副作用対策をきちんとしながら薬の効果を最大限に発揮させる 再発しても3年を目指せ! 大腸がんの最新化学療法

監修:土井俊彦 国立がん研究センター東病院消化器内科医長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2010年6月
更新:2013年4月

術後補助化学療法でもFOLFOX

欧米とほぼ変わらない治療が受けられるようになったが、今だに欧米と考え方の違いがあるのが再発予防を目的とした術後補助化学療法だ。

今、日本で術後補助化学療法として、ガイドラインで推奨されているのは、次の3療法。

(1)5-FU+ロイコボリン

(2)UFT+ロイコボリン

(3)ゼローダ

※注意 もっとも新しいガイドラインでは、病期3期においてFOLFOXの使用が記載されている

MOSAIC試験では、2期と3期の術後患者に、5-FU+ロイコボリンか、これにエルプラットを加えたFOLFOX療法を6カ月間投与。3年無病生存率()をみると2期では差がなかったが、3期では78.2対72.9パーセントとFOLFOX療法が高いことがわかり、標準治療になった。5年無病生存率をみると、2期は83.7対79.9パーセント、3期は66.4対58.9パーセントといずれもFOLFOX療法のほうが高い。6年生存率でも3期は72.9対68.7パーセントと約4パーセント、FOLFOX療法のほうが高かった。

[オキサリプラチンの効果 5年無病生存率(MOSAIC試験)]

  FOLFOX4 ホリナート+5-FU ハザード比
(95%信頼区間)
P値
全例 73.3% 67.4% 0.80(0.68~0.93) 0.003*
追跡期間中央値 73.5カ月 73.4カ月    
病期3 66.4% 58.9% 0.78(0.65~0.93) 0.005*
病期2 83.7% 79.9% 0.84(0.62~1.14) 0.258*
病期2(再発高リスク) 82.3% 74.6% 0.72(0.50~1.02) データなし
再発高リスク(右記のいずれか1つを含む)症例:T4(深達度)、穿孔、腸閉塞、低分化型、静脈浸潤、検査リン パ節個数10個未満
*ログランク検定 出典: J Clin Oncol 2009

2期の全生存率で差がなかったのは、再発後もゼローダやカンプト/トポテシンでの治療が効果をあげているためと推測されている。再発後も化学療法が効果をあげているのは、朗報でもある。しかし、問題はそのとらえ方、考え方だ。

土井さんは、「欧米では、2期と3期が術後補助化学療法の対象になっていますが、日本では基本的に3期が対象。FOLFOXに関しては、患者さんに情報提供さえしていないところもあるのです」と現状を憂える。

2期では、臨床試験で3期ほどはっきりした差が示されていないということもあるが、欧米に比べて手術成績が高いことも理由にあげられている。2期、3期ともに日本は欧米より手術成績が高いので、エルプラットの併用すなわちFOLFOXの使用は慎重にという姿勢である。と言っても、土井さんによると「成績がよいと言っても数パーセントの差と考えている腫瘍内科医も多い」という。

この背景には、副作用の問題もある。エルプラットでは、しばしば末梢神経障害が問題になる。いわゆる、しびれだ。治療後数日から現れはじめ、「6カ月以上続ければ、ほとんどの人に軽度~中等度のしびれが現れる」と土井さん。冷たいものに触ると痛いような感覚があったり、指先や足先の感覚が鈍くなり、ボタンも止められない、箸を握るのもつらい。休薬で治る人もいるが、1年たっても治らない人もいる。

「わずか数パーセントの上乗せ効果のために、そんなに患者さんがつらい思いをするのは……とエルプラットの使用に消極的な医師が少なくないのです。でも、エルプラットを使用せずに再発したとき、患者さんがどう思うかを主治医は考えてほしい」と土井さんは言う。

「効果と副作用をあらかじめ知っていれば、つらくてもFOLFOX療法を受けたのに、という人もいるでしょう。3期の患者さんにはとくに、手術のあとになぜまたつらい化学療法を行うのか、という理由を情報提供して『完治を目指してはどうですか』と医師の考え方を伝えています。

20代の若い人ならば、たとえ2期でも選択肢を提供するべきではないでしょうか。薬の有効性と毒性、患者さんの仕事や家族などの環境、経済的な面、それぞれから化学療法を考えて欲しいです」

欧米人より体格の小さい日本人は、欧米のデータより早く副作用が出るかもしれない。

「そこまで考えて、早めに検査をしたり、状態が悪い人ならば近隣で小まめに診てくれる医師をコーディネートするなど、副作用をケアできる体制をとって、きちんと情報提供をしてほしい」と土井さんは言う。

3年無病生存率=試験登録の3年後に再発せずに生存している患者さんの割合

副作用対策をしながら薬の効果を最大限に生かす

[化学療法による副作用]

自分で気がつくもの
  • ●食欲不振
  • ●倦怠感
  • ●手足の皮膚障害
  • ●脱毛
  • ●嘔気
  • ●味覚障害
  • ●口内炎
  • ●腹痛
  • ●下痢
  • ●神経症状(めまい、手足のしびれなど)など
  • 検査でわかるもの
  • ●白血球や血小板の減少
  • ●肝機能や腎機能の障害など
  • 出典:大腸癌治療ガイドラインの解説2006年版

    エルプラットの副作用のしびれについては、「欧米では何万人もの人がエルプラットを使っています。耐えられないつらさならば日本人より痛みに正直な米国人が何年も使いつづけるでしょうか」と土井さんは語る。

    実際には経験的な工夫が行われており、「マグネシウム製剤の投与などの検討もされていますが実際には休薬することが多い」と土井さんは言う。

    また、休薬のタイミングについても、臨床試験の結果から「以前は、ドアノブが触れなくなるまで我慢してもらったのですが、今は冷たいスプーンや歯磨きで指が痛くなったら休薬するようになった」そうだ。これは、早い時期に休薬したほうが治りが早いことが臨床試験で分かったからだ。治ったら、また治療は再開できる。

    このように副作用をきちんと治療しながら化学療法の作用を最大限に生かすためには、「薬物療法の専門家が必要」と言う。

    アービタックスは皮疹が患者さんを苦しめるが、「今、皮疹の出ない薬も開発中」だと言う。

    今後新しい薬としては欧米で承認されているベクティビックス(一般名パニツムマブ)が日本でも申請済みで、そのほかにも新薬については分子標的薬を中心に研究が進んでいる。

    「5年前にはまだ日本ではエルプラットも承認されていなかったので、再発・進行大腸がんの化学療法は1年が目標でした。それが、今では生存期間中央値が2年。3年を超えて延命する人もいます。この5年でこれだけ進歩しているのですから、3年後にまた次の治療法が生まれていることも決して夢ではないのです」


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