再発してもあきらめる必要はない。次々に出現する新しい抗がん剤治療の手 再発大腸がんの最新化学療法
単独よりも併用で効果が出る理由が判明
最近の再発大腸がんの化学療法で、最大の話題は分子標的治療薬の登場である。
その1つが前出のアバスチンだ。がん細胞は、周囲の血管を呼び寄せて新しい血管を作って自己増殖していく。これを血管新生という。この血管新生を促している物質の1つがVEGF(血管内皮増殖因子)である。アバスチンはVEGFとくっつくように設計された抗体薬だ。アバスチンと結合したVEGFは血管新生の働きを失って、がん細胞の増殖が止まる。そう考えられてきたが、アバスチン単独では腫瘍に対する効果はあまりなく、他の抗がん剤と併用すると治療効果を発揮することがわかってきた。そのメカニズムについて、大津さんは次のように説明する。
「がんの血管は、正常な血管に比べていびつで未成熟です。内容物が漏れやすく、血管の周囲の間質の圧が高くなっています。そのため、抗がん剤ががんの血管に入ってきても周囲の間質圧が高いためがんの組織にまで行かず、治療効果が上がらないと思われます。アバスチンは、動物実験などの研究で、がんの血管を正常化させて間質の圧を下げて、抗がん剤を腫瘍組織まで入りやすくするということがわかってきました。アバスチンはそれ自身では腫瘍を小さくさせる作用はないかも知れませんが、FOLFOX 4あるいはFOLFIRIと併用するとよい治療成績が得られています」

また、FOLFOX 4あるいはIFLにアバスチンを上乗せしても副作用はほとんど変わらないようだ。アバスチンが従来の細胞毒性の抗がん剤とは作用が異なる分子標的治療薬であるからだと考えられている。すでに���米ではFOLFOX 4もしくはIFLにアバスチンを併用した化学療法が再発大腸がんの第1選択として定着しつつあるという。アバスチンは、日本でも早ければ1年以内にも承認される見込みだ。

分子標的薬同士の併用療法の効果も
2つ目の分子標的治療薬はアービタックス(一般名セツキシマブ)である。アバスチンとは作用が異なり、がん細胞の表面に顔を出しているEGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるたんぱく質を標的とする抗体薬だ。EGFRは流血中の上皮成長因子と結合してがん細胞自身に増殖の指示を出す働きを持つ。アービタックスは、EGFRと結合して、EGFRの働きをなくしてがん細胞の増殖を止める作用がある。
進行・再発大腸がんでカンプトが効かなくなった人たちを対象に、アービタックス単剤とカンプトにアービタックスを加えて併用したグループを比較した臨床試験がある。
「アービタックス単剤での生存期間の延長は証明されていませんが、アービタックスとカンプトを併用すると明らかに予後のよいことがわかっています」(大津さん)
欧米ではアービタックスはすでに保険適応になっている。
さらに、最近では、アービタックスとアバスチンの2つの分子標的治療薬を併用した臨床試験も行われている。アービタックスにアバスチンを加えたグループと、アービタックスとカンプトにアバスチンを上乗せしたグループとの比較試験が行われた。この比較試験では後者のグループのほうが奏効率、腫瘍が増悪するまでの期間(TTP)ともに良好だった。
また、アバスチンを加えたグループはいずれもアービタックス単剤やカンプトにアービタックッスを併用したグループ(前述した臨床試験の2グループ)よりもTTPが4カ月ほど延びていた。
「アバスチンはFOLFOX 4とIFLへの上乗せ効果がすでに証明されています。アバスチンを5-FU、エルプラット、カンプトに加えた場合と同じように、分子標的治療薬のアービタックスに加えてもその上乗せ効果が期待できます。いま、世界で最も注目されているのは、アバスチンとアービタックスという2つの分子標的治療薬の併用による治療効果の向上です」と大津さんは語る。

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