効果は大きく上がったが、医療費も大きく上がって~飲む抗がん剤を上手く利用しよう!大腸がんの化学療法

監修:小松嘉人 北海道大学腫瘍センター副センター長・診療教授
取材・文:がんサポート編集部
発行:2011年12月
更新:2013年7月

ネックは医療費か

[各薬物療法の薬剤費比較]

治療法
BSA 1.50㎡で計算
月間薬剤費 年間薬剤費
IRIS 約130,000円/4週 162万円
XELOX 約190,000円/4週 228万円
FOLFIRI 約223,000円/4週 267万6千円
FOLFOX4 約399,000円/4週 478万8千円
mFOLFOX6 約403,000円/4週 483万6千円
FOLFOX4+ベバシズマブ 約840,000円/4週 1008万円
イリノテカン+セツキシマブ 約1,320,000円/4週 1584万円
FOLFOX4+ベバシズマブ+セツキシマブ 約2,100,000円/4週 2520万円

さて、このFOLFOX、FOLFIRI療法に分子標的薬を加えるのが世界の標準治療と言いましたが、3つのうち、それぞれどう使っていくのがいいのでしょうか。

「アバスチンは、がん細胞に酸素や栄養を送る血管を阻害し、がんを兵糧攻めにする薬であり、さまざまながんに使えます。また他には、上皮成長因子受容体と呼ばれる受容体にくっついて、がんの成長をおさえるアービタックスとベクティビックスがあり、この2つの薬剤はほとんど同じ作用をする薬ですが、投与方法が違います。アービタックスは毎週投与する必要があるので、毎週病院へ通うほうが安心という人向き。一方、ベクティビックスは2週に1度の投与なので、働いている人にはいいかもしれません。またこの2剤は、アバスチンよりも効果が現れるのが早いと言われています。がんを縮小させる効果が早くから起こったり、症状のつらいときにこの薬を使うと早く緩和できたりします」

では、この薬剤はいつ使うのが効果的なのでしょうか。

効果のある薬の使い方には、①後に取っておくという考え方と、②早い段階から使ったほうがよいという考え方と2つあるが、この使い方については、医療界でも議論になっていて、まだ結論が出ていないそうです。

それよりも、分子標的薬の使���に関しては、問題はコストかもしれません。

「たとえばアバスチンとアービタックスの2剤をFOLFOXと併用して使った場合、年間2520万円、保険がきいて3割負担でも756万円かかります。もっとも、この2剤の併用は臨床試験で効果がないことが明らかになりましたが、それでも、イリノテカンとアービタックスの併用でも年間1580万円、FOLFOX・アバスチン併用では年間1000万円もかかります。分子標的薬を使うには、この医療費が1番のネックになるかもしれません」

日本で考案された治療法

[日本で使える経口剤による併用療法]
日本で使える経口剤による併用療法

LV+5-FUと経口剤(Xeloda,LV+UFT)は同等であることが臨床試験で証明された。 XELOXと(XELIRI)も標準的治療と同等と見なされるようになった

そこで、小松さんは、「新しい治療法として、飲む抗がん剤を考えてみてはどうでしょう。これなら、効果もあるし、医療費的にも安くて使いやすいです」と提案します。

具体的には、ゼローダやTS-1という飲む抗がん剤の利用です。

「海外での臨床試験結果によれば、FOLFOXやFOLFIRIで使う5-FUとアイソボリンの併用とゼローダとは同等の効果があり、その併用部分をゼローダに置き換えたXELOX療法、XELIRI療法は、FOLFOX療法やFOLFIRI療法に負けない効果を持つことが最近明らかになったのです。これを使えば、長期間の持続点滴をする必要がなくなり、飲み薬と2時間の点滴だけで実施できます」

[IRIS療法とその効果]
IRIS療法とその効果

Komatsu Y et al; Oncology 2011

これに加えて、小松さんは「IRIS療法という新しい併用療法の使用」を提案しています。IRISとは、注射薬のイリノテカンと飲み薬のTS-1を併用した治療法であり、FOLFIRIの持続点滴を飲み薬に代えた治療法です。実は、この治療法は小松さんが考案した治療です。

「FOLFOX療法を先に行うと、手足にしびれが出て、3、4カ月で治療を中断せざるを得ない方が多い。しかし、このIRISを先に実施すればもっと長く治療を継続できるのではないか、そして長く継続できれば長い延命効果につながるのではないかと考えて、この併用療法を考え出したのです」

効果とコストの両面で

[IRIS療法とFOLFIRI療法との比較]
IRIS療法とFOLFIRI療法との比較

IRIS療法の効果(第2相試験)はどの程度かというと─

生存期間(中央値)は23.4カ月

奏効率は52.5パーセント

世界のトップデータを見ても、FOLFOX等による生存期間は20~21カ月程度ですから、世界と比べても遜色ありません。

臨床試験でこのIRIS療法とFOLFIRI療法を比較したところ、効果は同等という結果が出て、これは世界でも権威がある学術誌「ランセットオンコロジー」に昨年掲載されました。この治療法は、効果の上では申し分ないことが明らかになったのです。

「しかもこれなら、FOLFOXやFOLFIRIのように、体の中にポートを造ったり、首から携帯ポンプをぶら下げて点滴する必要ありませんし、コストの面でもXELOX療法と並んでとても安く、月13万円ほどの格安療法です。患者さんにとっては、非常に利用しやすい治療法ではないでしょうか」

このように、治療を長く続けていくためにはその治療法の効果とコストの両面でメリットがなければいけないのである。


1 2

同じカテゴリーの最新記事