乳がんの「アバスチン+パクリタキセル療法」で起こる副作用と対策&セルフケア副作用をうまくコントロール!再発乳がん治療を長く続けるコツ

監修:渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター 院長                             
宮本康敬 浜松オンコロジーセンター薬剤師(がん専門薬剤師)
角谷京子 浜松オンコロジーセンター看護師                        
取材:がんサポート編集部       撮影:向井 渉                              
発行:2012年7月
更新:2019年8月

適切な効果判定が治療継続のコツ

アバスチン+パクリタキセル療法を長く継続するためには、どんなことが必要となるのだろうか。

「腫瘍マーカーを活用して、治療効果の判定を臨機応変に行っていくことが大切です。再発後の治療では、月に1回程度は腫瘍マーカーを調べます」(渡辺さん)

さらに画像検査も月に1回程度行われている。治療効果は腫瘍マーカーで分かるが、がんが小さくなっているのを画像で見ると、患者さんの治療への意欲につながるという。

もう1つ大切なのは、治療目標(3つのP)を明確にし、どのような治療の選択肢があるのか、治療計画の全体像を、最初に提示しておくことである。それが患者さんに安心感を与えることになるという。

肝臓の転移巣が縮小し治療継続中の症例

[症例9 ベバシズマブ+パクリタキセル療法が効いた患者さん症例]
症例9 ベバシズマブ+パクリタキセル療法が効いた患者さん症例

12月に治療を開始すると、効果はすぐに現れ、腫瘍マーカーの値が下がり、画像検査でも肝臓への転移巣が縮小(下)。ただ、末梢神経障害によるしびれが強くなり、3月にはパクリタキセルを中止し、現在も薬物治療中(なお、ここでは特定の症例を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません)

アバスチン+パクリタキセル療法を行った実際の症例を紹介しよう(症例9)。

患者さんは、2012年現在47歳。03年9月に、他の病院で右乳がんの手術を受けている。術後治療は、抗がん剤のフルツロン()、ホルモン療法剤のタモキシフェン()(一般名)とLH-RHアナログ製剤()を使用し、2年間続けられた。

再発は11年8月で、肝臓への転移が見つかった。再びホルモン療法を受けたが、同年11月には肝臓の転移巣が増大。化学療法を勧められたところで、セカンドオピニオンを受けるため、浜松オンコロジーセンターを受診した。

肝臓の転移巣は6㎝ほどの大きさで、がんが大きくなったことで、右のわき腹が張るという症状が現れていた。

患者さんには治療の目標を説明し、化学療法が必要であることと、抗がん剤の選択肢を示した。その中の1つが、アバスチン+パクリタキセル療法だった。12月に治療を開始すると、効果はすぐに現れた。腫瘍マーカーの値が下がり、画像検査でも腫瘍が縮小していることが確認された。この患者さんは、再発後も治療を受けながら、現在も仕事を続けている。

ベバシズマブとパクリタキセル療法を開始後、肝臓への転移巣が縮少したことが、画像でも確認できる

ベバシズマブとパクリタキセル療法を開始後、肝臓への転移巣が縮少したことが、画像でも確認できる

ただ、パクリタキセルの副作用である末梢神経障害によるしびれが強くなり、3月にパクリタキセルを中止し、現在も薬物治療を継続中である。

フルツロン=一般名ドキシフルリジン
タモキシフェン=商品名ノルバデックスなど
LH-RHアナログ製剤=商品名ゾラデックス、リュープリンなど

高額療養費制度を上手に利用する

アバスチン+パクリタキセル療法は、治療費が高額になる。体の大きさで使用する薬の量が異なり、治療費も変わってくるが、だいたい患者さんの負担額は薬剤費のみでも、月に20万円は超えてしまう(3割負担の場合)。患者さんにとって、経済的に大きな負担である。そこで、ぜひ利用したいのが高額療養費制度だ。自己負担限度額は年齢や所得などにより異なるが、申請することで、負担額は約8万円となり、概算でも12万円の負担軽減となる(70歳未満の一般所得者の場合)。

「高額療養費制度は、みんなが払った保険料で、高額な医療費が必要になった人を助ける制度。自己負担限度額が一定額以上になった場合、認定証などを提示すれば、4月から患者さんは外来診療でも限度額を超える分は窓口で支払う必要はなくなりました。ただし、患者さんに知っておいてほしいのは、その間、誰がその費用を負担しているのかということ。それは医療機関です。国全体として、そういうことも含めてこれから考えていかないといけません」(渡辺さん)

併用できる抗がん剤がもっと広がることに期待

アバスチンは昨年9月に乳がん治療薬として承認されたが、使い方は制限がついている。パクリタキセルと併用することになっているのだ。

「併用薬をパクリタキセルに限定しているのはおかしいですね。アバスチンは大腸がんや肺がん治療でも使われますが、併用薬についてとくに制約はありません」(渡辺さん)

パクリタキセルとの併用は、高い奏効率による症状緩和効果と、無増悪生存期間の延長というエビデンス(科学的根拠)に基づいて承認された。つまり2つのPを達成するのに有用というエビデンスだが、それならばゼローダ()、タキソテール()、ドキソルビシン()(一般名)、それぞれとの併用でもエビデンスがある。

「パクリタキセルを使用していると、十分に効果は得られているのに、末梢神経障害が出てくることがあります。このような場合、早めにゼローダなどに変えられれば、アバスチンの治療を継続できます。患者さんが得るベネフィットを考えても、併用薬をパクリタキセルに限定すべきではないと思います」(渡辺さん)

併用薬に関する制約がなくなれば、乳がんに対するアバスチン治療は、さらに有用なものになると考えられる。患者さんのためにも、そうなることを期待したいものだ。

ゼローダ=一般名カペシタビン
タキソテール=一般名ドセタキセル
ドキソルビシン=商品名アドリアシンなど

(構成/柄川昭彦)


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