ハーセプチンの適応拡大で治療法が増え、QOLもさらに向上 待望の「術前化学療法」も認められた分子標的治療
分子標的薬特有の副作用とうまく付き合う

分子標的薬は抗がん剤ほどの副作用はないが、いくつかの副作用が報告されている。
ハーセプチンで最も出やすい副作用は発熱と悪寒で、いずれも3人に1人ぐらいの割合で出る。頭痛、倦怠感などを伴うこともある。これらの副作用が起こるのは、初回投与時が多く、2回目以降はまれである。頻度は少ないが、長期投与例で心臓機能の低下が起こることがある。
一方、タイケルブでは、下痢と発疹の副作用が出やすい。併用するゼローダは、単剤療法でも、下痢や手足症候群などが報告されている。そのため、タイケルブとゼローダを併用すると、下痢や発疹、手足症候群が少し多くなるようだ。
「下痢は下痢止めでコントロールできます。つらいのは発疹です。一方、手足が赤く腫れ、凍傷みたいにジンジンして皮がむけたりする手足症候群に保湿クリームやステロイド軟こうなどで対処しきれないときは、休薬したり、投与量を減らしたりして対応します」と山本さん。
厚労省がハーセプチンの適応拡大を承認
以上がこれまでの治療法だったが、今年4月に大きなニュースが飛び込んできた。厚生労働省がハーセプチンの適応拡大を承認したのだ。エビデンス(科学的根拠)があって、「医学上の必要性が高い」と判断された場合、治験を省略して医薬品を承認する「公知申請」という制度により、スピーディに保険適用されることになった。
今回の適応拡大のポイントは以下の4つである。
①ハーセプチンの術前補助化学療法が保険適用されたこと。
「HER2陽性の乳がん患者さんにとって、今回の適応拡大の中で、最も大きなトピックスだと思います。これでHER2陽性の乳がんに対して、ハーセプチンは、術前、術後、再発・転移のすべての場面で保険適用になりました」
②ハーセプチンの初回投与で副作用が��なかった場合、2回目以降の投与時間が、これまでの90分間から30分間へと短縮されたこと。
「ハーセプチンの副作用は初回投与後に出ることが比較的多いため、血圧が急に下がったり、呼吸が息苦しくなるなどの症状が出ないか確認します。副作用が出なければ2回目以降は点滴時間が短縮されます。とくに通院で治療を受ける患者さんの負担はかなり減るでしょう」
③転移・再発乳がんに対して、これまで毎週行われていたハーセプチンの点滴が3週ごとでも認められたこと。
これも患者さんの負担軽減になる
④ハーセプチンとタキサン系の抗がん剤(タキソール、タキソテール)を併用するときに、パラプラチンとの併用が認められたこと。
患者さんにとって、治療の手段や機会が増え、QOL(生活の質)も保たれることは大きな朗報である。
数多くの分子標的薬の臨床試験が進行中
このほか、現在、国内外では数多くの分子標的薬の臨床試験が進行している。
海外では、ペルツズマブ(一般名)の第3相(最終段階)の大規模な臨床試験が実施中だ。
また、トラスツズマブ-DM1(*)(一般名)は、ハーセプチンに抗がん剤をつなげた薬だ。ハーセプチンがHER2にくっついた後、抗がん剤が細胞内に入って、その効果を発揮する。これも臨床試験中である。
日本国内では、このほかネラチニブ(*)という新薬の臨床試験が進行中で、山本さんも参加している。
「乳がんには、数多くの治療法があり、新しい分子標的薬も次々に開発されています。それらを使い回していけるので、患者さんには、希望を持って治療を受けていただきたいですね」と山本さんは結んだ。
*トラスツズマブ-DM1=一般名、略称はT-DM1
*ネラチニブ=HKI-272
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