悪心・嘔吐から骨粗鬆症まで、やっかいな副作用の乗り切り方 抗がん剤、ホルモン剤治療の副作用と対策

監修:田村和夫 福岡大学病院腫瘍・血液・感染症内科部長
発行:2008年3月
更新:2019年8月

粘膜の再生を待つのが基本

この白血球減少は発熱がなければ患者自身には自覚がないことも少なくない。それとは対称的に、患者に過酷な負担が強いられるのが、口内炎を初めとする皮膚・粘膜障害だ。

これは乳がん治療のスタンダードな薬剤の1つとして使用される5-FUをはじめとする代謝阻害作用を持つ薬剤やアントラサイクリン系、エンドキサンの使用によって発生する可能性がある。なかでも、もっとも発症リスクが高いのが、5-FUとも併用されることもあるメソトレキセート(一般名メトトレキサート)という薬剤だ。「抗がん剤の多くは、がんと同じように分裂が活発な骨髄や皮膚、粘膜細胞にダメージを与えます。皮膚や粘膜は私たちの体を守る大切なバリアーで、破壊されると、白血球減少も相まって、深刻な感染症に見舞われる危険性もあります」

と、田村さんは指摘する。

そうした粘膜障害で、もっともやっかいなのが口内炎だ。症状が重篤化すると口をあけるだけで激烈な痛みに襲われるため、食事がほとんど取れなくなることもあり、そのために十分な抗がん剤治療ができず、がんがさらに進展していくこともあるから問題は深刻だ。

「副作用で粘膜障害が起こっている場合は、治療を中断して、粘膜の再生を待つことが基本になります。ただ口内炎の場合は、摂食障害につながることも多いので、鎮痛剤、時には麻薬を使用して症状緩和に努め、少しでも食べてもらうようにします」(田村さん)

特効薬が見当たらないしびれ対策

また同じ抗がん剤治療による副作用で、最近になってとくに問題視されているのが、しびれをはじめとする末梢神経障害だ。これはタキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)などタキサン系の抗がん剤を用いた場合に、とくに起こりやすい副作用である。

これらの薬剤は、乳がん治療の第一選択として用いられることもあるから要注意だ。

「同じタキサン系の抗がん剤でも、タキソールとタキソテールでは、現われる副作用は異なります。タキソテールの末梢神経障害は軽いが、浮腫が現われることがある。一方、タキソールのほうは急性症状として筋肉痛や神経痛が生じるほか、治療回数が重なるに連れて、手や足の指がじんじんとしびれ、痛みも伴います。感覚がマヒするので、熱いものや冷たいものは素手では触らないようにし、手袋などを利用することも心がける必要があるでしょう」

と、田村さんはこ��副作用について語る。残念ながら、現段階ではこのしびれに対する効果的な対策は見出されていないのが実情だ。多くの場合は、抗けいれん剤やビタミンB12などが使われるが効果は今ひとつだという。また漢方薬が用いられることもあるが、その効果は個人差が大きい。そうした状況から、田村さんはタキソールを使用していて、しびれが強く現われ日常生活に支障がでた場合は、その時点で減量するか治療を中断するという。

そうしたなかで、注目が集まっているのが、現在、日本でしびれなどの治療薬として臨床試験が行われているジメスナだ。現在、第3相試験が行われているが、結論は出ていない。

ホルモン治療にもつきまとう副作用

ところで、こうした副作用が現われるのは、抗がん剤治療だけとは限らない。抗がん剤と比べると、比較的副作用が穏やかだったこともあってか、これまではそれほど問題視されなかったが、実はホルモン治療でも、関節痛や骨粗鬆症などの副作用が現われる。これらの場合の対応はどんなものだろう。

田村さんは対象となる患者が閉経前か後かで、使用される薬剤が異なりまた、副作用の現われ方も違うという。

「ホルモン治療というのは人為的に卵巣機能あるいはホルモン産生を低下させて女性ホルモンを抑える治療です。閉経前の女性にとっては、ホルモンバランスが乱れるため更年期障害に共通するさまざまな症状が現われます。一方、すでに更年期を迎えている人の場合は、もともと女性ホルモンの分泌が低下しているのですから、ホルモン剤の作用も穏やかです。もちろん、そうした人たちにも多様な症状が現われます。もっとも、いずれの場合も対策は共通しており、更年期障害と同じ治療を実施します」

たとえば関節痛では、すでに更年期に達している人の場合には、ホルモン治療の影響もさることながら、加齢によって訪れる変形性関節症の症状であったり、骨粗鬆症の悪化であることも少なくないという。とはいえ、ホルモン治療が原因で関節痛の悪化が考えられる場合は、使用しているホルモン剤の切り替え、消炎鎮痛剤の投与など、状況に応じて柔軟な対策が講じられるという。

最低限知っておきたい副作用のこと

一方、閉経前の患者にホルモン治療を行うと、急激にエストロゲンが低下するため、骨密度が低下し、骨粗鬆症が起こることもある。また閉経後の女性でも、もともと通常より骨塩量が低下している患者の場合には、骨粗鬆症が急激に進むこともある。そうした場合には、ホルモン剤としてアロマターゼ阻害剤を使用している場合には、より骨への影響が小さいタモキシフェンに薬剤が切り替えられ、さらに骨粗鬆症治療薬のビスホスホン酸、骨密度増加に関係するビタミンDが併用されることも多い。

またホルモン治療の副作用として、もう1つ見逃すことができないのが、うつ傾向など精神面の症状だ。これにはどんな方策があるのだろうか。

「症状が重篤なうつ病にまで進んでいる場合は、精神科医の診察により、薬剤の処方やカウンセリングが行われることになる。しかし、症状が軽微な場合は、人に話を聞いてもらうだけでも症状が改善することも少なくない。そのためにも、そうした精神面での不安がある人は緩和ケアチームや相談機能のある医療機関を治療の場として選択することも大切でしょうね」

と、田村さんは語る。

また、こうしたホルモン治療の影響も含めて、副作用を克服するには、患者自身が治療に参加することが重要な意味を持っていると、田村さんはこうも語る。

「最低限でも自分が使用している薬剤の名称と効果、それに副作用の現われ方を理解しておくべきでしょう。人間の心と体は一体のものです。そうした知識があると、副作用による症状が現われても、落ち着いて対処ができる。それがやっかいな副作用を最小限にとどめる力につながっていくのです」

症状が現われたときのために、あらかじめ準備を整えておくことも、大切な副作用対策といえそうだ。

(構成/常蔭純一)


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