局所進行直腸がんに対する 術前化学放射線療法の有効性は?
側方郭清を「する」「しない」の試験が進行中
このように効果が注目される術前化学放射線療法だが、山梨さんの施設ではかなり以前からこの治療法を取り入れていて、やり方も時代とともに変わってきているという。
側方郭清をせずに術前化学放射線療法とがん切除手術だけを行うのは、術前のCTあるいはMRIによる画像評価で、リンパ節への転移が疑われる〝かたまり(結節)〟があっても、それが長径10㎜以下の場合だ。
「欧米の術前化学放射線療法では、放射線を骨盤内のリンパ液が流れるリンパ流全域に広範囲に照射します。当院では、以前は直腸の原発巣と腸管に接する直腸間膜内のリンパ節のみに放射線を照射していて、少し離れたところにある側方リンパ節には照射していませんでした。このため側方節郭清が必要でした。現在は、欧米ほどの広い照射範囲ではないものの、側方リンパ節にも放射線を照射していて、その場合は側方郭清を省略しています。ただし、リンパ節の結節の長径が10㎜以上あると郭清を行っています」
他の施設でも様々に模索されており、中には、術前に化学療法だけをまず行い、そのあとに化学放射線療法を組み合わせて、側方郭清を含まない切除手術を行うところもあるという。
しかし、いずれの方法でも有効性が十分に示されているわけではない。
がんが大腸の壁の外にまで浸潤しているようなら、側方郭清の適応症例となる。この郭清を行うと骨盤内再発リスクは50%減少し、5年生存率が8~9%改善されるとのデータがある。
果たして、側方郭清を省略するのが有効なのか、否か。現在、日本人の患者さんを対象に郭清術を受けた群と受けなかった群とを比較するランダム(無作為)化比較試験が行われており、「来年にはその結果が出る予定」と山梨さんは話す。
予後予測につながる因子を発見!
ところで、山梨さんらが行った115例についての分析では、もう1つ重要な示唆が得られている。それは、治療後の予後を予測できる因子の存在が浮かび上がってきたことだ。
「術後にリンパ節への転移が4個以上見つかった人、また、リンパ節への転移がなかったり転移が3個以下だった人でも、大腸の壁を突き破るほど深く浸潤している人では、生存率がかなり低くなることがわかりました」(図5)

このような因子を持つ人は、「術後にしっかりとした補助療法を行うことが必要かもしれません」と山梨さんは指摘する。
なお安全・確実にがんを取り除くためには手術の進歩も欠かせないが、最近普及している腹腔鏡手術では、神経を拡大して見ることで精緻な手技が可能となるなど、より正確に自律神経温存ができるようになっていることを付記しておこう。
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