乳がん手術後の暮らしとバストケア PART-1

監修・アドバイス:福田 護 聖マリアンナ医科大学外科教授
取材協力:乳がん患者会 虹の会 新樹の会
乳がん体験者 本多由未子
ブライトアイズ・加藤ひとみ、小林光恵
取材・文:池内加寿子
発行:2004年7月
更新:2013年8月

乳房を全摘した場合の痛みの原因と対処法
組織が柔らかくなればやわらぐ

乳房を全摘した方に多い悩みが「胸に鉄板を張り付けたような圧迫感や痛み」です。

「傷は一般に、最初の4~6カ月は縮まって治ろうとします。少しずつ硬くなり、その後半年ほどで柔らかい組織に変わってきます。目に見える皮膚表面の傷は1本だけですし、前面の皮膚は神経がなくなっているため痛みはあまり感じないのですが、内部は乳腺全体に広くメスが入り、神経も残っているため、広い範囲で縮んだり、炎症が起こったり、痛んだりします。そのため、板をあてられたような感覚が1年ほど続くのです」

組織が柔らかくなるにつれて圧迫感や痛みはだんだんにやわらいでいくそうです。

このほか、「胸や背中がピリピリ痛む」、「腕がしびれる」、という悩みも目立ちます。

「脇の下を切ったり、乳腺を全部とる場合、なるべく神経を残しますが、腕にのびる目に見えない末梢神経が切断されると、腕の一部がしびれたり、背中がピリピリすることがあります」

いったん切れた神経の多くは元に戻らないものですが、日常生活にはほとんど影響しないので、だんだんに慣らしていくことも必要でしょう。

腕や肩のリハビリは、入院中からスタート。
リンパ浮腫の予防にも効果的

手術後のリハビリはなるべく早く始めるほうがよい、と福田さん。術後1~2日目に指やひじの曲げ伸ばしから始め、5、6日目には腕を150度、180度と上げていくといいそうです。リンパ節の郭清をした場合は、ドレーン(リンパ液を排出するための管)が抜けるのに6日間くらいかかりますが、注意しながらできる範囲で動かします。

「切除後、血腫ができたために18日間ドレーンを入れて安静にしていたせいか腕が後ろに回らなくなった」という方には「傷は縮まって治ろうとするので、そのときに指や腕を動かさないと、関節の可動域が狭くなり、腕の上げ下げや動作がしにくくなります。リハビリで動かすのが最大の解決法です」とアドバイスします。

「腕を動かすと、リンパ液の流れが促され、傷の治りも早くなり、リンパ浮腫も起こりにくくなります」

リンパ節郭清後は、リンパ液が細々としたバイパスから戻ろうとしますが、手や腕に傷がつくと感染が広がってせっかくのバイパスまで破壊され、リンパ液の帰り道がなくなり、リンパ浮腫の原因になるそうです。

「浮腫予防のために、切除側の腕や手には傷ややけど、日焼けをしないように注意しましょう」 

ガーデニングをするときは手袋をして、虫よけスプレーで虫さされを防ぐ、外出時は長袖を着る��、日焼け止めクリームを塗る、鍋やフライパン、オーブンを使うときはミトンや鍋つかみでやけどを防ぐ、包丁で手を切ったら消毒して軟膏をつける、深爪やささくれを防ぐなどの点に気をつけます。

「テレビを見るときは、椅子のひじかけにクッションを置き、切除側の腕をのせて心臓より高くする、横向きで寝るなら切除側を下にしない、抱き枕を作ってその上に腕をのせる、などの方法も効果的です」

このほか、日常生活の工夫、再建する場合の注意、再発チェックのための自己診断のコツ、再発の見分け方などは次号のPART2でご紹介します。

早めに始めよう!
術後のリハビリカレンダー

手術直後~術後3、4日

イラスト:タオルを握る

じゃんけん

指を大きく動かして、じゃんけんや、指で数を数える動作を。タオルやボールを握るのも効果的。

ひじの曲げ伸ばし

ベッドに横になったままひじの下に枕を置き、ひじの関節を曲げ伸ばしする。
☆コツ 動作はゆっくり。各動作を5~10回ずつ行い、だんだんに1回の動作を増やしていく。食事や歯磨きの動作もよいリハビリに。

術後3~7日

イラスト:腕の上げ下げ

腕の上げ下げ

両手を組んで上に伸ばす動作をゆっくりと10~15回行う。

腕の引き上げ

切除側の手首を反対側の手で握り、ゆっくり上方へ引き上げ、3秒ほど保つ。5~10回繰り返す。
☆コツ ひじと手の運動を行い、肩関節の可動域を広げてゆく。洗顔、髪の手入れ、ドアの開閉などにも積極的にトライ!

退院直後

イラスト:腕の筋トレ
イラスト:肩回し

腕の筋トレ

缶ジュースか、500ml入りのペットボトルを持って、両腕を肩の真上、頭上、腋の下に動かす。
次に、真上から両側に倒し、元に戻す。
両ひじを曲げ、伸ばす。各10~20回を1セットとし、1日2セット。

肩回し

ゴムチューブ(またはタオル)の両端を持ち、ひじを体につけたまま、両側に引っ張る。
☆コツ 腕の筋力トレーニングを少しずつ増やし、徐々に元の生活ペースに近づける。肩関節の可動域訓練も続ける。

術後5~14日

肩と腕の上げ下げ

タオルを背中に斜めがけして両手で持ち、おふろで体を洗うときの要領で、上下に動かす。左右向きを変えて、同様に。

振り子運動

片手を机などにのせて姿勢を安定させ、切除側の腕をたらし、振り子のように前後左右に振ったり、円を描く。

イラスト:ロープ回転
イラスト:壁上り

耳タッチ

切除側の腕を頭上に上げ、反対側の耳をさわる。

ロープ回転

ドアのノブに結んだひもを切除側の手で持ち、ひじ、手首は曲げずに円を描く。だんだんに大きく回し、2、3回繰り返す。

壁上り

壁に向かって立ち、両手を肩の高さに置き、手をゆっくり上げて伸ばす。健康側の手と同じ高さになるのを目標に。

肩の開閉

両手を頭の後ろで組み、両肘を合わせるように寄せ、最大に広げ、3秒保つ。
☆コツ 肩関節の動きをなめらかにする動作を中心に。カーテンの開閉、窓ふき、洗濯物を干す、ネックレスをつけるなどの動作も効果的。


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