心不全などの心血管の副作用に気をつけよう! 乳がんによく使われる抗がん薬

監修●遠藤彩佳 東京都済生会中央病院循環器内科副医長
取材・文●がんサポート編集部
発行:2023年9月
更新:2023年9月


アントラサイクリン系薬剤と抗HER2薬に関連する心血管毒性とは?

アントラサイクリン系薬剤で代表的なアドリアマイシンやファルモルビシン(一般名エピルビシン)による心血管毒性は、用量依存性かつ累積的経過をたどると言われています。

「つまり合計投与量が多くなればなるほど発症リスクが高まりますので、心血管毒性累積限界投与量を超えないよう常に用量をモニタリングし、必要最低限度に止めるよう投与量には常に配慮が必要です」と遠藤さん。

また、発症すると不可逆的(元に戻らない)心筋障害が多いですが、早期に心臓治療を開始することで可逆的になることも多と言われています。多くが投与開始1年以内に発症しますが、初期は無症状で経過するため、アントラサイクリン系薬剤使用中は前述した心血管評価を定期的に行い、心血管毒性の早期発見、早期治療に努めることがとても重要になるそうです。

「抗HER2薬で代表的なハーセプチンやタイケルブ(一般名ラパチニブ)は、累積投与量とは関連ない用量非依存性ですが、無症候性が多く投与開始から6カ月以内に発症するケースが多いため、同様に心血管評価を定期的に行い、より早期発見に努めることが重要です。

アントラサイクリン系薬剤と違い基本的には可逆性心筋障害と言われていますが、なかには不可逆的になるケースもあり楽観視できません。また、アントラサイクリン系薬剤と併用することで、さらに心血管毒性の頻度が増すためとても注意が必要です」(図6)

遠藤さんは、患者さんから「がん治療をしているのに、心臓が悪くなるってどういうことですか?」とよく聞かれるそうです。

「乳がん治療には一定の確率で心血管毒性のリスクがあることを患者さんと共有できれば、より早期に発見し早期治療に繋げることができます。がん治療の中断も回避できるため、お互い安心してがん治療に臨むことができると考えます。そういった意味でも患者さんが、がん治療の心血管毒性について知識を持つということは大切だと思います」

がん治療中に心血管毒性を発症してしまったら?

「血液検査で心筋バイオマーカーの上昇や心電図変化、心エコー検査で心筋障害の兆候を認めたら、心血管毒性を疑います。重症度に応じて、アントラサイクリン系��剤や抗HER2薬の継続の可否、心血管毒性の低い代替治療(2nd line)への変更の必要性につき早急に腫瘍専門医と協議します。

心臓に対する治療も開始しますが、薬物療法が基本で心筋保護薬(β遮断薬、ACE阻害薬/ARB剤)や必要によっては利尿薬などを併用して通常の心不全治療を開始します」(図7)

心血管毒性を見逃さないためには?

がん診療において重要なことは、治療にあたる腫瘍専門医とメディカルスタッフ、治療を受けるがん患者さんに、まずはがん治療における心血管毒性について広く認識して頂くことだと思っています。そして、各施設で腫瘍専門医、循環器専門医、メディカルスタッフでのチーム医療の連携を強化することが心血管毒性を見逃さないために重要です。

「日々、がんと闘っている患者さんが、心血管疾患を発症することでがん治療が余儀なく中断され、その結果、予後にも影響を及ぼしてしまうことは、循環器内科としてもつらいことです。小児がんやAYA世代のがん患者さんではとくに、心血管疾患を抱えながらその先の長い人生を過ごさなければならなくなりQOLが低下します」と遠藤さん。

「我々循環器専門医は、日常臨床でがん治療に直接関与する機会が少ないこともあり、がん治療の中心的存在である腫瘍専門医と積極的にコミュニケーションを取り、いつでも迅速対応できるようサポート体制を構築することを心がけたいと思います」(図8)

東京都済生会中央病院では、2009年から国立がん研究センター中央病院とがん研有明病院と公的病診連携を結び、両病院のがん患者さんの循環器診療を積極的にサポートしています。

「私自身、がん患者さんの心血管疾患を診る機会が多くなり、こんなにも多くの患者さんが、がん治療をきっかけに心血管に影響を受けているのか実感しています」

最後に遠藤さんに、がん治療前やがん治療中に循環器疾患や心血管毒性に対し不安を抱いたとき、どのようにすればよいのかをお聞きしました。

「がん患者さんも、事前に自分が使用する抗がん薬の副作用について知っておくことが大切だと思います。不安に思うことがあれば、腫瘍専門科だけでなく循環器科にも相談するのが良いかもしれません。早期発見早期治療を心がけ、心血管毒性でがん治療が中断されることなく安心してがん治療に臨んで欲しいと切に思います」

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