全身化学療法への橋渡し的役割 大腸がんにおけるレスキュー肝動注化学療法の有用性

監修●石川敏昭 東京医科歯科大学大学院総合外科学分野(医学部附属病院腫瘍化学療法外科)准教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年7月
更新:2017年7月


全身化学療法に移行率は60%

石川さんは、昨年(2016年)、横浜で開かれた日本癌治療学会で、2006年~2015年に東京医科歯科大学で行ったレスキュー肝動注21例における有用性を検討した治療成績を報告した。

それによると、研究対象の内訳は、大腸がんの肝転移による重症肝障害患者。多剤併用全身化学療法が困難な症例で、1次治療前17例(うちレスキュー肝動注+セツキシマブ併用2例)、1次治療PD(進行)4例。評価項目は、奏効率(RR)、全身化学療法移行率、有害事象、全生存期間(OS)などを検討。

レスキュー肝動注適応の臨床判断は、PS(ECOG)3以上、発熱38℃超、白血球数1,000/mm3超、Cタンパク反応(CRP)5.0以上、ALT(CPT)100IU/L超、AST(COT)100IU/L超、ALP1,000IU/L超、総ビリルビン2.0mg/dL超などであった。

この適応基準は、術後の補助化学療法における適用基準に近いものである。

1次治療前の15例における治療成績は、肝転移においてPR(部分奏功)4例、SD(安定)7例、PD(進行)2例、不耐2例(悪寒戦慄1例、ベストサポーティブケア [BSC] 希望1例)で、奏効率(RR)27%(4/15)、疾患制御率(DCR)73%(11/15)であった。肝障害の改善は11例(73%)に見られ、このうち肺炎1例、多発骨転移1例を除く9例が全身化学療法に移行可能となり、移行率は60%(9/15)であった(表1、2)。

この成績から、石川さんは「レスキュー肝動注は高度の肝転移を伴う切除不能・進行再発大腸がんに対する治療法の有用な選択肢の1つとなる」としている。

標準的治療が無効となった転移症例の緩和にも活用

こうした肝障害による多剤併用全身療法が困難な症例への肝障害レスキュー以外に、石川さんらは標準的治療が無効となった切除不能肝転移症例の緩和的な化学療法としても肝動注療法行い、その有用性を検討している。

緩和的な肝動注療法の適応基準は、標準治療(5-FU、L-OHP、CPT-11、分子標的薬)に不応、生命予後の規定因子が肝転移、PS���0~1で毎週の通院が可能であること。対象となったのは、平均年齢65歳(48~80歳)の12例で、病変の内訳は、肝単独4例、肝・肺2例、肝・リンパ節2例、肝・腹膜2例、肝・肺・リンパ節2例。

その結果、奏効率は10%、病勢制御率は50%であった。有害現象としては、倦怠感、悪心、好中球減少、貧血、血小板減少、ポート部血腫などが認められたが、好中球減少(グレード3)を除き、いずれもグレード1~2の経度のものであった。

L-OHPオキサリプラチン=商品名エルプラット CPT-11イリノテカン=商品名カンプト、トポテシン

大腸がん肝転移に対する治療戦略における選択肢として有用

このようなことから石川さんは、現状での大腸がん化学療法における肝動注療法の位置づけとして、「①高度進行肝転移による随伴症状で強力な全身化学療法が困難な症例に対してはレスキュー肝動注、また②全身状態の保たれた標準治療無効例には緩和的肝動注が適応となり、肝動注療法は、大腸がん肝転移に対する治療戦略における治療選択肢として検討する価値がある」としている。

ここで注意が必要なのは、今回のレスキュー肝動注療法は、あくまでも肝機能障害などで全身化学療法に移行できない症例における移行への橋渡し的な役割を持つものであること。全身状態が悪い人が対象となるので、治療のリスク(有害事象により死に至る可能性があること)や無効であればさらに具合が悪くなることなど、肝外病変の治療を目的としたものでないことを事前に患者に十分説明し、同意、選択が得られるものでなければならないという。

石川さんは、レスキュー肝動注療法の今後の展開として、「肝機能低下などで全身化学療法が困難な症例に対し、より積極的な治療を希望する人の選択肢の1つになる可能性があると期待しています」と述べている。

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