パラメディカルピグメンテーションで、失われた乳頭乳輪や眉毛を再現
施術時間は、全部で1時間半ほど
パラメディカルピグメンテーションは、次のようなプロセスで行われる(図5)。

①カウンセリング……まず、希望や悩み、仕上がりのデザインイメージを聞き、安心して施術を受けられるように説明し、疑問点に答える。
②麻酔……痛みを軽減するために、眉毛ならクリーム状の皮膚麻酔、乳頭乳輪なら注射による局所麻酔を行う。
③デッサン……カウンセリングに基づき、乳頭乳輪なら手術をしていない健側に合わせて(両側の場合は、希望の色や形に沿って)、眉毛なら元の眉毛を基本としてデッサン(デザイン)する。
④施術……専用マシンの針先に色素を入れて、皮膚に微細な傷をつけ、同時に色素を注入していく(写真6)。乳頭乳輪なら通常2~5色をブレンドし、グラデーションをつけるなど、様々なテクニックを駆使して自然な仕上がりにする。施術時間は、部位にもよるが、乳頭乳輪(片側)なら約15分~30分、眉毛(両側)は30分程度。
⑤クーリング……施術後の傷の状態は、肌質や体質によって人それぞれであり、施術終了後は、患部を冷却(クールダウン)して休ませる。
⑥アフターケア……施術後の状態をチェック。帰宅後のケアの説明などを行う。

以上のプロセスにかかる時間は、全部で1時間から1時間半程度。とくに入院など必要はなく、施術後はすぐに帰宅できるという。施術中に痛みはあるのだろうか。
「施術前に眉にはクリーム状の皮膚麻酔、乳頭乳輪には局所麻酔を用います。眉のほうは毛抜きで抜くときの痛みと同じように感じるという方もいます。乳頭乳輪は、痛みを感じることなく終了しますが、麻酔が切れた後���、多少の痛み、腫れ、赤味が起きることもあります。
施術後は、患部をすり傷と同じように考えて刺激を避け、感染予防のために、公衆浴場や当日の入浴、シャワー、強い摩擦などは避けてもらいます。施術後5日間程度は、自宅でステロイド軟膏を塗っていただいています。かさぶたができたら、無理にはがさないようにしましょう。施術後約1週間で、施術時より色も薄くなって、全体に落ち着いてきます」
1回の施術でもよいが、発色などには個人差があるため、当クリニックでは3週間以上の期間を空けて2回目の施術を行い、色の調整をすることを勧めている。その後のメンテナンスとしては、個人の希望によってまちまちで、施術後1~数年後、色が薄くなってきたときに、再度色を加えることも可能だ。
なお、健康保険は適用されないため、施術費用は自費となる。クリニックによって費用が異なるが、同クリニックでは乳頭乳輪(片側)の場合、2回の施術で合計6万円、眉(両方)の場合も同様に、2回の施術で7万円の費用となっている。
がん治療中に施術を受ける際の注意点
「パラメディカルピグメンテーションは、基本的にはごく安全な施術ですが、次の点には注意が必要です」と小関さん。
①服用中の薬や体質を伝える
服用中の薬剤や体質などで傷跡が治りにくい場合があるので、事前に主治医に相談しておくとよい。アレルギーが心配な場合は、パッチテストを行い、48時間変化がないかチェックして、影響がなければ施術できる。
②放射線治療中は避ける
放射線治療を受けている場合は、乳房に直接放射線が当たるので、施術は避ける。
③MRI検査はOK
従来のタトゥの場合は、色素に含まれている酸化鉄がMRIの磁気に反応して熱傷になる危険性が指摘されていた。
「一方、パラメディカルピグメンテーションで用いる色素は、酸化鉄の含有量がごく微量であること、また、動物実験などの研究結果では、MRIの磁気が強い場合でも、熱傷は起こらないと報告されているので、心配はありません。施術後、定期検診でMRI検査を受けていただいても大丈夫です」
④抗がん薬、ホルモン療法中でもOK
抗がん薬治療中は、免疫力が低下して感染の心配が出てくるが、小関さんは、「抗がん薬治療で免疫力が下がるのは投与後1~2週間の限られた期間であり、最近では免疫力の低下を抑える良い薬もあるので、治療中に施術を受けても通常は心配いりません」とアドバイス。ホルモン療法も同様だという。
抗がん薬治療によって眉毛の脱毛が予想される場合は、抗がん薬治療前に、眉毛に沿って施術をすると、実際に脱毛した後も自然なイメージで仕上がる。眉毛も頭髪同様、抗がん薬治療が終われば再度生えてくるが、毎日のメイクが煩わしい方や、抗がん薬治療を継続して行う場合などには、施術をしておくのも1つの方法だ。
患者も知っておきたいQOLアップの技術
2013年にシリコン・インプラント(人工乳房)による乳房再建術が保険適用となったことなどを受け、再建手術を受ける人が急速に増え、それに伴って乳頭乳輪の再建を希望する人も増加している。ところが、乳腺外科医の中でも、パラメディカルピグメンテーションについて知っている人はまだ少ないという。
「パラメディカルピグメンテーションで、身体への負担も少なく、きれいに乳頭乳輪を再建できることを乳腺外科医が知らないと、当然患者さんにも教えることができません。乳房再建に関わる形成外科医はもちろんのこと、乳腺外科医にも、パラメディカルピグメンテーションについて知っていただき、希望する患者さんに『こういう方法があるよ』と伝えていただきたいと思っています」
パラメディカルピグメンテーションを取り入れている医療機関はまだ少ないが、徐々に医療者の認知度も高まっているという。今後は、エビデンス(科学的根拠)の構築にも努めていきたいと小関さん。患者としてもぜひ知っておきたい情報と言えるだろう。