Ⅳ(IV)B期および再発子宮頸がんの化学療法とサイバーナイフ
アバスチンの追加併用は、副作用と治療費に問題点
そう前置きした上で、鈴木さんは「アバスチンには2つの問題がある」という。
「まず1つは毒性の問題です。今回の臨床試験でアバスチン併用群に多く見られた有害事象は、出血、血栓塞栓症、消化管瘻(消化管に穴が開くこと)、泌尿生殖器瘻などです。ただ、いずれも10%未満であったため、安全性に関しては大きな問題点はないとされました。
ところが別の試験では、尿管や膀胱の瘻孔が10.6%あり、アバスチンを使わなかった群よりも5倍近く多かったという報告があります。Ⅳ(IV)B期及び再発子宮頸がんの患者さんは、すでにCCRT(同時化学放射線療法)などを受けていることが多いのです。アバスチンの副作用で尿管の瘻孔が生じると、患者さんが尿漏れを起こしてしまうことになり、QOLを大きく低下させることになります。
もう1つは、治療費の問題です。分子標的薬はいずれも高額ですが、アバスチンもしかりです。患者さんの負担が大きいだけでなく、わが国の医療費も膨大になります。社会的負担とのバランスを考慮し、この治療が本当に必要な患者さんに提供されるよう、慎重に対応していくべきなのではないかと私は考えます」
このほかの化学療法については、胃がんや膵がんで有効性の高い経口薬である*TS-1+シスプラチンの併用療法や、*アクプラ+*トポテシンの併用療法などが、今後、有効な治療法となる可能性があるという。
患者にとって、QOLを良好に保ち、少しでも生命予後が延びる薬物療法の選択肢が増えることは、福音となるはずだ。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *アクプラ=一般名ネダプラチン *トポテシン=一般名イリノテカン
がんだけに放射線を集中照射「サイバーナイフ」

一方、Ⅳ(IV)B期や再発子宮頸がんの局所制御治療として、今後期待できるかもしれないのがサイバーナイフだ(写真4)。新百合ヶ総合病院では、サイバーナイフによる治療を行っている。
「サイバーナイフはもともと米国の脳神経外科医師が開発したものです。日本に導入された1997年当初は、頭蓋骨の位置を確認し、頭頸部病変との位置関係を追尾していたので、治療の対象となる部位は脳や頭頸部のみでした。肺は常に呼吸運動をしていますし、消化器系の臓器も蠕動運動をしていますから、体幹部の病巣に対して的確に照射するのは難しいとされていたのです。
しかしその後、治療のときに頭蓋骨だけでなく脊椎や金属マーカー(照射する患部の近隣に埋め込む)など体幹部を正確に認識して病変を追尾する機能や、呼吸に同期する追尾機能が加わり、治療計画ソフトも次第に高性能に改善されました。サイバーナイフの性能が向上したと同時に、画像診断ソフトも高性能になったため、日本国内でも2008年から肺、縦隔、肝臓など体幹部への健康保険での治療が認められました。現在では、体幹部の治療が6~7割を占めています」
そう話すのは、同院放射線治療科サイバーナイフ治療部長の宮﨑紳一郎さんだ。サイバーナイフが体幹部にも対応できるようになったのは、X線ビームを照射するロボットアームの可動が自由になったことや、ズレが生じた場合でも自動的に修正が行われる追尾システムが備わったことなどがあげられる。
局所の腫瘍を制御し 患者のQOLを維持する
サイバーナイフを使った治療で保険が適用される部位は脳、頭頸部のほか、5cm以下の原発性肺がんや肝がん、3個以内の転移性の肺がんや肝がん、脊髄動静脈奇形。それに今年(2016年)の4月から前立腺がんも対象となった。この他のがんでの保険適用はないが、治療は対応できる。
同院では、脳腫瘍、頭頸部がんのほか、消化器、呼吸器、リンパ系腫瘍、転移骨病変、さらに卵巣がん、子宮がんの骨盤内再発や腸骨周囲のリンパ節転移などでも、適用を慎重に判断し、サイバーナイフ治療を実施している(写真5)。2012年8月から2014年12月までの症例数は、リンパ節転移(748例)や疼痛を伴う骨転移(719例)への治療が最も多い。これは、サイバーナイフが局所の腫瘍の制御(コントロール)に適していることを現している。

宮﨑さんのもとには、大学病院などでの治療後、再発してしまった患者が紹介によって日々訪れる。
「サイバーナイフは病変の種類や大きさ、部位、症状によって大線量1回照射、何日かにわたって照射する分割照射も可能です。従来の放射線治療は、治療終了までに最長2カ月が必要になるケースがあるのに対し、サイバーナイフは数回~10回で終了することがほとんどです。苦痛を伴わず、ピンポイントで病変を治療できるのですから、患者さんのQOLを維持することも可能といえます」
現在、サイバーナイフが実施できるのは、全国で約30施設。治療費は定位放射線治療に対する保険適用の場合、1回約63万円となっている(3割負担で約20万円)。
同じカテゴリーの最新記事
- 1次、2次治療ともに免疫チェックポイント阻害薬が登場 進行・再発子宮頸がんの最新薬物療法
- AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す
- 第75回日本産科婦人科学会 報告 ~慈しみの心とすぐれた手技をもって診療に努める(慈心妙手)が今年のテーマ~
- HPV9価ワクチンが定期接種に! 子宮頸がんはワクチン接種で予防する
- 自己採取HPV検査とHPVワクチンの持続感染予防効果を検討 〝子宮頸がん撲滅〟を目指す2つの臨床研究~福井大学
- 定位放射線療法を併用した臨床試験も進行中 子宮頸がんの化学放射線療法
- 受診率アップのためには若い世代への意識付けが肝要 大学生に対する子宮頸がん検診啓発活動を実施~福井県
- 世界80カ国以上でHPVワクチンは定期接種に 子宮頸がんは、検診とワクチンで予防できる!
- 子宮体がん、子宮頸がんにおけるダヴィンチ手術の現状と今後 子宮体がんがダヴィンチ手術の保険適用に