FOLFOX・FOLFIRIを軸に、さらなる組み合わせに可能性 組み合わせがカギ、再発大腸がんの最新化学療法

監修:加藤健志 関西労災病院下部消化器外科部長
取材・文:繁原稔弘
発行:2011年6月
更新:2014年3月

分子標的薬との組み合わせに可能性あり

アバスチン、アービタックス、ベクティビックスは分子標的薬と呼ばれる薬剤の1つです。

分子標的薬はがん細胞に多く含まれている特定の分子を攻撃することで、抗がん効果を発揮します。正常細胞にはこの標的が少ないため、正常細胞が攻撃されることが少なく、副作用も少ない傾向にあります。

有効性については、いずれも欧米の臨床試験の結果ではありますが、大規模の臨床試験において、1次療法ではFOLFOX療法にはアバスチンとベクティビックスの有効性が証明されていますが、アービタックスは有効性を証明することができませんでした。

FOLFIRI療法にはアービタックスの有効性が証明されていますが、アバスチンとベクティビックスでは大規模な試験は行われていません。ただアバスチンでは、FOLFIRI療法と同じカンプト/トポテシンと5-FUを併用したIFLで有効性が証明されています。

使い分には有効性・副作用を考慮

その他にも複数の比較試験で、その当時の標準治療にアバスチンを併用して治療した結果、無増悪生存期間が全てにおいてアバスチンを併用したほうが、効果が高かったという報告があります。

分子標的薬の使い分けは、有効性と副作用を考慮して決定します。有効性を切除率と生存率の延長で比べてみると、切除率において明らかな差はありません。さらに生存率の延長効果にも差はなく、有効性においては大差ありません。

[図4 アービタックスやベクティビックスの副作用]

  FOLFOX±アービタックス FOLFOX±ベクティビックス
  アービタックス+
FOLFOX
FOLFOX ベクティビックス+
FOLFOX
FOLFOX
皮疹(%) 18 0.6 36 2
口内炎(%) 0 1.2 9 1
爪周囲炎(%) 2.4 0 3 0
下痢(%) 8 7 18 9
アレルギー(%) 5 2 < 1
出典:Douillard J et al ESMO 2009

副作用では、ベクティビックス、アービタックスで強い皮膚障害を高率に認めますが(図4)、アバスチンは副作用が少なく、1次療法でFOLFOX療法と併用するならアバスチンを1次療法として用いることが多いです。

ただし、アービタックスやベクティビックスがよく効く場合があることが知られており、今後はどのような場合によく効くか検討することが必要となっています。

2次・3次療法では大腸がん治療ガイドラインにおいて推奨されている治療法が、3次療法ではベクティビックス・アービタックスのみで、アバスチンを使用することが推奨されていません(図5)。

ベクティビックスとアービタックスは同じ抗EGFR抗体であり、無効になった後、複数回使用することは推奨されず、3次療法を施行するならベクティビックス・アービタックスは1次・2次では用いず、3次療法で使用することになります。

2次療法はアバスチンを引き続き用いるか、FOLFIRI療法を単独で行うことが多いです。

ベクティビックス・アービタックスを1次療法や2次療法で用いる場合は、アバスチンが使えない場合や、3次療法を施行できないような進んだ症例の場合に行う場合があります。

[図5 切除不能進行・再発がんに対する化学療法]
図5:切除不能進行・再発がんに対する化学療法

FOLFOX=フルオロウラシル+ホリナートカルシウム+オキサリプラチン
FOLFIRI=フルオロウラシル+ホリナートカルシウム+イリノテカン
『大腸癌治療ガイドライン』2010年版より改編(大腸癌研究会)

新薬の開発治療法の研究

このように、ここ10年ほどの間に画期的な新薬が矢継ぎ早に開発されことで再発大腸がんの治療法の選択肢はどんどんと広がってきました。

だが、大腸がんの"この次"の治療に関しては、残念ながら、新薬の開発が停滞していると加藤さんは言う。

「さまざまな分子標的薬が開発されているのですが、副作用が強いためなどの理由で使用できない場合が多いと聞いています。だから新薬にはあまり大きな期待はできないのが現状です」

しかし、既存の薬には使用法や組み合わせを工夫することによって、新しい効果が期待できるという。

「画期的な次の新薬開発にはまだ数年はかかると思います。しかし、諦める必要はありません。既存の薬剤の組み合わせ方にも、まだまだ可能性があります。アバスチンの上乗せ効果のような新しいいい組み合わせが出てくるかもしれません。今は、そうした新しい組み合わせなどの研究に懸命に取り組んでいます」

医療費の高額化と医療制度

最後に、最近の医療費の高額化について加藤さんはこんな注意も促す。

「これまで説明してきた治療法は、確かに効果は認められていますが、治療費は年々高額化しています。医師は、治療に当たっては、コストを度外視してベストの治療法を提示するのが常ですから、患者さんは治療を経済的な面からもしっかりと考えていく必要があると思います。だから、治療費がどのくらいかかるのか、遠慮なく聞かれたらよいと思います」

現在、病院などの窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる目的で支給される高額療養費制度があり、病院のソーシャルワーカーなどに相談すれば、それを利用するためのアドバイスもしてくれるはずだ。

治療法だけでなく、医療制度についても正しく知っておくことは、患者さんの重要な心得と言っていいでしょう。


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