直腸がんでは、9割以上で肛門の温存が可能に 手術件数が増加中の進行大腸がんの腹腔鏡手術

監修:奥田準二 大阪医科大学付属病院一般・消化器外科准教授
取材・文:塚田真紀子
発行:2009年7月
更新:2013年4月

開腹手術とくらべて再発率や生存率で差はない

開腹手術と腹腔鏡手術とを比べた、いくつかの臨床試験が欧米で行われました。その結果、進行がんに腹腔鏡手術を行っても、開腹手術よりも再発や術後の状態に悪影響はないことがわかっています。

現在、日本でも臨床試験の結果がまとめられようとしています。

当初の予定よりも、登録者数が200人近く増えました。それは、再発したり、亡くなったりする患者さんが少ないから登録者を増やさないと実際のところがわからなかった、ということです。ですから、欧米同様の結果が出ると予想されます。

[大腸がんに対する開腹手術と腹腔鏡下手術の比較試験]

Lacy A M et al.(Lancet 2002) 再発や予後に悪影響なし
ステージ3では腹腔鏡群のほうが予後良好
Leung K L et al.(Lancet 2004) 再発や予後に悪影響なし
COST Group(N Engl J Med 2004) 再発や予後に悪影響なし
COLOR Group(Lancet Oncol 2005) 再発や予後に悪影響なし
CLASSIC Trial Group(Lancet 2005) 再発や予後に悪影響なし
JCOG 0404 2004~2009 3 1057例(予定登録完了)

保険診療の面でも、すべての大腸がんに腹腔鏡手術が認められています。

2008年4月には、人工肛門になる直腸切断術に関しても保険が適用されました。費用の面では、腹腔鏡手術はいろいろな器具を使うため、開腹手術よりも9~10万円高い価格設定になっています。

腹腔鏡手術のメリットとしては、開腹手術よりも切開創が小さいために、術後の経過がとても楽なことが挙げられます。

退院までの日数やふつうの生活に戻れるまでの日数は、開腹手術の約半分です。また、術後の痛みや癒着が少なく、傷口への感染などの後遺症も少ないと言えます。肉眼では見えにくい細かい神経なども拡大して見ることができるので、大事な神経を傷つけずに済みます。

[手術後の経過の概要]

  開腹手術 腹腔鏡下手術
術後入院日数 2~4週間 1~2週間
通常の生活に戻れるまで 4~6週間 2~3週間
手術の傷跡 15~20cm 5mm~1cmー4~5カ所
3~6cmー1カ所
手術後の痛み 約7日間 約3日間

ただし、いいこと尽くめではありません。

腹腔鏡手術では触診ができず、視野が狭くて全体像をとらえにくい、2次元なので奥行きがわからない、などのデメリットがあります。ときには、開腹手術以上に時間や労力を要することがあります。十分に、トレーニングした医師の手術を受けることが肝心です。

日本内視鏡外科学会では、2004年から技術認定制度を始めました。

実際の手術の様子を記録したビデオをもとに、厳しい審査が行われています。大腸では、これまでに115名が合格しました。合格率は4割です。ちなみに、我々のチームにはその合格者が7人います。

術前の3D-CT撮影で手術リスクを回避

外来説明用紙1枚目
4枚からなる大阪医科大学付属病院の外来説明用紙1枚目

私たちは再発しないようにできるだけがんを取りきり、神経や肛門を残す腹腔鏡手術を行っています。

また、患者さんの満足度を向上させるために、いろいろと工夫しています。

初診外来では、病状や治療の選択肢、そして手術を希望される場合には入院・手術日や退院日まで、約30分かけて具体的に説明します。図や要点をまとめたシートに、患者さんの情報を書き込みながら話します。

入院中は、日めくりの治療計画表を患者さんに渡しています。その日に起こりうる問題を伝え、体調チェック、療養日記などを書き込んでもらいます。旅行と同じで、予定通りに物事が進むと、患者さんの満足度は高まります。希望者には、術後経過を説明します。

システムをマニュアル化する一方で、各スタッフは患者さんに対して個別に対応することを心がけています。

大腸がんの手術件数は10年間で5倍に増えました。2008年には、368件に達しました。そのうちの86パーセントが腹腔鏡手術で、年間の手術件数は、国内トップです。

手術件数が増えた背景には、患者さんがこの手術を求めていることに加えて、開業医の方々からの紹介が増えていることが大きいです。

昔であれば、開業医の方々は自分の出身大学に紹介することが通例でしたが、腹腔鏡手術の場合は事情が違います。彼らは腹腔鏡手術を実施している病院を探し、患者さんを紹介し、その手術の質を厳しく評価します。その結果、我々の手術が開業医の方々の信頼を得たのだと考えています。

当院で進行がんを腹腔鏡で手術した場合の5年生存率は、1期(がんが固有筋層に浸潤している場合)が98パーセント、2期(しょう膜に達しているが、リンパ節転移がないもの)が93パーセント、そして3期a(がんに近いリンパ節に3個以内の転移がある場合)では85パーセント、3期b(3期a以上のリンパ節転移がある場合)は71パーセントです。開腹手術と同等以上です。

我々には、お腹の中を立体的にとらえる「統合的3D-CT画像」という“秘密兵器”があります。これは当院の放射線科とともに考案したもので、国内外で初めて導入しました。

横行結腸や下行結腸にできるがんは、頻度が低い上に、患者さんによって血管の位置の違いが大きく、見分けにくい。

そこで、手術前に、「統合的3D-CT画像」を撮影します。造影剤の静脈点滴後に撮影すれば、がんにつながっている血管の位置が、一目瞭然です。綿密に手術の作戦を立てることが可能になります。これによって、患者さんの手術の負担を軽くできます。

直腸がんの9割で肛門の温存が可能に

また、できるだけ肛門を温存する腹腔鏡手術を行っているのも、当院の特徴です。

昔は肛門から5センチ以内にがんがあれば、永久的に人工肛門になりました。それが、今では肛門から4センチ前後であっても、進行がんがそれほど大きくなく、また、深くなければ、肛門を残せるようになりました。

さらに、肛門から2~3センチの位置に進行がんができた場合でも、がんと肛門付近にある内外括約筋の一部を切り取るだけで、肛門を残せる場合もあります。その場合は、大腸がうまくつながるまで、小腸を外に出して一次的人工肛門にします。

最近では、大きな直腸がんを術前の化学放射線療法によって小さくしてから取りきり、肛門を残す、といった質の高い治療も行っています。技術が進歩した結果、当院では、直腸がんの9割以上で肛門を残せています。

内視鏡外科学会の技術認定取得者から手術を受けよう

2期の一部と3期の人たちには、術後に再発予防のための抗がん剤治療も行っています。

腹腔鏡手術を受けることのできる病院を探すには、インターネットで紹介されている、日本内視鏡外科学会の技術認定取得者とその勤務先が参考になります。ランキング本などで調べれば、各医療機関の手術件数がわかります。

病院を見つけたら、実際に受診し、話を聞いてみましょう。慌てる必要はありません。がんは発見されるだいぶ前からできているのですから。肛門を残せるか、など医師の説明を理解し、納得した上で手術を受けてください。

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