乳がんの「アバスチン+パクリタキセル療法」で起こる副作用と対策&セルフケア副作用をうまくコントロール!再発乳がん治療を長く続けるコツ
消化管穿孔は初期症状を知り、必要以上に恐れない
アバスチンの副作用としては、消化管穿孔もよく知られている。消化管に穴があいてしまうもので、命に関わる重篤な副作用である。ただ、このような副作用は、乳がんにおける国内臨床試験では起きていない。
「薬について説明するとき、患者さんが必要以上に不安を抱かないように注意しています。消化管穿孔に関しては、ひどい腹痛が起きた場合には、すぐ連絡するようにと伝えています」(宮本さん)
消化管などからの出血も代表的な副作用とされているが、やはり頻度は高くないという。
末梢神経障害はひどくなる前に休薬する
パクリタキセルによる副作用で、最も問題になるのは末梢神経障害だ。手足にしびれが起こり、ひどくなると痛みを伴うようになる。
「パクリタキセルによる末梢神経障害は、薬を使い続けることで、ほぼ全例に現れます」(渡辺さん)
この副作用は、パクリタキセルの投与を終了しても、長く残ることがある。浜松オンコロジーセンター看護師の角谷京子さんは、この点に関して調査を行っている。
「パクリタキセルの治療が終了して1年たっても、しびれが続く患者さんが半分くらいいて、QOL(生活の質)を低下させる大きな原因になっています」(角谷さん)
こうした事態を防ぐためには、無理をして治療を続けず、適切な段階でパクリタキセルを休薬する必要がある。末梢神経障害は、しびれがあるだけならグレード1、痛みを伴うようになったらグレード2、ボタンかけがしづらい、できない、うまく歩けないなど、日常生活に支障をきたすようになったらグレード3である。
「グレード2になったら休薬したほうがいいですね。グレード3になるまで続けてしまうと、それが固定して、元の状態に戻すのが困難になります」(渡辺さん)
進行・再発乳がんの治療は、症状を緩和し、QOLをできるだけ高く維持することが大切である。治療を続けることで得られるプラス面と、副作用によるマイナス面の両方を、考慮する必要がある。
仕事をしている方は早めにウイッグを準備

パクリタキセルの治療では、脱毛がほぼ全ての患者さんに起こる。治療開始16日目くらいに抜け始めることが多い。
「再発患者さんの場合、術前や術後の化学療法で脱毛を経験し、ウイッグを持っている方も少なくありません。初めての患者さんには、ウイッグの準備をしていくことを治療決定時にお話しします」(角谷さん)(写真7)
脱毛に関しては、心の準備と物の準備が大切。必要となる準備は、夏と冬で異なる。夏は汗などをかきやすく、頭皮にできものができやすいため、そういったケアが必要になり、冬は就寝時が寒いので、ナイトキャップをかぶって寝るなどの対策が必要になる。
「『髪の毛が抜けてしまいますよ』と患者さんにお伝えすると、坊主にしてしまう人もいるのですが、それだと逆に髪の毛が短すぎて抜けたときの処理が大変になってしまいます。ですので、患者さんにはある程度の長さがあったほうがケアしやすいことをお伝えしています。また、仕事を続けながら治療する患者さんには、早めにウイッグを準備するよう勧めています。まだ髪の毛があるうちにウイッグを使い始めることで、違和感なくウイッグに移行することができます」(角谷さん)
爪にも副作用が現れることがある。爪が浮いた状態になり、はがれやすくなるのだ。
「爪に圧をかけないように、爪を切る場合には、爪切りを使わずに、爪やすりを使って削ってもらうよう、患者さんにはお伝えしています。かなり浮いてきた場合には、テープを巻いて固定することもあります」(角谷さん)
見落とされがちな副作用光線過敏症に注意

パクリタキセルによる副作用で、意外に見落とされがちなのが光線過敏症だ。皮膚が光に対して過敏になり、陽射しを浴びた部位に炎症が起きる。
「頬、うなじ、手の甲などがよく起きる部位です。夏だけだと思われがちですが、冬の陽射しでも起こるので注意が必要です」(渡辺さん)
この副作用を予防するには、帽子をかぶる、長袖の服を着る、手袋をはめる、日焼け止めクリームを塗る、化粧をする、といったこまめなUVケアが必要になる(写真8)。
「光線過敏症を起こしてしまった方の話を聞くと、洗濯物を干すだけの時間なら問題ないと思い、UVケアをせずにベランダに出ていたり、普段から化粧やスキンケアをしない方など、ちょっとした油断やもともとの習慣が原因になっていることが多いようです。治療前には生活習慣を確認した上で説明させていただいています」(角谷さん)