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インプラント乳房再建の保険適用から1年 根治性と整容性(美容性)の両立が課題

監修●土井卓子 湘南記念病院かまくら乳がんセンター長
取材・文●町口 充
発行:2014年10月
更新:2020年1月


大事な形成外科医とのコミュニケーション

土井さんによれば、根治性の追究と整容性の追究とはそもそも相反する課題で、根治性を下げずに最大限の美しい乳房再建を実現するのは、簡単なことではないという。

では、どうしたらいいかというと、何より技術を習得した専門医による手術であることが大前提。その上で大切なのは、乳腺外科医が1人ひとりの患者さんの手術について形成外科医と十分にコミュニケーションが取れているかどうかだ、と土井さんは語る。

がんの切除手術は土井さんのような乳腺外科医が行い、再建する手術は形成外科医が行う。皮膚を厚く残すとがんの取り残しが多くなるので、乳腺外科医としては取り残しがない手術をしたい。

一方で形成外科医はきれいに再建するため、できるだけ皮膚を厚く残してほしいと注文してくる。その接点がどこにあるかを議論し、しっかりと確認し合うことが重要、と土井さんは指摘するのだ。

「私は主として皮下乳腺全摘を行った上で再建していますが、皮下乳腺全摘にするか乳房切除にするかどうかは、がんの広がりによって決めています。乳頭の中にがんが入っていそうだったり、あるいは皮膚の浅いところまでがんが広がっている場合には、そこの皮膚をとるようにしているので乳房切除を行います。がんが皮膚にあまり悪さをしていないようなら、皮下乳腺全摘にして、乳輪、乳頭も残し、メスでできる傷も、乳房の下のほうの見えないところにつけるようにしています。そうすると再建したあとに見えなくなりますからね」

最近はMRIなどで立体的な診断ができるようになり、どういう手術をするかの計画が立てやすくなった。また、手術中の迅速診断で取り残しがないかどうか速やかに確認できるようになっている。

「だから、MRIなどでがんの広がりを見て、皮膚の浅いところまでがんがある人は、たとえ再建したときの出来上がりの形がちょっとおかしいと思っても、そこの皮膚は薄く剥くし、逆にがんがないところは皮膚を厚く剥いて脂肪も残すとか、形成外科の先生と最終的に煮詰めて、どういうふうにして再建するかをディスカッションしています。そうすれば、必ずきれいな乳房ができます(図2)。

乳房全摘というときでも、形成外科の先生にどういう形に切ると再建しやすいかをあらかじめ聞いて、先にデザインもしてもらって手術したりしています。そんなことは考えずに、無神経に何でもかん��も同じ手術をしていると、出来上がった乳房も形は悪いし、がんの取り残しも多い、ということになってしまいます」

図2 皮下乳腺全摘と乳房再建症例

乳房温存より全摘+再建を選ぶ?

ところで土井さんは全摘手術を行うのと同時にエキスパンダーの挿入・留置を行っているが、その理由を次のように語っている。

「全摘手術が終わってしばらくしてからエキスパンダーを入れるとなると、皮膚が癒着したのを剥がして入れることになって大変だし、きれいな形に伸びにくくなります。癒着する前にエキスパンダーを入れて伸ばしてあげたほうが、皮膚が伸びやすいし形もきれいになるという利点があります」

とくに、放射線治療を受けたあとは皮膚が硬くなって伸びにくくなるし、無理にエキスパンダーを入れて皮膚が破れたり、感染を起こして皮膚が赤くなったりすることが多いので、放射線治療後のインプラントによる再建はあまり勧められない、と土井さん。

放射線治療が必要という人は、早めにエキスパンダーで皮膚を伸ばしてからシリコンに入れ替えて、その後に放射線を受けましょう、と患者さんに話をしているという。再建後に放射線照射しても、エキスパンダーやシリコンが壊れたりすることはなく、安全であるとのコンセンサスが得られているという。

また、保険適用が実現したことで、今後は乳房温存手術を受けるよりも全摘+再建手術を選択する人が増えるかどうかについては、土井さんはこう話す。

「その人の乳房に対する価値観の問題が大きいと思います。患者さんの中には、温存手術によって乳房が変形してしまっても、がんのない自分の組織を残せたのならそのほうがいいという人もいます。
そうかと思うと、温存手術を選択して、こんなにへこんじゃってこれじゃ温存じゃないと恨む人もいて、乳房に対する価値観は人によって違うし、年齢によっても、家族との関係によっても違ってくるようです」

よい医師選びのアドバイス

では、よい医師を探すにはどうしたらいいか。

保険適用となるインプラントによる乳房再建手術は、どの医療機関でもできる手術ではなく、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が実施施設として認定した医療機関に限られている。認定の要件は、講習会を受講した乳腺外科医と形成外科医の双方が勤務する医療機関、となっている。

しかし、講習会を受けただけでちゃんとした手術ができるのかは疑問。実際、経験の乏しい外科医が見よう見まねで再建手術を行うケースもあるという。年間どれだけの手術実績があるのか、中でもインプラント手術の実績がどれだけあるのか、形成外科の専門医といっても顔とか指、あるいは美容が専門だったりすることがあるので、乳房を専門とする形成外科医なのかどうか、などを確かめた上で医療施設、医師を選びたい。

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