手術後に妊娠・出産もできる子宮頸がんの子宮温存治療
1a期までなら治癒率は90%以上
手術で切り取った組織は、16切片にして病理検査を行います。がん細胞がきれいに内部に納まっているかどうか、ほんとうにがん細胞の深さが3ミリ以内であるかどうかを確認します。北里大学では1971年から2003年までの33年間に、2293例の子宮頸がんの手術を行っています。子宮温存治療を施行した症例は、上皮内がん0期で512例、扁平上皮がん 1a期で186例でした。
初回治癒率は、0期97.2パーセント、1a期95.7パーセントといずれも高率でした。上皮内がん0期512例のうち、1年以内に8例の再発があり、6例に遺残が見つかりました。そのため7例は子宮を切除しました。扁平上皮がん1a期186例に関しては、6例再発、2例遺残、その後の子宮切除4例でした。
上段左の写真は、コルポスコピーによるループ手術の実際です。がん組織を酢酸加工したあと、拡大鏡で見ながら高周波電流を流したループで丸く切り取っていきます。この患者さんは妊婦検診で子宮頸がんが発見された方です。幸い1a期だったので子宮温存手術をすることができ、がんを切除したあと、帝王切開で無事に出産されました。その後も3回出産されて、現在は4人のお子さんの母親となっておられます。子宮頸がんは、一般の婦人科検診より妊婦検診で見つかる確率が高くなっています。妊娠中にがんが発見された場合は深刻さの度合いがさらに増すため、早期がんだとわかると、私たちもほっと胸をなでおろします。
温存手術ができるのは、1a期の深さ3ミリが限界です。3.1ミリになると1b期になり、子宮を全摘し、リンパ節の郭清も行わなくてはなりません。症例によってはリンパ節は取らず、子宮だけを取る単純子宮全摘術を行うこともあります。
なぜ子宮温存手術は1a期までなのか。それは1971年から蓄積してきたデータによって、1a期であればリンパ節転移は0.8パーセントですが、1b期になると12パーセントまで高まってしまうことがわかっているからです。
細胞診とコルポスコピーで1a期だろうと判定して子宮温存手術を行い、そのあと病理検査をしてみたら深さが3ミリを超えていて1b期だったというケースも、これまでに19例ありました。この場合、日を改めて子宮を摘出する手術をしなくてはなりませんでした。
今後は腺がんにも適応を拡大
子宮頸がんには、扁平上皮がんと腺がんの2種類の組織型があります。腺がんは扁平上皮がんより早期発見がむずかしいのです。点在していることが多いのでコルポスコピーで病変が見つけにくく、細胞診でも病気の進行度が判定しにくくて、病理的な検討がむずかしいのが現状です。そのため腺がんが見つかったときは進んでしまっていることが多いのです。北里大学でもまだ症例は少ないのですが、0期、1a期で、15例の腺がんの患者さんに子宮温存手術を行いました。
データがもっと蓄積されてくれば、腺がんでもさらに的確に温存手術が行えるようになると思います。
どんながんでも早期発見に越したことはありませんが、子宮頸がんの場合、やはり0期で見つけたい。できれば異形成の段階で見つけたいものです。おそらく数年間は、異形成から0期で留まっていると想定されています。十分見つける時間はあるのです。
1a期までに見つけることができれば、30分の日帰り手術で済みます。1b期になってしまうと、1カ月の入院で子宮やリンパ節を取らなくてはなりません。子宮を取ることの最大の問題は子供を産めなくなることです。リンパ節郭清を行うと、下肢に浮腫が出る可能性があります。これはつらい後遺症で、術後のQOLを考えると格段の差が出てしまいます。また治療費においても、子宮温存であれば8万円、子宮全摘ですと入院費用を含め60~100万円ほどかかってしまいます(その3割が自己負担)。
若い人の早期発見が増えたことはよいのですが、高齢者に進行したがんが見つかることが多いのです。閉経後は子宮のことなどすっかり忘れてしまって、婦人科検診に来ない人が危険なのです。進行してしまうと5年生存率は急速に低下します。
早期発見のため、ぜひ検診を継続して受けることをお薦めします。

高齢者に1b期以上の進行がんが見つかるケースが増えてきた
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