血管新生阻害薬アバスチンの位置づけと広がる可能性 アバスチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用が未来を拓く

監修●高橋俊二 がん研有明病院化学療法部総合腫瘍科部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2018年8月
更新:2018年8月


副作用が小さいというメリット

数ある血管新生阻害薬の中で、最も副作用が小さいことも、アバスチンが幅広く使われている理由だろう。

「血管新生阻害薬はアバスチンのほかにもいくつかありますが、がんが放出するVEGFというシグナル自体を抑えるのは、今のところアバスチンだけです」と高橋さん。

シグナルには、必ずそれを受け取る受容体(レセプター)があって、VEGF(シグナル)を受け取るVEGFR(受容体)に働きかけて、VEGFを受け取らせなくするタイプの血管新生阻害薬もある。スーテント、ネクサバール、インライタ、そしてサイラムザなど、アバスチン以外の血管新生阻害薬はすべて受容体に作用するタイプだ。

「受容体に働きかけてシグナルを受け取らせないタイプの血管新生阻害薬は、VEGFだけでなく、さまざまなシグナルを抑えてしまうため、副作用が強くなる傾向があります」と高橋さん。

腎細胞がんで標準治療となっているスーテントなどは、効果も高いが、副作用も大きい。白血球や血小板の減少、強い疲労や食欲低下、そして手足症候群はひどくなると歩行すら難しくなることもあるそうだ。

アバスチンの副作用で問題になるのは、出血、血栓、そしてタンパク尿だ。血圧が上昇することは多いが、降圧薬で対処できる。出血、血栓は頻度が低い。やっかいなのはタンパク尿。タンパク尿には予防薬や治療薬がないので、出てしまったらアバスチンを減量するか、止めるしかないそうだ。とはいえ、他の血管新生阻害薬と比較すると、副作用は小さいと考えてよいようだ。

今後の可能性、新しい併用法

アバスチンが日本で承認されて11年。これまでは化学療法との併用という使われ方がほとんどで、抗がん薬投与にアバスチンを加えることで、がんを小さくして予後(よご)を改善し、奏効率を向上させてきた。それ自体は確かな効果ではあるが、アバスチンが生命予後を目覚ましく改善したかと言えば、「そういうわけではない」と高橋さんは述べる。確かに、慢性骨髄性白血病に対するグリベックのように、それがなかった時代とある時代では病気そのものが大きく変わった、というほどの存在感はアバスチンにはない。

しかし、今後は変わってくるかもしれない、と高橋さんは続けた。

「化学療法との併用だけでなく、今後は、他の分子標的薬や免疫チェックポイン���阻害薬とアバスチンの併用が出てくることになるでしょう。そうなると、アバスチンの可能性はグッと広がるかもしれません」

特に今注目されているのは免疫チェックポイント阻害薬との併用だそうだ。

「今年(2018年)1月に承認されたばかりのテセントリク(PD-L1抗体)との併用についてのトライアルが腎細胞がんで進められていて、テセントリクとアバスチンの併用が、現在の腎細胞がんの標準治療であるスーテントより無増悪生存期間が延長したとの結果が、今年の学会で発表されました。まだ全生存期間(OS)の延長までは出ていないので、今後の結果に期待するところです」と高橋さんは言及する。

ちなみに、免疫チェックポイント阻害薬とアバスチンを併用すると、どのような相乗効果が期待できるのだろうか。

「がん細胞が発するVEGFには、血管新生だけでなく、ある種の免疫機能を抑制する働きがあるといわれています。つまり、免疫機能を抑制するVEGFの作用を阻害して働かせなくすることで、免疫機能を上げる効果があると予測できるのです」と高橋さん。

VEGFの作用を阻害することによって、局所の血管の状態が明らかに変わる。それはつまり、局所の免疫反応が高まることでもある、と言うのだ。さらに高橋さんは続けた。

「腎細胞がんで、血管新生阻害薬のスーテントが標準治療になるほど効果があるのはなぜだろうと考えたとき、その機序には血管新生阻害だけでなく、免疫機能に対する作用もあるのではないかと推察できるのです。VEGFの受容体(VEGFR)を抑えることで免疫状態が変わって、腎細胞がんに対する免疫能が活性化するのではないか、という考え方です」

腎細胞がんの場合、血管新生阻害薬のスーテント単剤で効果が高い。かつ、免疫チェックポイント阻害薬だけでも効く。とはいえ、免疫チェックポイント阻害薬だけだと、奏効率はせいぜい2~3割程度だそうだ。それが、血管新生阻害薬と併用すると6~7割にも跳ね上がるというのだ。それはスーテント単剤を上回る数値で、つまり単剤でも効くが、併せるとさらに効果が高くなることを意味する。現在、血管新生阻害薬が効果を表すがん種で、免疫チェックポイント阻害薬との併用が順次試みられており、近い将来、その効果が明らかになるのではないか、と高橋さんも期待しているという。

その組み合わせは多岐にわたる。血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせはもちろん、オプジーボとヤーボイなど免疫チェックポイント阻害薬同士の組み合わせも試みられている。これらが成功して確立されたら、さまざまながん種で、化学療法へ進む手前での選択肢が増えることになるだろう。それは、がん治療において大きな前進であることは間違いない。最後に高橋さんはこう語った。

「化学療法とのコンビネーションは現時点で出尽くした感のあるアバスチンですが、今後は、免疫チェックポイント阻害薬との併用、あるいは、他の分子標的薬との併用という形で、目覚ましい結果が出る可能性を秘めていると思います」

スーテント=一般名スニチニブ ネクサバール=一般名ソラフェニブ インライタ=一般名アキシチニブ サイラムザ=一般名ラムシルマブ グリベック=一般名イマチニブ テセントリク=一般名アテゾリズマブ オプジーボ=一般名ニボルマブ ヤーボイ=一般名イピリムバブ

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