世界的に注目のマイクロRNAを活用したバイオマーカー 血液1滴で大腸がんリンパ節転移を予測、治療のあらゆる場面で利用可能に

監修●高丸博之 国立がん研究センター中央病院内視鏡科医師
取材・文●伊波達也
発行:2018年4月
更新:2019年7月


再発・転移のマーカーとしても

「この検査法が実用化されれば、間違いなく、患者さんにとってのがん検診を受診するハードルは下がり、そのことによって検診率が向上していけば、早期発見・早期治療が実現できて、根治率や生存率の向上に必ず貢献するはずです」

高丸さんたちの診療領域である早期の大腸がんについてのその恩恵は大きくなるだろうと話す。

「大腸がんの領域で言えば、例えば、従来の便潜血検査と組み合わせるという方法でさらに精査するということもできると思います。便潜血検査は、お尻に近いほうの腸については検出しやすいですが、腸の奥のほうのがんは検出されにくい場合もあると言われています。マイクロRNAは部位に関係なくわかるので、今まで見つけにくかった部位のがんを検出するという点で便潜血検査を補えるという面もあると思っています」

また、現在、内視鏡で切除してがんが取り切れても、根が深くリンパ節に転移している可能性のある人は10~15%いると言われている。

「その10~15%に当てはまる症例の場合は、現在、ガイドラインにより外科手術による追加切除を行なうべきであるということになっています。しかし、将来的には、マイクロRNAによる検出で、手術を適応すべきかどうかをさらに詳しく診断できるようになる可能性はあると思います」

同じ大腸がんの外科手術の領域においては、2018年1月に開催された第88回大腸癌研究会の「大腸癌の個別化治療に有用な癌悪性度所見」というセッションの中で、「1滴の術前血清で直腸がんリンパ節転移は予測できるか」という演題の発表があった。

がん医療におけるあらゆるフェーズでの応用が可能

直腸がんのリンパ節転移の有無を調べるには、CT検査やMRI検査を実施するが、「術前に血液検査で転移がありそうだとわかれば、より正確で根治度の高い治療ができると思っています。内視鏡手術をしていても、リンパ節転移のリスクが10~15%はあるのです。それが1滴の術前血清によって、リスクがより正確に診断ができます」と高丸さん。

この検査法により、リンパ節転移しているかどうかを術前に予測できれば、手術においてリンパ節を拡大郭清(かくせい)すべきか、郭清を縮小して合併症をできるだけ回避するか、あるいは術前に化学療法を行うかなど、治療選択や追加治療の有無についての治療戦略を早めに立���ることができるということだ。

各がん種の薬物療法を専門とする腫瘍内科の分野でも、術後の補助化学療法を行うべきかを判断したり、薬物の治療効果のあるなしを早めに診断することで、早めにセカンドライン、サードラインへと治療を移行するなど、さらに綿密な治療戦略を立てていくことが可能になるというのだ。

さらに、今後は、立体的、多角的に他の検査法との組み合わせを行うことによって、より精密にがんの状態を評価できるようになることも期待できる。

「現時点は、まず、1次スクリーニングとしての、がんの早期発見に力を入れていくことになりますが、この研究にはさまざまな将来性があると思っています」

早期発見のみならず、治療効果の予測、転移の有無、さらには新しい薬剤の開発への応用など、研究開発、そして初回の検診から進行・再発がんへの対応まで、がん医療におけるあらゆるフェーズでの応用が可能になることが大いに期待されるのだ。

2人に1人が罹患し、3人に1人が死亡するという国民的疾患であるがんへの対策において、このバイオマーカーが、必ずや福音となることは間違いないだろう。

ガイドライン(SM浸潤度1,000μm以上/脈管侵襲陽性/低分化型腺がん・印環細胞がん・粘液がん/浸潤先端部の蔟出)

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