渡辺亨チームが医療サポートする:子宮頸がん編
試行錯誤の中、彼女を捉えたのは、放射線化学療法という新療法だった
2a期子宮頸がんが見つかった38歳の山下佳代さん(仮名)。
治療として、手術か放射線治療か、どちらを選ぶべきか調べていくと、どちらにも欠点があることがわかった。
このような試行錯誤の中で、彼女の心を捉えた治療法が現れた。
放射線と化学療法を同時に併用する放射線化学療法という新しい治療法であった。
手術か放射線治療か
かかりつけのYクリニックで子宮頸がんが見つかった38歳の山下佳代さん(仮名)は、Y医師の紹介でS病院のK医師を訪ねた。そして、詳しい検査の結果、2a期の扁平上皮がん(*1)であることを告げられた。そのあと、K医師はこう伝えた。
「2期の子宮頸がんの5年生存率は、だいたい7割くらいです」
Y医師から「十分助かる範囲」と聞かされてきた佳代さんは、愕然とする。
「Y先生は『十分助かる範囲』っておっしゃっていたのに、5年以内に3割も死ぬ可能性があるなんて……」
改めて、厳しい現実を知らされる思いだった。そこへK医師は、もっと戸惑う難題を突きつける。
「2期の子宮頸がんの治療法は、外科手術と放射線治療(*2)があります。どちらも有効性は変わらないという報告があります。どちらを選ぶか、できれば今、お返事をいただければ手術待ちの患者さんのリストに入れられるのでありがたいのですけどね」
もちろん突然そんなことを言われても、佳代さんは何も選択の材料を持っていない。体にメスを入れられる手術も、放射線を浴びる治療も、どちらも体にダメージがあることくらいはわかるが、それぞれどんな障害が現れるのかもよくわからないのだから、比べようがない。その佳代さんの困惑した表情を見て取ったのか、K医師はこんな説明をした。
「簡単にいえば、手術は痛いし、神経も傷つけたりするので障害が早く出やすいのですが、卵巣機能や腟の機能は守ることができます。もう一つの放射線治療は、傷ができないわけですから当初はダメージは少ないかもしれませんが、あとになっていろいろな障害が起こる可能性があります。山下さんの場合、体力は十分あるようですから、手術のほうが確実にがんの部分もなくなってあとの心配も少ないのではないでしょうか。日本ではほとんどの施設で手術が一般的となっています」
もちろん佳代さんは、これだけの説明では、まだそれぞれの治療法の効果や副作用を理解できない。ただ、それまで、「できればもう一人子供を生みたい」と考えていたが、それはとうてい無理な相談らしいことはわかった。
「とても今ここですぐお返事はできません。少し考える時間をいただけませんでしょうか?」
佳代さんはこう言うのが精一杯だっ���。
手術の後遺症はつらいわよ
自らのがんの治療法の選択という問題を突きつけられた佳代さんが思い出したのは学生時代の友人の一人であるS子さんだった。S子さんは子宮がんにかかり、子宮・卵巣を全摘している。見舞いに行ったとき、ずいぶん痛がっていたようだった。「自分もあのようになるのだろうか?」と不安が広がっていく。
佳代さんはS子さんに電話して、がん患者の先輩としてアドバイスを受けることにした。電話に出たS子さんは元気そうだったが、佳代さんががんを告知されたと聞くと、途端にちょっと低い声になった。
「今も更年期障害やリンパ浮腫(*3)でとてもつらい思いをしているのよ。手術がたいへんなのはそのときだけじゃないわ」
「まあ、そうなの。病院の先生は『手術をすれば、さっぱり治る』っておっしゃっていたけど、そんなことないのね」
「手術しなくていい方法があるなら、ぜひそちらの治療法にしなさいよ(*4子宮頸がんの治療法の選択)」
佳代さんは急に「手術は避けたい」という気持ちになっていく。もっとも放射線治療を受けたとき、どんな障害が起こるのかもよく知らない。「自分で調べるしかない」と考え、インターネットで調べることにした。
放射線化学療法という選択肢
インターネットを検索すると、医療機関やがんの患者団体のホームページ、メーリングリストなどで、子宮頸がんに関する情報が数々発信されている。「できれば手術を避けたい」と思っている佳代さんだが、放射線治療も完全ではないことがわかってきた。
その中で佳代さんはある患者が作っているホームページに目をとめる。自分と同じ2a期の患者だが、「放射線化学療法(*5)」という治療法を受けているという。放射線治療と化学療法を同時に併用するこの治療法は欧米ではもうすでに標準治療となっているとのことだ。患者は、「抗がん剤の副作用は少しあるけれど、放射線治療は毎回『これでおしまい?』と思うほどラクだ」と書いていた。それを見て佳代さんは、「この治療は選択肢の一つになるんじゃないかしら?」と、何か宝物でも見つけたような気持ちになっている。
いよいよ佳代さんはS病院のK医師に、治療法についての返事をする日を迎えた。S子さんの体験談などから、「自分には手術より放射線治療のほうがいい。それなら、より成績がよい放射線化学療法がベストではないか」という結論を出していた。
「放射線化学療法? 困ったことをおっしゃいますねえ。手術や放射線治療とたいして成績は変わらないと思いますけどね。うちではその療法のノウハウがないんですよ」
佳代さんの希望を聞いたK医師の第一声はこれだった。そして、まゆをよせて考え込む。「私の母校のJ大学の付属病院でやっていると思います。どうしてもそっちをご希望なら、ご紹介しましょう」
佳代さんは、「どうしても」と希望するほど、まだ十分に放射線化学療法を知っているわけではなかった。できれば、K医師からこの療法について詳しく話を聞き、いいところと悪いところ、自分が適応であるかどうかを聞きたかったのだ。
たとえK医師が放射線化学療法について知らなくても、それについて調べてくれた上で、「自分は自分のできる方法で精一杯やるから」と話してくれればすべてをまかせてもよかった。が、K医師は、その期待には応えてくれなかったようだ。
「申し訳ありませんが、私は放射線化学療法で治療を受けたいと思います。J大学の先生にセカンドオピニオン(*6)を受けたいので、紹介状を書いていただけませんでしょうか?」
佳代さんは、自分でも驚くほどきっぱりとした調子で話していた。
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