脱毛ケア:国立がん研究センター中央病院で取り組んでいる、ウイッグもいらない頭皮冷却法とは? 化学療法中の脱毛は防げる!? 頭皮冷却法に期待
頭皮を一定温度で冷やす

外来化学療法を行う通院治療センターに設置されたイギリス製の装置は、キャップの内側にあるシリコンチューブの中を、一定の温度に冷やした液体が環流し、頭皮を常に冷却し続ける仕組みだ。
患者さんは、抗がん薬投与の30分前から冷却キャップをかぶって頭皮に密着させ、投与後も2時間半は冷却し続け、温度も16度Cにキープする。密着度を高めるため、患者さんは事前に髪を少し水で濡らしておく(図3)。
なお抗がん薬投与中だけでなく、投与前後にも冷却するのは、毛根細胞への抗がん薬の影響を極力少なくするためだ。また、施行中にトイレに立つときは、看護師や薬剤師の手を煩わすことなく、患者さん自身がコネクターをはずすことができ、その場合でも冷却は維持できるという。
化学療法中でも安全にできる
木下さんは、看護師、薬剤師とチームを組み、ステージⅠ、Ⅱの乳がん患者さんを対象に、術後化学療法として3週ごとに4回(4クール)行われるAC療法の1時間、またはTC療法の1時間半の投与中とその前後の4~4.5時間程度、頭皮冷却を行い、最終的に40名の結果を考察することにした。
既に終了した21名のデータは中間報告として、昨年の日本癌治療学会で発表している。
「頭皮冷却法を行った患者さんにアンケートを行ったところ、7~8割の方が『今後、抗がん薬治療を受ける人の脱毛予防のために、頭皮冷却を推奨する』と、答えています。途中で冷却を中止したのは2名だけで、1人は寒さ、もう1人はキャップが窮屈という理由でした。現在までに凍傷等の重篤な有害事象はなく、化学療法中でも安心して行うことができると考えられます」
冷却し始めに、かき氷を食べたときのようにキーンと頭痛がするが、数分でおさまるそうだ。寒さや足下の冷えを防ぐため、電気毛布やネックウォーマーを用意し、各自自由に使って、寒さ対策を施している。他にも、患者さん自ら、キャップを固定するベルトがあごにあたって痛いなどの理由で、スポンジをその部分にはさんで工夫するなど、改良にも協力しているという。
一方、欧米では、頭皮冷却装置を使用した患者さんで、頭皮にがんが転移している例が報告されてい��。ただし欧米の場合、進行している患者さんに対しても頭皮冷却装置を使用していること、またそもそも、頭皮への転移と、頭皮冷却との因果関係も定かではないという。
なお、今回木下さんが頭皮冷却装置を取り入れている患者さんは、再発リスクの低い人が対象。現時点で、頭皮転移の発生は皆無だ。
脱毛予防効果にも期待

AC療法、TC療法を行っている場合、通常なら3週目から脱毛が始まり、化学療法終了後には完全脱毛になるというが、頭皮冷却した場合の脱毛予防の効果はどうだろう。
WHOの分類による脱毛の程度は、グレード0がまったく脱毛がみられない、グレード1が微量の脱毛、グレード2が中程度の脱毛、グレード3はウイッグが必要な程度の脱毛、グレード4が完全脱毛となっている(表4)。
木下さんは、化学療法終了後、4~6週の時点で患者さんの頭部を観察したところ、AC療法を行った11人中5人(45%)にウイッグが必要ない程度の脱毛予防効果がみられた(グレード1が3人、グレード2が2人)(表5、写真6)。また、TC療法では、10人中1人が途中でホルモン療法に変更し、その人を除くと、9人中6人がグレード1、2で、67%に有効だった。


「通常なら完全脱毛が起こるAC療法、TC療法ともに、頭皮冷却により半数以上に脱毛予防効果がみられました。まったく脱毛しないわけではありませんが、毛髪の再生も早い印象があり、家庭ではウイッグなしで過ごし、外出時は、安価な部分ウイッグでのカバーも可能だと思います」
まだ臨床試験中ということだが、脱毛予防効果も期待できる結果だったといえそうだ。
今後についてはどのように考えているのだろう。
「引き続き、患者さんの声を聞き、冷却法の改良点も吟味しながら、臨床試験を継続していく予定です。このデータをもとに、この装置が医療機器として認可され、乳がんだけでなく、化学療法を行う一般の患者さんの脱毛予防に広く使えるようになることを期待しています」
現在、この頭皮冷却装置を用いた臨床試験は続行中だが、対象となるのは原則として、同センターで治療を受けた患者さんとなる。頭皮冷却を希望する人は、同センター中央病院の相談支援センターに問い合わせを。