子宮を温存し、妊娠・出産を可能にする 子宮頸がんの広汎性子宮頸部摘出術

監修:福地剛 慶應義塾大学病院婦人科助手
取材・文:菊池憲一
発行:2005年8月
更新:2013年4月

治療対象となるための7つの条件

[実際の治療の流れ]
図:実際の治療の流れ

ところで、この広汎性子宮頸部摘出術の治療対象は、かなり限られる。子宮頸がん患者が希望すれば誰でもが簡単に受けられるわけではない。同大婦人科では、次の7つの条件をクリアした場合にだけ、この手術を行っている。

(1) リスクを理解したうえで、広汎性子宮頸部摘出術の希望が明確である。

(2) 不妊症でない。

(3) 子宮頸がんの進行度が1a2期から1b1期。

(4) 腫瘍の直径が2センチを越えない。

(5) 組織型が扁平上皮がん(または初期の腺がん)である。

(6) 画像検査などで転移の疑いがない。

(7) 手術中の「術中迅速病理診断」で、リンパ節、切除断端(切除した組織の断面)にがんが無いこと。

同大婦人科では(3)から(6)までの条件をチェックするため、手術前にCT、MRIなどの画像診断装置、病理組織検査などで、がんの広がり、深さ、転移の有無、組織型などをきちんと調べる。「ただし、現状では手術前の画像検査によるリンパ節転移の検出率は必ずしも満足できるものではありません。そのため、再発リスクを抑えるために、術中迅速病理診断を行います」と福地さん。

広汎性子宮頸部摘出術ではお腹を開けて、最初に骨盤リンパ節を取り除く。切除した50個ほどの骨盤リンパ節の中で、執刀医が「あやしい」と思ったリンパ節を病理検査に回す。そのリンパ節を病理専門医が顕微鏡検査でチェックして、執刀医に報告する。病理検査の結果は30分から1時間ほどでわかり、もし、リンパ節転移があった場合には標準的な外科手術(広汎子宮全摘術)に切り替える。さらに、手術中に切除した組織も病理検査に回して、断端の顕微鏡検査を行い、その病理検査で陽性と診断された場合も標準的な外科手術に切り替える。

「広汎性子宮頸部摘出術はあくまで子宮頸がんの治療です。命を犠牲にして出産するために行う治療ではありません。2重、3重のチェックをしながら慎重に取り組んでいます」(福地さん)

手術を受けた患者が妊娠・出産。第2、第3の例にも期待

冒頭で述べたように、昨秋、広汎性子宮頸部摘出術を受けた30歳代のAさんが、国内で初めて出産に成功した。その治療経過は以下のようである。

03年、Aさんは都内のある病院の紹介で慶應義塾大学病院婦人科を訪れた。画像検査や病理検査などの結果、子宮頸がん1b1期と診断された。通常ならば、標準的治療の広汎子宮全摘術を受けなければならず、妊娠・出産はあきらめるしかない。しかし、Aさんは子宮の温存を強く希望した。診断検査の結果、広汎性子宮頸部摘出術が可能だとわかった。

同大婦人科スタッフから十分な説明を受けて、同意書にサイン、03年春、手術を受けた。手術中、リンパ節転移検査と切除断端検査を受けたが「問題なし」と診断されて、無事に手術を終えた。手術時間は約8時間。入院期間は約1カ月間だった。退院後の半年間は、月1回ペースで経過観察を続け、体力が回復してから妊娠・出産に向けて動き出した。そして、04年秋、妊娠24週目に帝王切開で男児を出産した。現在、Aさん、男児ともに元気な日々を送っているという。

同大婦人科ではこれまでにAさんを含む24人の子宮頸がん患者に広汎性子宮頸部摘出術を行っている(02年9月~05年3月)。

「24人のうち2人は手術中にリンパ節転移がわかり、標準的な治療に変更しました。22人に広汎性子宮頸部摘出術を行いましたが、そのうち3人は、病理組織検査の結果、追加治療が必要と判断して、放射線照射を追加しています。

また、1人(腺がん)は再発して、追加手術を受けましたが元気です。結局、Aさんを含む18人が妊娠・出産の可能性を持ち続けています。Aさんに続いて、第2、第3の出産を期待しています」(福地さん)

厚生労働省は、今年度(05年4月から06年3月末)から20歳以上を対象にした子宮頸がん検診を始めた。従来、30歳以上が対象だったが、20歳代の子宮頸がんの増加に対応して始めた。加入中の健康保険組合などから「検診のお知らせ」が届いたら、積極的に受診してほしい。子宮頸がんは検診で発見されやすく、検診の有効性も明らかにされている。万一、子宮頸がんと診断されても早期であれば術後の妊娠・出産は可能なのだ。

[主な報告による治療成績]

報告者 Dargent Covens Shepherd Roy
手術件数 47 32 24 30
観察期間(月) 52 23.4 23 25
病期 1a1期 5 10 0 1
1a2期 13 11 0 7
1b1期 25 11 24 20
その他 4 0 0 2
組織型 扁平上皮がん 39 19 15 18
腺がん、その他 8 13 9 12
腫瘍径 <2cm 40 30 24 28
>2cm 7 2 0 2
脈管侵襲あり 13 14 情報無し 4
再発例 2 1 0 1

[Bernardiniらによる術後の妊娠経過報告]

  初期流産 ~21週 22~26週 27~30週 31~36週 通常産期
出産
(生産)
0 0 2
(双子×2)
0 4 12
死産 3 1 0 0 0 0
前期破水 0 1 1 0 3 0
この報告により、広汎性子宮頸部摘出術後に妊娠を望む患者39人中18人に22回の妊娠が成立し、妊娠・出産率は良好であることがわかった。しかし、前期破水が多いことも認められ、ハイリスクな妊娠であることも明らかとなった


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