大腸(結腸)がんの診断から治療まで 「大腸癌治療ガイドライン」をやさしく読み解くために
転移・再発の場合の化学療法
一方、切除不能と判断された転移・再発大腸がんの予後は約6カ月と報告され、現状では治癒させることができない。化学療法の目的は腫瘍増大を遅らせて、症状のコントロールを行うことにある。
このようながんに対してはFOLFOX療法がスタンダードとなっている。方法は2つあって、FOLFOX4とFOLFOX6の2種類が日本では中心に行われている。
「基本的には今後、化学療法は外来ベースで行われることが多くなると思います。FOLFOX療法は持続点滴が必要な治療法ですが、皮下埋め込み式のポートを利用すれば在宅での抗がん剤治療が可能となり、外来で行われるようになっていくでしょう」
ほかに、IFL(イリノテカン+5-FU+ロイコボリン)療法と、5-FU/l-LV(ロイコボリン)療法がある。これに加えて、アバスチンという新しい薬が使われるようになっている。アバスチンは、がん組織に栄養と酸素を供給する血管の伸長(血管新生)を阻止する新しいタイプの薬だ。
「アバスチンは、ほかの薬のあとで用いてもあまり治療効果が出ません。アバスチンを使って新しい治療をやるとすれば、進行再発の、まだ無治療の患者さん、あるいは少しFOLFOX療法が入ってしまったが、始めたばかりという人には効果があるかもしれません。ただ、この薬は、稀にですが腸に穴があいたとか、血栓症、あるいは血圧が上がるという毒性があり、場合によっては命にかかわることもあるので、使う側としては慎重に考えています。ですから治療成績のことだけを考えて先走るのは危険です。
また、抗がん剤で進行再発したがんをすべて退治するのは難しく、どうしても病気とうまくつきあっていく形にならざるを得ません。その点で、ほかのがんと比べても、大腸がんは抗がん剤が効きにくいといえます」
転移が肝臓に限局している場合は、肝臓の動脈に直接抗がん剤(5-FU)を注入する肝動注療法がある。これは昔からやられている治療法だが、転移が肝臓以外に及ぶ可能性もあり、最近は全身化学療法に押されているという。
「それでも、肝臓に対する効果としては結構高いものがあり、副作用は比較的少ない。だから、全身化学療法で効果が期待できなくなった人で効果がある場合があります。問題は管を入れるのに4~5時間かかることで、この点をクリアできれば、この治療法も可能です」
FOLFOX療法などの全身化学療法での奏効率が約50パーセントなのに対して、肝動注療法は60~70パーセントの奏効率という。5-FU単剤でこれだけの治療効果が出るというのであれば、十分、選択肢の1つとなる。
転移しても手術が適応となる場合
肝臓や肺、脳などの部位への転移があった場合、転移した部分がすべて切り取れる、手術後、生活するだけの肝臓や肺が残る、重大な神経障害が残らない、手術に耐えられる、という場合は手術が適応となる。
「やはり手術で取ったほうが、取れない状態のまま抗がん剤だけする治療より、延命効果が有意にあるのは確かです。転移したがんが取れるのか取れないのか、ちゃんと調べたうえで見極めることが大事です。
最近は抗がん剤もよくなってきて、肝臓に関していえば、取れない状態で見つかっても、先に抗がん剤治療を行ってがんを小さくしたうえで、手術で取って、延命が得られたというケースもあります。
肝臓に転移があって、何もしなければ半年といわれた平均余命が、今は5年生存率が20パーセントぐらいになり、平均余命も3年を超えています。だから患者さんには、決してあきらめないでくださいといっています」
なお、手術で取れないものに対しては熱凝固法もある。これは転移巣に針を刺し、熱を発生させてがんを殺す方法。マイクロ波凝固壊死法とラジオ波組織熱凝固療法とがあるが、転移が肝臓にあるときに適応となる。
また、結腸がんの場合、放射線治療は適応にならない。まわりへの障害が大きいためで、肝臓や肺の転移とか限局した形で照射する方法があるが、なかなか難しいという。
再発を早期発見するサーベイランス
このようにして手術でがんをすべて切り取っても、大腸がんの場合、約17パーセントの人が再発するという。そこで大事になってくるのが、手術後一定の期間、一定のスケジュールにしたがって再発の有無を検査するサーベイランス(監視・見張り)だ。
ガイドラインでは、ステージ0やステージ1の粘膜下層までの早期がんは、再発の危険が非常に低いので、サーベイランスはほとんど必要がない、としている。ステージ1の筋肉層に浸潤したがん、ステージ2、ステージ3では、手術後3年間は3~4カ月に1度の検査、4年目からは5年までは6カ月に1度の検査を受けるのが一般的だ。
ある程度進んだがんの場合、再発の8割以上が3年以内に出てくるし、5年以内に90パーセント以上となる。逆にいえば、5年をすぎれば再発の心配も少ないわけだが、それだけに、定期的にチェックするサーベイランスは“命のチェック”として重要といえるだろう。
術後経過年月 | 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 | |||||||||||||||
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3 | 6 | 9 | 12 | 3 | 6 | 9 | 12 | 3 | 6 | 9 | 12 | 3 | 6 | 9 | 12 | 3 | 6 | 9 | 12 | |
問診・診察 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||
直腸指診(直腸がん) | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||
CEA, CA19-9 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||
胸部X線検査 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||
CT* | ||||||||||||||||||||
腹部超音波検査 | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
CT | ● | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||
骨盤CT(直腸がん) | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||
大腸内視鏡検査** | ● | ● | ||||||||||||||||||
MRI* |
MP:がんが大腸の壁の外まで浸潤している
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