HPV9価ワクチンが定期接種に! 子宮頸がんはワクチン接種で予防する
1994年から1999年生まれの接種世代の結果が!
再度、ワクチン接種について考えてみましょう。
日本にも、HPVワクチンを接種している世代がいます。公費助成が始まった2010年から積極勧奨が停止された2013年の間に接種対象年齢だった世代です(図2)。

1994年から1999年に生まれた女性は、実は7割前後がHPVワクチン接種を受け、すでに成人を迎えています。一昨年、ワクチン接種世代の20歳時の検診(細胞診)結果が発表されました。
「ワクチン接種世代のみ、20歳時の細胞診で明らかに前がん病変が減少しています。逆にワクチン接種が停止した最初の生まれ年度である2000年生まれでは、明らかに増えてしまったのです。このデータを目にしたときは、悲劇が現実になってしまった……と愕然としました」と上田さん(図3)。

このグラフ(図3)を見ると、ワクチン接種世代以前も数年に及んで細胞診異常(前がん病変疑い)の検出率は増加傾向にありましたが、これは性交渉開始の低年齢化などの生活動静によるものと考えられるそうです。このままワクチン接種が行われなかった場合、青い点線をたどると予測されていましたが、94年から99年生まれまでは接種対象年齢の7割前後の女子がワクチンを接種したことで、20歳時の細胞診異常率が減少しました。ところが、ワクチン接種が停止された2000年生まれで急増、元の青い点線上に戻ってしまったことを表しています。
ただ、ワクチン接種世代で前がん病変が減少していることは明らかですが、この間、対象年齢の7割近くがワクチン接種を受けているわりには減少幅が小さいようにも思えます。
「これはあくまでも細胞診異常率です。当時の2価ワクチン・4価ワクチンが阻止するのは16型、18型という2種類の高リスクHPV。他の型のHPV感染は免れず、前がん病変に進むことは大いに考えられます。ただ、それらは高リスクHPVの16型、18型よりはリスクが低く、すぐにがんを引き起こすというようなものではありません」
ワクチン接種世代の細胞診異常率の減少は、高リスクHPVである16型、18型の感染が阻止されたため。ということは、この世代の多くの人は子宮頸がんへ移行する最大��脅威は回避できていたと考えられそうです。
副反応への不安が拭えない
子宮頸がん予防には、定期的な検診だけでなくHPVワクチン接種が必要と理解しつつも、我が子への接種となると躊躇してしまう。そこにはやはり、副反応に対する不安や恐怖を否定することはできません。
「10年ほど前に副反応報道がなされた当時は、HPVワクチン接種後の多様な症状について、私も含め多くの医師がどう対処したらよいかわからない状況でした。その結果、たらい回しが起こってしまったという現実は確かにあったと思います。その後、接種後に見られた多様な症状は、HPVワクチン接種歴のない女子にも認められることが確認されました。そして、接種歴に関わらず、そのような症状については早めにリハビリを開始するなどの対処が有効であるとわかり、医師間で共有できていますから、今は安心して接種を受けていただけると思います」と上田さんは語ります。
理想的な子宮頸がん予防法とは
一方、HPVワクチン接種を受けてなお、定期的な細胞診は必要でしょうか。
「9価ワクチンで8~9割の子宮頸がんが防げますが、残り1割がある以上、細胞診も受けましょうと言わざるを得ないところはあります。ただ、近い将来、子宮頸がん検診に、HPV感染の有無を調べるHPV検査が導入されると思います。これが導入されたら、『性交渉開始前に9価ワクチンを接種し、成人したら5年ごとなど間隔をあけてHPV検査を受ける。HPV検査が陰性なら細胞診は受ける必要がない』という流れになっていくと思います」
日本では現在、HPV検査をどのような形で検診に導入すべきかを検証している段階とのこと。「HPV検査で陽性の人は、細胞診で引っかかる人の数倍と考えられますから、その方たちをどのように診ていくかが検討されています」と上田さん。オーストラリアなどワクチン接種が早くから普及している国々では、すでにHPV感染じたいが減少していて、そこに、さらにHPV検査が導入されています。そうした国々では、ワクチン接種後は一生のうち数回のHPV検査ですむようになってきているそうです。
男子へのHPVワクチン接種も
子宮頸がんだけでなく、実は、中年以降の男性に多く発症する中咽頭がんも、主な原因はHPV感染です。米国ではHPVに起因する中咽頭がん罹患数が子宮頸がん罹患数とほぼ同数。日本でも中咽頭がんの罹患数は年々増加していて、男子に対するHPVワクチン接種も現在検討されています。「早ければ、来年度にも男子へのHPVワクチン接種が始まるのではないかと思っています」と上田さん。
「日本では、男性がHPV感染でがんになると知っている人は非常に少なく、HPVワクチンを接種する必要があるなんて思ってもいない。これも問題です。中咽頭がんもHPV感染が主な原因で、それを防ぐ最も有効な手段が性交渉開始前のワクチン接種。子宮頸がんとの違いは、有効な検診がないことです」
最後に上田さんは、HPV感染を原因とする子宮頸がん、中咽頭がんについて、こう締めくくりました。
「HPVは、男女ともに多くの人が生涯で一度は感染すると言われるほど、ありふれたウイルスです。つまり、子宮頸がんも中咽頭がんも、誰がなってもおかしくない病気なのです。だからこそ予防が大切。まずは性交渉開始前の年齢で、HPVワクチン接種を受けることから始めましょう」
同じカテゴリーの最新記事
- 1次、2次治療ともに免疫チェックポイント阻害薬が登場 進行・再発子宮頸がんの最新薬物療法
- AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す
- 第75回日本産科婦人科学会 報告 ~慈しみの心とすぐれた手技をもって診療に努める(慈心妙手)が今年のテーマ~
- HPV9価ワクチンが定期接種に! 子宮頸がんはワクチン接種で予防する
- 自己採取HPV検査とHPVワクチンの持続感染予防効果を検討 〝子宮頸がん撲滅〟を目指す2つの臨床研究~福井大学
- 定位放射線療法を併用した臨床試験も進行中 子宮頸がんの化学放射線療法
- 受診率アップのためには若い世代への意識付けが肝要 大学生に対する子宮頸がん検診啓発活動を実施~福井県
- 世界80カ国以上でHPVワクチンは定期接種に 子宮頸がんは、検診とワクチンで予防できる!
- 子宮体がん、子宮頸がんにおけるダヴィンチ手術の現状と今後 子宮体がんがダヴィンチ手術の保険適用に