の時に見られ2回目以降では無くなることがほとんどですので、治療を行う前に患者さんに知っておいてもらうことは、安全に治療を進めるためにも大切です。また、頻度は少ないのですが重い副作用として心臓への影響が出ることがあります。普段と明らかに違う(息切れ・動悸など)症状が現れた場合には直ぐに医師や看護師に相談することが重要です」
事前にどのような副作用に注意すべきかを知ることで症状に気づきやすく、より安全に治療を行うことができる。
HER2陽性乳がん治療に大きな進歩をもたらしたハーセプチン。そして現在もなお、HER2タンパクをターゲットとした新たな薬剤の開発は進められている。今後、HER2をターゲットにした新規の薬剤や治療法が登場してくる日も遠くはない。
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