小児がんに対する陽子線治療の全国4施設調査結果 2016年4月から保険診療に

監修●櫻井英幸 筑波大学医学医療系放射線腫瘍学教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年3月
更新:2017年3月


小児がんの陽子線治療はチームで行う

小児がんの治療では、前述したように集学的治療が必要となるため、陽子線治療の施設があるだけでは治療を行うことができない。小児がんをきちんと診療できる体制が整っている必要があるのだ。小児の化学療法ができ、小児の手術ができ、さらに小児看護専門看護師や技師などもそろっている必要がある。

「筑波大学附属病院では、放射線腫瘍科の他に、小児科、小児外科、脳神経外科などの医師が関わります。また、小児の専門看護師、放射線技師、保育士、教師など、様々な職種のスタッフも加わり、10人ほどのチームで1人の子どもの治療に関わる体制をとっています」(図3)

こうした体制を整えることが必要になるため、小児がんの陽子線治療を行える施設は多くはない。現在、日本には12の陽子線治療施設ある。そのすべてが小児がんを受け入れると言っているが、年長児に限る施設が多いようだ。

「どんな年齢でも受け入れられるのは、筑波大学附属病院、静岡県立静岡がんセンター、北海道大学など限られた施設になります。将来的には、引き受けられる病院を増やす必要がありますが、当面はできる病院をセンター化し、そこに患者さんを集めて治療に当たることになります」

小児がんの陽子線治療は、だいたい1カ月くらいかかることが多い。平均すると21~22回照射し(週5回で4~5週間)、並行して化学療法を行うため、長期の入院が必要になる。

「患者さんが乳幼児の場合は、陽子線治療を行うのに麻酔が必要になります。麻酔で寝かせて、その間に治療を行うのです。筑波大学附属病院では、3歳からは麻酔を使わずに治療しています。痛くなく、怖くない治療だということを話して聞かせ、練習を行ってから治療しています。看護師や技師の努力でそれが可能になっているのですが、海外でその話をするとびっくりされます。海外では幼児も麻酔で寝かせて治療するのが当たり前ですから」

痛くないとわかっていても、治療中は大きな装置のある治療室で1人になる必要がある。体を固定する固定具に絵を描いたり、天井につけた画面でDVDを見ら��るようにしたり、様々な工夫が取り入れられている(図4)。

図3 小児がん陽子線治療患者の紹介・受け入れ体制の案内書(筑波大学附属病院)
図4 スヌーピーの絵が描かれた陽子線治療器具

陽子線治療の情報が伝わっていない

小児がんの保険診療が始まってから、治療を受ける患者さんは増えてはいるが、思ったほどではなかったという。

「筑波大学附属病院では、以前、小児がんの陽子線治療を年間40~50例行っていました。保険診療になったことで、100例くらいに増えると予想していたのですが、1年目は70~80例になりそうです。保険診療ですから、こういう治療があるということを患者さん側に伝え、従来のX線治療にするか陽子線治療にするか、選択してもらう必要があります。そのための情報提供が十分に行われていません。それだけでなく、小児がんの診療に当たっている医師も、陽子線治療について十分な情報を持っていないのではないかと思います」

そうした問題を解決するため、『小児・AYA世代のがんに対する陽子線治療ガイドライン』の編集が進められている(2017年内に発行予定)。小児がんの治療に当たる医師たちに、陽子線治療の有効性と安全性を示すデータの存在を知ってもらうことで、この治療の普及に役立つと考えられている。

小児がんに対しては保険診療に承認された陽子線治療だが、それ以外のがんに対しては、現在も先進医療の枠内で治療が行われている。2018年の次期診療報酬改定では、骨・軟部腫瘍、頭頸部がん(扁平上皮がん以外)、肝細胞がんへの適応拡大を目指しているという。

「世界的にはこれらの治療にもかなり利用されていますし、エビデンス(科学的な根拠)もそろってきました。この3つに適応が拡大され、陽子線治療を必要としている患者さんが保険で治療を受けられるようになることを期待しています」

小児がんに続き、どの分野に適応が広がるのかに注目が集まっている。

AYA……Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の略

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