新規薬剤も登場! 個別化医療が進む進行再発大腸がんの治療

監修●吉野孝之 国立がん研究センター東病院消化管内科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年7月
更新:2017年7月


2次治療に新たに加わったサイラムザ

2次治療に推奨される薬として、サイラムザが新たに加わった。血管新生を阻害する作用を持つ分子標的薬で、がんに十分な血液を送れなくすることで治療効果を発揮する。

「血管新生を阻害する働きがあるので、アバスチンと同系列の薬だと言えます。作用機序はアバスチンと若干異なっていますが、臨床的に有効性はアバスチンとほぼ同等です。現れる副作用も共通していて、頻度なども同程度です」

副作用として現れやすいのは、タンパク尿、高血圧、血栓症、消化管穿孔(せんこう)など。頻度はさほど高いわけではなく、マネジメントすることは十分に可能である。

サイラムザは、FOLFIRIと併用することにより、FOLFIRI単独で治療するより、生存期間を延長することが臨床試験で証明されている(図5)。そのため、実際の治療でもFOLFIRIと併用することになっている。

「アバスチンを組み合わせた1次治療で効果が見られなくなった場合、他の薬剤と組み合わせて、引き続き2次治療でもアバスチンを使用する選択肢もありますが、患者さんの中には、その治療法に納得されない方もおられるかと思います。そうした患者さんに、より幅広く血管新生を阻害する作用機序を持つサイラムザを選択肢として提示できる、つまり治療選択肢が増えたという点で、意味はあると言えるでしょう」

2016年版のガイドラインには入らなかったが、2次治療では、ザルトラップという新しい薬も使えるようになっている。

「次の改訂版のガイドラインには入ってきます。ザルトラップもFOLFIRIと併用することで上乗せ効果が証明された分子標的薬です(図6)。したがって、FOLFIRIと併用し、サイラムザと同じようなケースで使用します。効果はアバスチンやサイラムザとほぼ同等ですが、副作用の頻度は両薬剤に比べ、少し高くなっています」

副作用としては、下痢、倦怠感、嗄声(させい:声のかすれ)、好中球減少、発熱性好中球減少などに注意する必要があるという。

サイラムザ=一般名ラムシルマブ ザルトラップ=一般名アフリベルセプト ベータ

図5 進行再発大腸がんに対するサイラムザの効果
図6 進行再発大腸がんに対するザルトラップの効果

3次治療以降にロンサーフが加わる

3次治療以降で推奨される薬として、2014年版ガイドラインでは、スチバーガが新しい薬として加えられていた。2016年版では、さらに新しい抗がん薬として、ロンサーフが加えられている。

「ロンサーフは、トリフルリジンとチピラシルという2つの成分を組み合わせた合剤です。DNA障害を起こさせることで、がん細胞を死滅させる働きを持つ薬剤になります」

3次治療以降では、スチバーガとロンサーフが推奨されているが、この2つをどう使い分ければ良いかは、明らかになっていない。

「どちらを先に使えば良いかは、明確になっていません。ただ、全身状態が良好なうちに、具体的にはPS(パフォーマンスステイタス)が0~1のときに、両薬剤とも使い切ることが重要だと考えられています。PSが2以上で、全身状態が悪くなっているときに使用しても、効果はほとんど得られず、副作用だけが出るという結果になります」

3次治療以降となると、がんの進行に伴って、患者の状態は崩れやすくなるので、よりきめ細やかな対応が必要となる。スチバーガやロンサーフは、全身状態が悪くなる前に使い、効かない場合はすぐに次の薬にスイッチする。そうやって、全ての薬を使い切ることが、現在進行再発大腸がんの治療においては重要だと考えられている。

スチバーガ=一般名レゴラフェニブ ロンサーフ=一般名トリフルリジン・チピラシル塩酸塩

今後免疫チェックポイント阻害薬が出てくる可能性も

今後の新しい治療薬として選択肢に加わる可能性があるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。

「免疫チェックポイント阻害薬は多くの大腸がんには効果がありませんが、MSI(マイクロサテライト不安定性)検査で陽性だった場合には、よく効く可能性があります。日本人の場合は2~3%ですが、このような大腸がんに限って、免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダが認可される可能性があります」

MSI陽性の大腸がんに免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになると、全ての患者にMSI検査が必須となる。この検査はすでに遺伝性大腸がんの1つであるリンチ症候群の検査として保険収載されており、適用拡大されれば、一気に広がる可能性も出てくるという。

他にも、現時点で保険償還されていないBRAF遺伝子検査だが、5月に入り承認申請が行われ、保険適用に向けた動きも出ている。

「日本では、BRAF遺伝子が変異している患者さんは、大腸がん全体の約5%いると考えられています。これらの患者さんでは、アービタックスやベクティビックスといった抗EGFR抗体薬による単独治療はほとんど効果がありません。現在BRAF遺伝子変異陽性に対する薬剤開発も進んでいるので、遺伝子検査を行うことで、該当する患者さんが治験に参加できるチャンスが増えることが期待されています」

RAS遺伝子検査と同様に、BRAF遺伝子検査も今後ますます重要になってくることが予想される。個別化医療が進む大腸がん。その勢いは今後も加速しそうだ。

キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ

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