1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳房再建
 

ヒト由来の人工皮膚使用で1次1期乳房再建が可能に! ダビンチSPで日本初の乳頭乳輪温存皮下乳腺全切除術

監修●宇山一朗 藤田医科大学先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授
監修●喜島祐子 藤田医科大学乳腺外科教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年11月
更新:2024年11月


海外ではなぜ1次1期再建が主流なのですか?

「海外での再建方法は、人のご遺体から作った医療用の人工皮膚(ヒト由来人工皮膚)を使用するからです。その人工皮膚でシリコンを包み直接皮膚の下、つまり本来切除した乳腺組織があった場所に入れて乳房の再建を行います。皮膚に何かトラブルがあっても、下は人工皮膚なので問題はありません。この方法ですと手術は1回ですみますし、乳がんの手術と同時に乳房再建ができるため、乳房喪失感を感じることもありません。また、乳房再建は40〜50代の方が希望されることが多いのですが、その年代の方はまだお子さんに手がかかるとか、ご自身も社会的活動が活発な時期ですから、1回の手術で再建までできるメリットは非常に大きいと思います」

1次2期再建は2回の手術が必要なことと、筋肉の一部を切って大胸筋の裏を剥がしてエキスパンダーを挿入するため、痛みが強いという難点もあるそうです。

残念なことに、日本ではヒト由来の人工皮膚は医療用として承認されていません。なのに、今回どうして使用できたのでしょうか。

「ヒト由来の人工皮膚は海外では医薬品として認められていて、世界中で使われているものですから、日本の薬機法では未承認でも、医師の責任下に医療行為として使用することは医師法上は何ら問題ありません。ですから3、4例目の方は1回で終わる手術を希望されたため、私が個人輸入しました」

ヒト由来の人工皮膚は海外では医薬品として承認されているものなので、未承認の抗がん薬が個人輸入によって日本で使えるのと同じ道理です。

「この人工皮膚はご遺体から作られていることや、個人輸入のためのリスクがあることについても丁寧に説明して、同意を取った上で行いました。もちろんメリット、デメリットがあるわけですが、十分に理解したうえでご希望される方にこの術式を行っています」

ただこの人工皮膚は日本では未承認のため、患者さんは自費診療になります。

「日本では混合診療が認められていないため270万円くらいかかるのですが、今回は病院も初めて行う手術なので、最初の5例までは患者さんが健康保険で受ける手術と同額の低額自費診療医療で行うことにしました」

5例目の方も同じ方法を希望されていて、今のところ4例は十分安全に行われていてまったく問題はな��ため、6例目以降は高額ではありますが実費に沿った自費診療で行うとのことです。

日本での医薬品や医療用機器の承認は、まず企業がPMDA(医薬品や医療機器などの承認審査なども行う独立行政法人)に承認申請を行い、承認審査となるのですが、ヒト由来人工皮膚はまだ承認申請はされていません。

「我々が個人輸入を依頼している会社の代理店が日本にも存在します。また、安全性に関する海外データもあるので、いずれは承認申請がされると思います。ただ、日本の医師がこの製品を使用することにあまり積極的ではありません」

乳がんのロボット手術への承認は?

ダビンチSPは2023年1月に薬事承認され、消化器、胸部、泌尿器科、婦人科、頭頸部に使えますが、乳がんや甲状腺がんにはまだ承認されていません。

「しかし、ついこの間、ダビンチXiを乳腺領域に使用することに関する薬機法の承認がおりました。手術支援ロボットを乳腺領域に使うことへの安全性を国が認めたわけです。それで、日本乳癌学会も本腰を入れてロボット手術を保険収載させようという動きがあって、今その準備をしているところです」(図4)

乳がんのロボット手術は、これまで亀田総合病院がダビンチXiで行っています。

「ですから正確にいうと、日本で乳がんのロボット手術を初めて行ったのは亀田総合病院ですが、ダビンチSPで行ったのは当院が最初になります」

国立がん研究センターでも2024年4月、頭頸部がんにダビンチSPを用いた手術を初めて行い、今後は乳腺など狭い領域の手術を実施していくと発表しています。

「当院ではまだ4例ですが、患者さんの満足度が非常に高い手術です。これまでの手術なら10㎝くらい切らないといけないのですが、ダビンチSPなら3.5㎝の切開ですむので、痛みも少ないです。ですから、乳がんの手術もダビンチSPでこれから実績を積んで、患者さんにとって本当によい手術と判断できれば、健康保険で受けられるように国に認めてもらうようにすべきです」

乳頭乳輪温存はロボットのほうがより可能性は高い?

「ロボット手術だからといって、腫瘍が乳頭乳輪の間際にあるものまで温存できるわけではありません。あくまでも乳がんの進行度と腫瘍の場所によって、乳頭乳輪温存手術ができるかどうか決まります。ですから普通の手術で乳頭乳輪温存の適応があれば、ロボットでも適応になるということです」

ロボット手術なら、乳頭乳輪温存の適応が広がるということではないとのこと。

「温存手術の適応となれば、通常手術とロボット手術の選択肢がありますが、ロボット手術のほうが傷が小さく繊細な操作が可能なので、ロボット手術をお勧めします。実際、海外データでは皮膚壊死が発生する確立が低くなっています。よって、ロボットを使うことにより手術のクオリティが高くなることはまぎれのないことです」と宇山さん。

「乳腺切除と再建が同時に1回の手術でできるという選択肢が増えることは、患者さんにとって朗報です。ヒト由来の人工皮膚と共に、ロボット支援下乳頭乳輪温存皮下乳腺全切除術が早く承認されることが待ち望まれます」と喜島さん。

乳房再建率は韓国53.4%、米国40.0%などと比較して日本は12.5%と低いものの、体の負担も少なく整容性にも優れているロボット手術を、しかも1回で受けられる日が早く来ることを期待したい。

1 2

同じカテゴリーの最新記事