2010年に臨床試験がスタート~治療の進歩に大きな可能性が~ 新薬の登場で変わる小児白血病の治療

監修:渡辺新 中通総合病院入院総合診療部長・小児科統括科長
取材・文:柄川昭彦
発行:2009年12月
更新:2013年4月

層別化治療によってよりよく治す

治療法が進歩することによって、小児の急性リンパ性白血病は不治の病ではなくなったが、どの患者さんも同じように治るわけではない。予後がいいタイプもあれば、予後が悪く再発しやすいタイプもあるのだ。

小児の急性リンパ性白血病には、全体の80パーセントを占めるB前駆細胞性と、T細胞性がある。この2つのタイプで、予後を決定するファクターが異なっている。

「B前駆細胞性の場合、発症時の年齢と白血球の数に大きく左右されることがわかっています。白血球が多いほど、年齢が高いほど、予後が悪いのです」

[小児急性リンパ性白血病における予後因子の違い]

白血病のタイプ 予後良好因子 予後不良因子
B前駆細胞性 染色体が高2倍体(>50)
TEL-AML1融合遺伝子
4,10,17番染色体のトリソミー
早期プレドニゾロン反応不良
MLL遺伝子再構成(乳児)
フィラデルフィア染色体
白血球数5万以上
年齢10歳以上
T細胞性 HOX11過剰発現
MLL-ENL融合遺伝子を
伴う11/19番転座
早期プレドニゾロン反応不良
治療強度の弱い化学療法レジメン
Ching-Hon Pui, 2004 ASH Educational Program Bookより一部改変
トリソミー=通常染色体は2本で対をなしているが、3本になる染色体異常のこと

[初発時の年齢・白血球数に基づいた層別化]

白血球数 年齢
1歳以上10歳未満 10歳以上19歳未満
50,000未満 標準危険群(SR) 高危険群(HR)
50,000以上
100,000未満
高危険群(HR) 高危険群(HR)
100,000以上 超高危険群(HHR) 超高危険群(HHR)

年齢が10歳を超えている場合、あるいは白血球数が5万を超えている場合には、高危険群とされている。一方、10歳未満で白血球数が5万未満の場合には、標準危険群となる。

「標準危険群の場合は、どこまで治療を軽減できるかが今後の課題とされています。小児がんは治った後の人生が長いので、ただ治せばいいのではなく、なるべく強い治療は行わず、いかに適切な治療でよりよく治すかが大切なのです」

もちろん、高危険群の患者さんは、弱い治療では救うことができない。当然、再発を防ぎ、治癒率を上げるために強い治療が必要になる。

[日本における小児T細胞性急性リンパ性白血病の初発時年齢/白血球数別の治療成績]
図:日本における小児T細胞性急性リンパ性白血病の初発時年齢/白血球数別の治療成績>

このように、小児の急性リンパ性白血病では、リスクによる層別化を行い、それに応じた治療を行うようにしている。そのため、年齢と白血球数に加え、治療反応性もプラスして層別化が行われている。治療反応性は次のようにチェックする。

治療開始後1週間はプレドニゾロン(副腎皮質ホルモン剤)だけ使い、1週間後に血液中(末梢血中)の白血病細胞が消えているかどうかを調べる。消えている場合は治療反応性が高い。

治療開始後2週間で、骨髄中の白血病細胞の割合がどの程度になっているかを調べる。5パーセント未満なら治療反応性が高いと判定できる。

治療開始して33日目の骨髄を調べ、完全寛解(白血病細胞が5パーセント以下で正常細胞が95パーセント以上)になっているかどうかを調べる。

治療開始から第13週目で、骨髄中の微小腫瘍残存(MRD)を調べる。微小腫瘍残存とは、寛解導入療法後の骨髄に存在する白血病細胞のこと。骨髄の細胞の1000個に1個以上か以下かで分類する。肉眼では調べられないレベルなので、特殊な検査が必要となる。

「治療反応性は、B前駆細胞性でも関係しますが、T細胞性の治療では特に重要になってきます。そして、T細胞性の場合、B前駆細胞性ほど年齢と白血球数の影響はあまり大きくないのが特徴です」

T細胞性の場合、治療後3カ月の時点で、骨髄中の白血病細胞が1000個に1個未満であれば移植の対象にはならず、比較的弱い治療が行われる。1000個に1個以上の場合には移植となる。

「治りやすいか治りにくいかを判定して治療を進めると、無駄な骨髄移植を減らすことができます。骨髄移植は、必要な人にはやらなければならない治療手段ですが、不必要に行ってはいけません」

適切な治療でよりよく治すためにも、微小腫瘍残存を調べる検査は必要といえそうだ。

[治療選択のための微小腫瘍残存(MRD)に基づいた2段階層別化(小児がん白血病グループ 2004 プロトコール)]
図:治療選択のための微小腫瘍残存(MRD)に基づいた2段階層別化

各層別によって最大の治療効果を得るために作成された指針。MRD定量法の開発で上のように2段階の層別化(第15週までとそれ以降)が可能となり、第15週以降の治療の選択肢が広がった。このプロトコールが適用されるのは、完全寛解になった患者さんだけ

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