自己採取HPV検査とHPVワクチンの持続感染予防効果を検討 〝子宮頸がん撲滅〟を目指す2つの臨床研究~福井大学

監修●知野陽子 福井大学医学部器官制御医学講座産科婦人科学領域助教
取材・文●植田博美
発行:2020年7月
更新:2020年7月


<HPVワクチンの持続感染予防効果の検証>
HPVワクチンに〝持続感染予防効果〟があるかを調べる

子宮頸がんを予防する方法として、検診とともにWHO(世界保健機関)が推奨しているのがHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)だ。現在、世界90カ国以上で国の予防接種プログラムとして導入されており、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることも報告されている。

現時点で日本において承認され接種できるHPVワクチンは2種類。子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型に対する2価ワクチンと、16型・18型に加えて尖圭(せんけい)コンジローマの原因となる6型と11型に対する4価ワクチンだ。これらのワクチンで子宮頸がんの60~70%を予防できると考えられている。

ワクチンはHPV感染を予防するためのもので、すでにHPV感染している細胞からHPVを排除する効果はない。このことから、接種の時期は初めての性交渉を経験する前の10代前半が推奨されている。日本でも自治体によって多少の違いはあるが、概ね小学6年生から高校1年生の女子が無料接種(計3回)できる。この年齢を過ぎると費用は自己負担となり、3回の接種で計4万5,000円以上かかる。

感染前の若年者への接種が推奨されているHPVワクチンは、26歳まではその効果が証明されているという。そこで同科では2019年から、27~45歳の女性に対するHPVの持続感染予防効果を評価する臨床試験「HAKUOH Study」を開始している。

「HPV感染後に自然消失せず、ウイルス感染が長期間続くケースがあります。HPVワクチンにこの〝持続感染〟を予防する効果があるかどうかを調べます。福井県の子宮がん検診で細胞診が正常だった27~45歳の女性に、ガーダシル(4価HPVワクチン)を接種してもら���、24カ月後に細胞に異常がないか検査します。未婚・既婚・妊娠歴は問いません。2021年までにワクチン接種群600人を目標に実施する予定です」と、知野さんは説明する。

「海外では、この年代の女性を対象にワクチン接種を行った2つの報告があります。1つは、2価ワクチンを3回接種した26~45歳の細胞診正常者において、HPV持続感染に対して約80%の予防可能効果が証明されたというもの。もう1つは、24~45歳の女性に対する4価ワクチンの効果を確認するランダム(無作為)化比較試験で、持続感染率と前がん病変率に予防効果が示されました。どちらの報告も日本を含まない多国籍のデータなので、日本での臨床試験は初めてとなります」

日本でも良好な報告になることを期待したい。

ワクチンで予防できるがんは子宮頸がんのみ

HPVワクチンについては、日本では2010 年度から HPV ワクチン接種に対する公費助成が開始され、2013年4月に予防接種法に基づき定期接種化された。しかし、接種後に“多様な症状”が生じたとする報告があり、わずか2カ月後に自治体による積極的な勧奨は控えられている。

しかし、こういった多様な症状はHPVワクチンの接種歴のない方にも一定数存在していることが調査で確認されており、また、症状については早期治療の介入により軽快することが多い。

「実際に症状が出たという方には真摯(しんし)に向き合っていきたいと思います。もし私に娘がいれば、HPVワクチンを受けさせたいと思っています。

日々の診療の中で、子宮頸がんで亡くなられる方、手術後の合併症に苦しむ方、自分の命と引き換えに妊娠を諦(あきら)めざるを得なかった方、子宮頸がん検診で早期発見でき、部分切除により子宮が温存できても、妊娠したときには切迫早産で長期入院の上早産になってしまった方、こういった患者さんをみていると、HPVワクチンを打っていれば・・・と悔やまれます」

「がんの原因がここまではっきり証明されていて、かつワクチンで予防できるがんは子宮頸がんだけです。がんをワクチンで予防できるのは、実はすごいことなんです」と、知野さんはワクチンの有用性を説く。

「現在、日本では高校1年生までの定期接種が積極的に行われていない状況です。この時期に接種できなかった女性が大人になったとき、つまり自分の意志でワクチンを接種できるようになったときに、果たして効果があるのか。『HAKUOH Study』でそれを調べる意義は大いにあると考えます。それに、この世代の女性がワクチンを接種することにより、その女性の娘さんにも勧めてくれるのではないかという期待もあります」

海外ではワクチン接種率も検診受診率も高い国が増えている。オーストラリアでは、2028年には世界に先駆けて新規の子宮頸がん患者がほぼゼロになるというシミュレーションが発表された。世界全体を見ても、HPVワクチンと検診を適切に組み合わせることで21世紀中の排除が可能だと言われている。

「このままだと子宮頸がんは日本だけの疾患になってしまうかもしれません」と、知野さんは懸念する。

「HAKUOH Study」も「自己採取HPV検査」も、子宮頸がん撲滅という長年の夢に向けて同科の黒川哲司准教授が計画した臨床研究で、これを福井大学産科婦人科学教室では一丸となって取り組んでいる。

「HPVワクチンによる一次予防と、子宮頸がん検診による早期発見・早期治療の二次予防で、子宮頸がん撲滅は叶えられない夢ではないはず。先は長いですが、活動を続けていきたい」と、知野さんは述べている。

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