西洋型の食事は、大腸がんを再発させやすい

監修:石川秀樹 健保連大阪中央病院消化器科部長
取材・文:増山育子
発行:2007年12月
更新:2013年9月

良質のタンパク質で体力をつける

入院治療で低下した体力を回復させるために、退院後は消化吸収のよいもの、いわゆる「良質のタンパク質」、たとえば白身魚や豆腐などをとるようにする。生や表面をあぶっただけのものより、煮たもののほうが消化吸収はよくなる。

大腸がんの人は貧血がきっかけで発見されることが多く、術前に鉄剤や輸血で治療をしているが、手術による出血などで軽い貧血が残っている場合もある。

貧血の改善のために、鉄分をとるよう心がける。鉄分は豚肉や牛肉に多いが、あまり豚肉や牛肉に偏らず、小松菜やほうれん草のような色の濃い野菜や貝類、背の青い魚などから摂取するようにするのがよい。

手術の傷も治り、貧血や下痢などの症状も改善してきて、安定した後は体調にあわせて食べることが大切である。

大腸の手術をした人は、腸管の働きが落ちているので、体調が悪いときに無理をして、肉類や生もの、とくに消化吸収の悪い油っぽいものは避けたほうがよい。

脱水の予防に水分コントロールを

大腸の役目は体内の水分をコントロールすること。大腸を切除して短くなった人は「水分コントロールが下手になる」ことは否めない。便秘を防ぎ、腸閉塞などを招かないために、脱水の予防、水分コントロールは重要課題である。

まず十分な水分補給が基本。しかし、冷たすぎる水や一気に大量の水を飲むと、腸を刺激し、下痢が悪化することもあるため、湯冷ましくらいのぬるい水を1日何回にもわけて少量ずつゆっくり飲むのがコツだ。

必要な摂取量は食事以外に1~2リットル。「ミネラルウォーターのペットボトルを午前中に1本、午後1本程度、飲むように工夫してみてください」と石川さんはアドバイスする。

また、体調が悪いときや下痢のときなどは「吸収のよい水分」をとります。たとえばスポーツドリンク系のもの。また、少しだけ塩分が入ったものも吸収がよいので、野菜スープ、おかゆなどもよい。なお、スポーツドリンクは砂糖が入っているので普段は大量に飲むのは避ける。

熟成にんにく抽出物は免疫力を高める

石川さんらは、手術不可能な進行がんの患者さんに、「熟成にんにく抽出物」(AGE)というにんにくを熟成させた成分を投与する臨床試験を行っている。

AGEは動物実験でがんの予防効果や免疫を高める作用があることがわかっている。がんの末期では免疫力が低下してくるため、いろいろな病気を起こしたり、がんの進行が早まったりする。臨床試験は一方のグループがAGEのカプセルを、一方のグループは偽物のカプセル(偽薬:プラシーボ)を6カ月飲んで、免疫機能の改善やQOL(生活の質)の向上などの効果があるのかをみるものだ。

「結果は、患者さんのQOLは両グループ共にあまり低下しなかったので、QOLの改善効果については明らかにできませんでしたが、AGEを飲んだグ��ープでは、NK細胞活性という、免疫力の指標になるものが低下するのを防ぐことがわかりました」

この試験で用いられた熟成にんにく抽出物は、湧永製薬が出しているキヨーレオピン(商品名)に含まれている。

「進行がんなどで免疫力が落ちやすい人に関して、免疫力を落とさないように使うこともお勧めできます」

食物繊維のサプリメントの効果は?

写真:臨床試験に用いられた小麦ふすまビスケット

臨床試験に用いられた小麦ふすまビスケット

「食物繊維は大腸がんを防ぐ」というイメージから、食物繊維のサプリメントを常用している人も多いようですが、石川さんらの研究ではその常識を覆す結果が出た。

「食物繊維を多く含む小麦ふすまで作ったビスケットを食べるという臨床試験で、食物繊維をサプリメントでとると、大腸がんを予防するどころか、前がん病変である大きな腫瘍ができやすくなるということが明らかになったのです」

食物繊維の効果を調べる臨床試験は、大腸に腺腫か早期がんが2個以上あり、それを内視鏡で摘除できた40歳~65歳の患者さんを「食事指導と小麦ふすまビスケットの摂取」「食事指導と乳酸菌製剤の摂取」「食事指導と小麦ふすまビスケットと乳酸菌製剤の摂取」「食事指導のみ」というグループに分けて、4年間経過観察、大腸に腫瘍が発生するかどうかをみた。

最後まで試験を行えたのは380人で、その結果は、小麦ふすまビスケットを摂取した人191人のうち106人に大腸腺腫ができており、摂取しなかった人にくらべて1.3倍多くなった。

注目したのは発生した腺腫の大きさである。大きな腺腫ほどがん細胞を含む可能性が高く、危険なものといえる。小麦ふすまビスケットを食べたグループでは食べていないグループとくらべて3ミリ以上の腺腫が1.57倍多く、さらに、ビスケットを食べていないグループには1人もいない10ミリ以上の大きな腺腫が、ビスケットを食べたグループでは7人いた。米国と欧州で行われた試験でも、食物繊維のサプリメントを食べると腺腫の発生が促進される結果となっている。

「つまり、食物繊維のサプリメントはいくら摂取しても大腸がんを減らすことはできないようです。食物繊維は野菜などの食事から摂るのがよいと思います」

乳酸菌飲料をプラスしてみる

[乳酸菌の腫瘍に与える効果]
図:乳酸菌の腫瘍に与える効果

一方、乳酸菌製剤はどうなのだろうか。

この試験で明らかになったのは、乳酸菌製剤を服用したグループでは、異型の強い腺腫の発生が減少したことだ。乳酸菌製剤を飲んだ人は、がんになりやすい腺腫ができる人が少なかったというわけだ。

「乳酸菌製剤は腺腫ができるのを抑える力は弱いけれど、がんへ進行するのを抑えることはできるようです。4年くらい飲むと、異型の強い腺腫の発生は3分の2になりました。」

この試験で使用した乳酸菌製剤はラクトバチルス・カゼイ・シロタ株である。

「この乳酸菌は膀胱がんの再発も予防できるということがわかっています。大腸がんになったことのある人は、新しくがんができる可能性が高いので、1度大腸がんになった方は、乳酸菌飲料を飲まれることをお勧めします。ヤクルトならば1日1本飲む程度でいいでしょう。」

シロタ株以外の乳酸菌ではどうかというと、このような大規模な臨床試験が行われていないためわからないが、乳酸菌全体のメカニズムは注目されており、研究が進められているところだ。

[大腸がんを予防するための6つの生活目標]

1. 豚肉、牛肉は1日80gまで
 豚肉、牛肉などの赤身肉の摂りすぎは、大腸がんのリスクを上げる
2. 脂肪は控えめに
 総摂取量エネルギーに占める脂肪の割合は、24~27%までに
3. 1日350g以上の野菜といも類
4. 精製していない穀類の摂取を
5. お酒は男性1合、女性0.5合まで
6. 運動をしっかりして肥満を防ぐ
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