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ハーセプチンが効かない患者に朗報。 脳転移にも有効に働く、新しい分子標的薬「タイケルブ」 「HER2陽性乳がん」に新たな光明となる新薬登場

監修:戸井雅和 京都大学大学院医学研究科外科学講座教授
取材・文:繁原稔弘
発行:2009年6月
更新:2013年4月

約4カ月延びた無増悪期間

タイケルブの効果の検証は、抗がん剤やハーセプチンによる治療を受け、それが効かなくなった患者さんを対象に臨床試験が行われた。海外で行われた臨床試験は、ゼローダだけを服用した群とそれにタイケルブを加えた群で、その治療成績を比較している。試験結果は、無増悪期間(病気が進行するまでの期間)の中央値がタイケルブを加えた群の8.4カ月に対し、ゼローダ単独群では4.4カ月と、タイケルブを加えたほうがよかった。また、奏効率でも、タイケルブを加えた群が22パーセントに対し、ゼローダ単独群は14パーセントと、タイケルブを加えたほうがゼローダ単独療法に優ることが確認された(カットオフ日2005年11月15日)。

[無増悪期間(タイケルブの海外臨床試験データ]
図:無増悪期間(タイケルブの海外臨床試験データ

出典:Geyer C, et al.NEJM 2006;355:2733-2743.

気をつけたい副作用は、下痢と皮疹

タイケルブの副作用について、戸井さんは、「ハーセプチンの使用でみられたような心毒性(心臓への負担)が出る心配は、それほどありません。もちろん、注意深く見ていく必要はあります」と言う。

タイケルブでとくに気をつけたい副作用は、下痢と皮疹である。この副作用対策について、戸井さんはこう説明する。

「副作用については、個々の条件によって異なります。タイケルブの前にどのような抗がん剤を使っていたか、などによって対策も異なります。このように先行治療をされている方が、タイケルブ服用の対象となる状況が多いと思いますので、主治医や看護師など専門知識を十分に持つ医療スタッフに相談してみてください。また、副作用の面については、日本は薬の使い始めに対して、『全例調査』というよいシステムがあります。薬の発売後に、登録制で薬の副作用等について全例を調査するものですが、発売後の一定���間はこのシステムによって、きちんとフォローされます」

[タイケルブとゼローダ併用の副作用(海外第3相臨床試験)]
図:タイケルブとゼローダ併用の副作用(海外第3相臨床試験)

出典:Cameron.D.et al.:Brest Cancer Res Treat.112.533-543(2008)より改変

期待が寄せられる脳転移に対する研究

タイケルブで、現在、臨床の現場で最も期待されているのは、脳転移に対する効果である。

化学療法薬が無効であった脳転移患者にタイケルブとゼローダの併用効果を調べた臨床試験では、タイケルブ単独よりもタイケルブとゼローダを併用したほうが有効など、脳転移に対する効果が証明されつつある。

「さらなるタイケルブの利点としては、ハーセプチンの弱点、たとえば脳転移に対して有用性を示しています。厳密に、どのぐらいの効果を示しているかについては今後の研究となりますが、現段階でも『いい』という手応えは出ています。今後は、治療期間をどれくらいにしたらよいか、さらには放射線治療との併用効果はどうか、など、現在、一生懸命に調べているところです」

このように、タイケルブの効果は、現在さまざまな臨床試験で調べられている。

そのなかで最近の特記すべきことは、タイケルブがHER2陽性の閉経後転移性乳がんの1次治療として効果があったことだ。

[HER2陽性乳がん脳転移患者における第2相臨床試験]

投与前
投与前
32週後
32週後

タイケルブとゼローダの併用による治療を受けた患者の脳のMRI画像
(脳転移巣が縮小(右写真)した1例)

出典:Lin NU et al.Breast Cancer Res Treat 2007:106(Suppl 1):Abstract 6076

サンアントニオ乳がんシンポで報告された1次治療の効果

昨年暮れ、米国サンアントニオで開催された世界的な規模を誇る「乳がんシンポジウム」において、タイケルブとホルモン剤のフェマーラ(一般名レトロゾール)との併用投与によって、フェマーラ単剤と比較して、ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の閉経後転移性乳がんの進行を有意に長く(5カ月長く)抑制したことが報告されたのだ。

この最新トピックについて、戸井さんはこう解説する。

「注目度が高いことは間違いありません。しかし、まだ1つの臨床試験報告です。今後、この報告されたデータに基づいて、いろいろな角度からの解析が行われていくでしょう。同時に、他の臨床試験のデータも参考にしながら、このデータをどういうふうに考えるかが大切です」

HER2陽性乳がんの今後の治療の可能性

かつて、HER2陽性乳がんは、予後が悪いがんであった。

それが01年にハーセプチンが登場することにより「予後の悪さ」はかなり払拭されたが、それでも、ハーセプチンが効かないがん、効かなくなるがんという難題を、臨床の現場はずっと抱えてきた。HER2陽性乳がんの今後の治療の可能性について、戸井さんはこう力説する。

「現在、世界中でたくさんの新薬、新しい治療法の開発が進められています。ハーセプチン、タイケルブとは異なる、プラスアルファの効果を持った薬剤が開発されています。これらの薬剤が出てきますと、さらにHER2陽性乳がんの治療成績はよくなると思います。HER2陽性乳がんの治療はこれまで、ずいぶん変わってきました。しかし今後も、さらに大きく変わると思います」

これまでハーセプチンしかなかったHER2陽性乳がん治療の選択肢は、タイケルブの出現によって、複数に広がったと言えよう。


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