副作用対策をきちんとしながら薬の効果を最大限に発揮させる 再発しても3年を目指せ! 大腸がんの最新化学療法

監修:土井俊彦 国立がん研究センター東病院消化器内科医長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2010年6月
更新:2013年4月

FOLFOXとFOLFIRIどちらを先に使うべきか?

では、FOLFOXとFOLFIRI、どちらを先に使うべきか。FOLFIRIの臨床試験では1次治療にFOLFIRI、2次治療にFOLFOXを投与した場合と、順番を逆にした場合で効果を比較。その結果、どちらでも治療効果は変わらないことが示され、FOLFIRIがFOLFOXに劣らない効果を持つことが証明された。この結果から、どちらの治療法を先に行っても効果は変わらないとされている。

ただし、土井さんによると「進行・再発大腸がん治療は5-FU+ロイコボリン、エルプラット、カンプト/トポテシンという3剤をうまく組み合わせることで、生存期間が延びてきたのです。それも、3剤を使いきった人ほど、生存期間が長くなっている」そうだ。つまり、順番よりも1次治療が効かなくなったら次の治療法と、3つの薬を変えながら使い切ることがより長い生存につながるのである。

アバスチンの併用で上乗せ効果

さらに、ここ数年の間にFOLFIRIやFOLFOXの効果を底上げしたのが分子標的薬だ。今では、1次治療や2次治療にアバスチンを併用するのが、世界的な標準治療になっている。

アバスチンは、がんの増殖に不可欠な血管新生を阻害するモノクローナル抗体。VEGF(血管内皮細胞増殖因子)にとりついて働きを阻害し、がんを養う新生血管ができるのを阻止する。

土井さんによると、「これまでに行われた試験からFOLFOXやFOLFIRIなど5-FUをベースとした化学療法にアバスチンを併用すると無増悪生存期間や全生存期間が長くなることが証明されている」そうだ。

たとえば、米国では当時の標準治療だったIFL療法(+偽薬)とIFL+アバスチンの併用療法で比較試験が行われた。その結果、奏効率(34.8対44.8パーセント)、無増悪生存期間(6.2対10.6カ月)、生存中央値(15.6対20.3カ月」と、いずれもアバスチンを併用したほうが効果が高いことが証明された。

さらに、有名なのがNO16966という臨床試験。この試験はもともとXELOXの効果がFOLFOXに劣らないことを証明するために組まれたものだった。FOLFOXは��2日間に及ぶ5-FUの持続静注が必要になる。今は、リザーバー()の植え込みで自宅でも投与できるとはいえ、簡便な方法が欲しいと開発されたのが、5-FUの代わりに経口抗がん剤ゼローダを使うXELOX療法だ。

ところが、この試験の最中にIFL療法にアバスチンを併用すると、治療効果が高くなることが明らかになり、NO16966の試験でも同時にアバスチン併用の効果をみることになったのである。

その結果、(1)XELOX療法がFOLFOXと同等の効果がある(2)アバスチンを併用すると、上乗せ効果がある――ことが示された。

この試験では無増悪生存期間がアバスチンの併用で8カ月から9.4カ月に1.4カ月長くなっただけだったのだが、その他の臨床試験ではアバスチン併用群の無増悪生存期間は10~11.3カ月と良好。FOLFIRIにアバスチンを併用した試験でも、同じような数字が出ている。

こうした試験の結果から、「1次療法には、アバスチンの併用が臨床上問題がない限り、必須と考えられる」そうだ。

リザーバー=血管内に刺した細い管を皮下に留置しておき、必要なときに対外から接続して薬剤などを投与できるようにするための小さな器具

[ベバシズマブ併用による治療成績]

レジメン 奏効率
(%)
無増悪
生存期間(月)
全生存期間
中央値(月)
治 療 試 験 試験段階
FOLFOX4+ベバシズマブ 47 9.4 21.2 1次治療 NO16966 第3相
XELOX+ベバシズマブ 46 9.3 21.4 1次治療 NO16966 第3相
FOLFOX+ベバシズマブ 46 11.4 24.5 1次治療 PACCE 第3相
XELOX+ベバシズマブ 50 10.7 20.3 1次治療 CAIRO2 第3相
mFOLFOX6+ベバシズマブ 52 9.9 26.1 1次治療 TREE-2 第2相
XELOX+ベバシズマブ 46 10.3 24.6 1次治療 TREE-2 第2相
FOLFOX4+ベバシズマブ 22 7.2 12.9 2次治療 E3200 第3相
出典:Mebio2010別冊

2次、3次治療にアービタックス

日本では、08年にアービタックスが認可された。アービタックスは、EGFR(上皮増殖因子受容体)を標的としたマウス(ネズミ)とヒトのキメラ型モノクローナル抗体。EGFRにとりついて、細胞内に、細胞増殖や血管新生などのシグナル伝達が起こるのを阻害する薬だ。

進行・再発大腸がんの場合、アービタックスは2次治療、3次治療としての研究が進んでいるという。興味深いのは、カンプト/トポテシンを使った化学療法が効かなくなり、がんが増悪した人でもカンプト/トポテシンとアービタックスを併用すると、再びカンプト/トポテシンの効果が得られることだ。また、エルプラット、カンプト/トポテシン、5-FUに奏効しなくなった場合でも、アービタックスを単剤で使うとなお延命効果があることが示されている。

こうしたことから、土井さんは「アービタックスはFOLFOXやFOLFIRI、あるいはカンプト/トポテシンが効かなくなった時点で、カンプト/トポテシンと併用することが推奨されています」と話している。

NCCN(米国総合がんセンターネットワーク)ガイドラインでは、1次治療から併用療法が記載されているが、頻度は高くないのが現実のようだ。日本では、前述の治療が効かなくなった3次治療としてアービタックスとカンプト/トポテシンの併用、あるいはアービタックス単剤での投与が認められている。

また、最近アービタックスの効果予測因子として注目されているのが、KRASというがん遺伝子だ。これまで行われた臨床試験の結果を解析したところ、「KRAS遺伝子に変異があると、アービタックスを併用しても上乗せ効果がない」ことがわかったという。

1次療法としてアービタックス併用も研究されているが、今のところアバスチン併用を凌駕するほどの結果は出ていない。

「KRASの遺伝子変異がある人は、約4割います。つまり、6割の人はアービタックスの効果が期待できるわけですが、アービタックスの病勢コントロール率は6割ぐらいなので、36パーセントぐらいの人にしか効かないことになります。この点も、まずアバスチンの併用療法が先行して行われる背景です。またアービタックスは、効果の予測因子もわかっているし、キレもよく、すぐに効果が出ます。それに比べてアバスチンは、効果が出てくるまでに3カ月ぐらいかかります。ですから、状態のよいときに使ったほうがよい薬なのです。また、アバスチンは抗がん剤との併用でしか効果がないので、それに耐えられるだけの体力が必要です。アービタックスは単剤でも効果があるので、状態が悪くなった段階でも投与が可能です」

まずはアバスチンの併用療法、それが効かなくなったらアービタックスというのが一般的な治療であると思われる。

[セツキシマブにおける各種臨床試験の成績]

試験 レジメン 症例数 奏効率
(%)
無増悪生存
期間(月)
全生存期間
(月)
CRYSTAL
試験(1st)
FOLFIRI+セツキシマブ 608 46.9 8.9 19.9
FOLFIRI 609 38.7 8.0 18.6
    P=0.005 P=0.036 P=0.931
OPUS
試験(1st)
FOLFOX4+セツキシマブ 168 45.6 7.2 無効
FOLFOX4 169 35.7 7.2 無効
    P=0.063 P=0.62  
BOND
試験
(2nd、3rd)
      (無増悪期間)  
セツキシマブ+イリノテカン 218 22.9 4.1 8.6
セツキシマブ 111 10.8 1.5 6.9
    P=0.007 P<0.001 P=0.48
EPIC
試験(2nd)
イリノテカン+セツキシマブ 648 16.4 4.0 10.7
イリノテカン 650 4.2 2.6 10.0
    P<0.001 P<0.001 P=0.71
NCIC CTG
CO.17試験(3rd)
セツキシマブ+ベストサポーティブケア 287 8.0 1.9 6.1
ベストサポーティブケア 285 0 1.8 4.6
    P<0.001 P<0.001 P=0.005
出典:腫瘍内科第3巻第1号

[KRAS変異がない患者群のセツキシマブ併用の有無別の治療成績]

試験 セツキシマブ併用の
有無
症例数 奏効率
(%)
無増悪生存
期間(月)
全生存期間
(月)
CRYSTAL
試験
併用群 172 59.3 9.2 24.9
非併用群 176 43.2 8.7 21.0
    P=0.0025 P=0.017 P=0.22
      ハザード比=0.68 ハザード比=0.84
OPUS
試験
併用群 61 60.7 7.7 無効
非併用群 43 37.0 7.2 無効
    P=0.011 無効  
EPIC
試験
併用群 97 10.3 3.98 11.56
非併用群 95 7.4 2.79 10.94
  合計192 無効 ハザード比=0.77 ハザード比=1.28
NCIC CTG
CO.17試験
併用群   12.8 3.8 9.5
非併用群   0 1.9 4.8
  合計230 無効 P<0.0001 P<0.0001
      ハザード比=0.40 ハザード比=0.55
出典:腫瘍内科第3巻第1号


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