長期照射による療法で20%ががん消失 直腸がんの術前化学放射線療法で、予後・QOLが改善
抗がん剤+放射線でがん消失
手術前に放射線を照射する治療法は大きく分けて2つの方法があります。
1つは、1回に当てる放射線の量を多くして、短期間のうちに終えてしまう短期照射。具体的には1日5グレイを5日間連続して照射し、1週間で治療を終える方法です。
もう1つは、1回1.8か2グレイを1週間に5回、5週間かけて照射する長期照射する方法で、こちらの方法では効果を強めるために、抗がん剤を一緒に用いる化学放射線療法です。貞廣さんは長期照射を採用しており、日本では多くのところが長期照射です。
「抗がん剤は放射線の効果を高めるために使います。使用する抗がん剤は5-FU(*)系統の薬が基本となっています。一方、短期照射は1回5グレイで線量が強く、抗がん剤を一緒に使うと副作用も強くなるため、放射線のみです」
放射線と一緒に抗がん剤を使ったほうがいいかどうかを検証したフランスの比較試験では、放射線のみを行った場合では、局所再発率は17.1パーセントでしたが、化学療法を併用すると7.6~9.6パーセントと、有意に局所再発率が減少しました。
注目すべきは、長期照射で化学放射線療法を行うと、患者さんの約20パーセントがpCR(病理学的完全奏効)、つまりがんが消えてなくなっていることです。
「その人たちは手術をしないでそのままでいいかというと、いくらがんの本体が見えなくなっても周辺のリンパ節にがんが残っている可能性が高く、やはり手術は必要というのが原則です」
*5-FU=一般名フルオロウラシル
生存率も有意に改善した

東海大学医学部付属病院では1回1.8グレイを5週間かけて照射し、同時に5-FU系統のTS-1(*)を経口投与。その後、手術を行っています。
世界各国の報告では、全体としての生存率の��善にはつながっていないとの問題点も指摘されていますが、東海大学病院では生存率も有意に改善されていることがわかっています。
「化学放射線療法によって局所再発が抑えられた患者さんは、遠隔転移も少なくなり生存率も高くなっています」
術前の化学放射線療法で効果があった患者さんの場合は、2期、3期だった病期が、0期、1期と病期がダウンしたケースがあり、このような場合も全身的な再発が少ないといいます。
病期のダウンが得られなかった場合、局所への転移が抑えられても肝臓や肺への転移が多くなるわけですから、全身の化学療法を行った上で手術したほうが、効果が高い可能性があります。これについての試験がヨーロッパなどで行われています。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
術後の化学療法は有効か?

肝臓と肺の再発を抑えるためには、手術後に抗がん剤による補助療法が有効との報告があります。そこで、術前の化学放射線療法で反応が悪かった人には、術後の全身化学療法を追加できないか、臨床試験が行われていると貞廣さんは話しています。
ただしフランスの研究では、手術を受けた人は体のダメージが大きく、副作用が強くて術後の補助化学療法が6割ぐらいしかできていないという結果が出ていて、簡単ではないようです。
化学放射線療法による副作用としては、血液中の白血球が減ったり、食欲が落ちたり、下痢をしやすくなったりする ことがあります。
また、放射線の影響で、何年かあとになって腸閉塞をおこしたり、放射線が当たった部分に骨折が多くなったという報告や、性機能や肛門の機能が低下したという報告もあります。
これらの対策としては、従来は前後から放射線を当てる2門照射だったのを、左右からの照射も加えて4門照射にすることで、直腸がん以外の部分に放射線を当てすぎないようにして副作用を少なくしているといいます。
日本では普及が遅れている
しかし、術前化学放射線療法の最大の問題点は、世界では標準治療となっていても、日本ではまだこの治療法を行っているところが少ないということでしょう。
日本で普及していない理由は、放射線治療を行える施設が少なく、どこの医療機関でも化学放射線療法ができるわけではないからです。
これについて貞廣さんは次のように語っています。
「放射線は通院で治療を受けられます。放射線照射のときだけ別の医療機関で行う方法もあり、どこでもできる治療になることを願います」
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