CVポート&ポンプを駆使した抗がん剤治療の長所と短所 「ながら」化学療法を受ける新時代の生き方

監修:三嶋秀行 国立病院機構大阪医療センター外科医長
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年9月
更新:2013年4月

CVポートをつけたまま入浴することもできる

化学療法といえば、かつては入院して受けるのが常識だった。その後、外来化学療法が行われるようになり、病院で過ごすのは、抗がん剤を投与している時間だけでよくなった。化学療法はさらに進歩し、CVポートとポンプを使うこの持続投与法の登場によって、「ながら」化学療法が可能になった。普通に生活しながら、抗がん剤を投与することができるようになったわけだ。

FOLFOXの46時間持続投与の場合、病院でエルプラットとレボホリナートの点滴を2時間かけて行い、その後、5-FUの急速静注を行う。それと同時に、CVポートに針を刺してポンプとつなぎ、5-FUの持続投与を開始するのだ。患者さんはポンプをつけたまま家に帰り、翌々日まで46時間にわたって、5-FUの持続投与を行う。

「CVポートとポンプが出現したことで、長時間持続して投与する抗がん剤治療が、自宅で行えるようになりました。最近の製品は小型で軽量ですから、背広の内ポケットに入れることもできます。こうすれば、外からは見えず、抗がん剤治療をしながら仕事をすることだって可能です。背広が必要なければ、魚釣り用のポケットがたくさんついているベストは便利ですね。女性の方で、専用の巾着を作り、それに入れて持ち運んでいる人もいます」

ポンプをどう持ち運ぶかは、その人の生活に合わせればいい。どうしても外から見えないようにしたければ、そうすることは可能だ。家にいるので見えてもいいというのであれば、大きめのポケットがついたベストは確かに便利だろう。

「入浴はできないと思っている人が多いのですが、穿刺したCVポート部分やポンプが濡れなければ、シャワーを浴びることもできるし、胸から下だけならお風呂に入ることだってできます。お風呂に入っているとき、浴槽の半分にふたをして、ポンプはそこに置くといいですね。ドアが近ければ、ノブにかけておくという方法もあります」

患者さんが気をつけたいチェック項目と注意点

この持続投与を行っている間、患者さんがしなければならないのは、薬の減り具合をチェックすること。きちんと時刻を決めておき、予定通りに薬が減��ていることを確認する必要がある。

持続投与の途中でトラブルが起きることだってある。CVポートに刺してある針が抜けたり、針とポンプの接続部がはずれたりすることがある。着替えをしているときにポンプの存在をうっかり忘れ、引っ張ってしまったりすることが原因だ。就寝中に引っ張ってしまったり、夜中に目覚めたとき、ポンプの存在を忘れて起き上がったりすることも原因になる。

「針がはずれたりすると心配になりますが、心配無用です。再穿刺はせずに、薬が流れ出さないようにクレンメを締め、病院に連絡してください。緊急性は低いので、あわてる必要はありません」

46時間の持続投与が終了したら、自分で針を抜くか、家族に抜いてもらう。最初は難しいかもしれないが、指導を受けて練習すれば、できるようになる人が多い。針を抜くために病院に行くと、2週間に2回の通院が必要だが、自分で抜針すれば、2週間に1回の通院ですむわけだ。

手がしびれるのはFOLFOXの副作用

FOLFOXとFOLFIRIは、どちらから行ってもいいとされている。どちらを先に行っても、両方とも使うのであれば、生存期間に差は出ないのだ。

「大切なのは、5-FUとカンプトとエルプラットという3つの抗がん剤を使うことなのです。それを使っていれば、順番は関係ありません」

多くの場合はがんの進行が薬を切り替えるきっかけになるようだが、副作用がきっかけになることもあるそうだ。たとえば、FOLFOXから始め、しびれなどの副作用が出てきたときにFOLFIRIに切り替える、という具合だ。では、FOLFOXやFOLFIRIでは、どのような副作用が現れるのだろうか。

まず、どちらでも問題になるのは好中球の減少だ。症状が出ないので自分では分からないから、投与前には必ず血液検査を行う必要がある。

「一般的には、好中球が1500以上あることが投与基準になります。ただし、数だけでなく、前回からの減少率も考慮したほうがいいですね。
たとえば、好中球が1500あったとしても、前回の値が3000なら、減少率は50パーセント。ところが、前回が5000だったら、減少率は70パーセントになります。このまま同じ率で減少したとすると、次回の予測値は、750と450。500を切るような重篤な状態を招かないためには、たとえ好中球が1500あったとしても、減少率によっては1回休んだほうがいいのです」

カンプトとエルプラットの副作用が異なるため、FOLFOXとFOLFIRIでは、副作用の現れ方がかなり異なっている。たとえば、カンプトでは、脱毛、倦怠感、食欲低下など、抗がん剤らしい副作用が現れるのが特徴。それに比べ、エルプラットの代表的な副作用は手のしびれだ。

「FOLFOXを投与している患者さんは、元気に見えることが多いですね。それにだまされて、血液検査をせずに投与したりすると、重篤な血液毒性を引き起こしてしまうこともあります。これがFOLFOXの怖さです」

手足のしびれにも注意しなければならない。ひどくなると、1人で立って歩けない状態になることもあり、こうなるとQOL(生活の質)の低下を招いてしまう。また、ひどくなると薬を中止しても回復までに時間がかかるので、早めに薬を切り替える必要がある。

「FOLFOXの場合、6コースまでやったら、いつ中止するかを考え始めるべきです。8コースからは黄信号。副作用に十分注意して、問題がなければ続けます。
しかし、10コースからは赤信号です。ここまできたら、いったんFOLFIRIなどに変更し、再度FOLFOXを使うという方法がいいと思います」

大切なのは、5-FU、カンプト、エルプラットの3剤をすべて使うこと。うまく切り替えていくことが望ましいのだ。

[FOLFOXの副作用]

毒性 グレード1
No.(%)
グレード2
No.(%)
グレード3
No.(%)
グレード4
No.(%)
白血球数 16(52%) 9(29%) 2(6%) 0(0%)
好中球数 8(26%) 7(23%) 5(16%) 0(0%)
血小板数 11(35%) 7(23%) 0(0%) 0(0%)
悪心 16(52%) 5(16%) 1(3%) 0(0%)
嘔吐 6(19%) 4(13%) 1(3%) 0(0%)
下痢 7(23%) 1(3%) 1(3%) 0(0%)
神経毒性 22(71%) 3(10%) 0(0%) 0(0%)
NCCHE (n=31)
布施望 他:日本癌治療学会2005

[FOLFIRIの副作用]

毒性 グレード1
No.(%)
グレード2
No.(%)
グレード3
No.(%)
グレード4
No.(%)
白血球数 27(40%) 24(35%) 10(15%) 1(1%)
好中球数 19(28%) 12(18%) 22(32%) 2(3%)
血小板数 6(9%) 0(0%) 0(0%) 0(0%)
食欲不振 25(37%) 20(29%) 4(6%) 0(0%)
悪心 28(41%) 19(28%) 3(4%) 0(0%)
嘔吐 9(13%) 9(13%) 7(10%) 0(0%)
下痢 15(22%) 8(12%) 5(7%) 0(0%)
NCCHE (n=68)
布施望 他:日本癌治療学会2005


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