体重減少・食欲改善の切り札、今年いよいよ国内承認か がん悪液質初の治療薬として期待高まるアナモレリン

監修●古瀬純司 杏林大学医学部付属病院腫瘍内科教授/がんセンターセンター長
取材・文●半沢裕子
発行:2019年3月
更新:2019年7月


アナモレリン100mg、12週投与で骨格筋が増加

この試験は6カ月以内に5%以上の体重減少と食欲不振、倦怠感、全身の筋力低下などが見られた、手術不可能なⅢ期/Ⅳ期または術後再発の非小細胞肺がんの患者さんを対象に、アナモレリン50mg、100mg、およびプラセボを非盲検下(どの薬を服用しているかわからない状態)で12週間投与した結果を比べたものだ。

各群の人数は54名で、主要評価項目は除脂肪体重(LBM)と握力。除脂肪体重とは骨格筋の重さで、悪液質の特徴が筋肉低下に伴う体重減少であるため。同様に、筋力の指標として握力が選択されている。また、副次評価項目として体重やQOLについて見ることとした。

結果はアナモレリン100mg群で除脂肪体重が投与8週、投与12週で明らかに増加した。握力でもアナモレリン100mg群に増加傾向が見られたが、統計学的な有意差は出なかった。

副次評価項目の体重とQOLについても100mgで改善が認められた。とくにQOLについては日常生活、約30分の散歩、1人での入浴などに回答があり、活動性が高まったことがわかった。また、食欲があった、食事がおいしいなどにも回答があり、患者が「食事を食べられて元気になった」ことが確認された。全体としてOS(全生存期間)に有意差は認められなかったが、重篤な副作用は見られず、高い忍容性が認められた。

忍容性=薬物によって生じることが明白な副作用が、被験者にとってどれだけ耐え得るかの程度を示したもの。薬物の服用によって、副作用が発生したとしても被験者が十分耐えられる程度であれば、忍容性が高い薬物」となる

非小細胞肺がんでの再試験でも体重、食欲は増加

しかし、主要評価である握力について有意差が得られなかったなどから、この試験では再チャレンジが行われ、その結果が2017年12月、アメリカがん協会の「Cancer」誌に発表された。これが、今回の申請の根拠のひとつとなった➀ONO-7643-04試験だ。

この試験も先の試験と同様の条件を持つ非小細胞肺がんの患者を対象に、アナモレリン100mgとプラセボを、やはり非盲検下で12週間服用した結果を比べた第Ⅱ相臨床試験だ。各群の人数はアナモレリン群83名、プラセボ群90名で、主要評価項目は除脂肪体重のベースラインからの変化、副評価項目は食欲、体重、QOL、握力、6分間歩行の変化となっている。

除脂肪体重のベースラインからの平均変化は、プラセボ群が0.17kg減少したのに対し、アナモレリン群は1.38kg増となった。除脂肪体重、体重、食欲不振症状のベースラインからの変化は、あらゆる時点で2つの群の間で有意な差を示している。残念ながら、握力と6分間歩行では2群に有意差が見られなかった一方、忍容性は良好だった。

消化器がんでも有意な差が

そして2018年7月、第16回日本臨床腫瘍学会で発表されたのが、➁大腸がん、胃がん、膵がんの患者を対象にした第Ⅲ相試験だ。

この試験は進行した大腸がん、胃がん、膵がんで、6カ月以内に5%以上の体重減少があり、食欲不振で全身状態(PS)が0~2(膵がんでは0~1)と比較的良好なⅢ~Ⅳ期の患者を対象に、アナモレリンを12週間投与するもので、主要評価項目は除脂肪体重、副次評価項目が食欲、体重、脂肪量、QOLなど。対照群はなく(非盲検非対照)、12週間後に投薬を中止し、評価項目について調べた。患者の数は50名で、大腸がんが40名、胃がんと膵がんが5名となっている。

結果は解析可能だった49名のうち、31名(63.3%)において除脂肪体重が減らなかった。がん種別では、大腸がんが61.5%(24/39名)、胃がん40%(2/5名)、膵がんでは100%(5/5名)で除脂肪体重が減らなかった。

ベースラインと比較した12週間後の除脂肪体重の増加は平均1.89倍で、➀の非小細胞肺がんにおける臨床試験の1.38倍を上回るものとなった。また、開始後3週、6週、9週、12週における除脂肪体重の変化、体重変化も➀に類似しており、QOLやバイオマーカーもほぼ同様の経過をたどっている(図4)。

QOLの中でも食欲に関する質問、「食欲はありましたか」、「食事がおいしいと思いましたか」には、「よい」と答える患者が多かった。

有害事象についても➀と同様、ほぼ問題なく、42.9%(21/49名)に認められたものの、グレード3以上は10.2%(5/49名)にとどまっている。忍容性は十分と古瀬さんは言う。

「副作用はほとんどなかったですね。比較的糖尿病が出やすいのですが、今回は3名(6.1%)でこれは全員グレード3でした。また、ほかにグレード3だったのはγGTPの数値の上昇(1/4名)、リンパ球減少(1/1名)ですが、いずれも治療継続の問題にはならず、投薬中止に至ることもありませんでした。ですから、忍容性は十分と結論しています」

逆に、食欲がわいて嬉しいといった患者が多く、臨床試験のため12週で投薬が終了したときにはがっかりした患者が多かったと感じたそうだ。中でも印象に残っているのは60代の膵がんの女性で、みるみる食欲が出て、体重が増えた。

「膵がんを対象に含めたのは、膵がんの患者さんが一番痩せて食べられなくなってしまうからです。ただ、膵がんは進行が速いため、試験の期間にも状態が悪くなることが推測され、困難を予想しました。けれども、5人の患者さんのほとんどに食欲が出て、除脂肪体重は全員増加し、結果として膵がんの成績が一番よかったと言えるのではないかと思います」

非小細胞肺がんに続き、消化器がん(大腸がん、胃がん、膵がん)でも、ほぼ同等の有効性が確認された、がん悪液質治療薬アナモレリン。1日も早い承認が望まれるが、年内にも承認されるだろうと予測する医療関係者は多い。待ち望んだがん悪液質初の治療薬を患者が服用できる日は近いと言えるだろう。

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