再発してもあきらめる必要はない。次々に出現する新しい抗がん剤治療の手 再発大腸がんの最新化学療法

監修:大津敦 国立がん研究センター東病院消化器内科部長
取材・文:菊池憲一
発行:2006年6月
更新:2014年1月

新しい分子標的薬が次々に登場

現在、アービタックスと同じ作用を持つ2つの分子標的治療薬の臨床試験が進行中である。

1つはABX-EGF(一般名パニツマブ)である。アービタックスは、マウスとヒトの抗体を混ぜて作ったキメラ型の抗体薬剤で、アレルギー反応が数パーセントの頻度で発症し、皮膚毒性の頻度も高い。しかし、ABX-EGFはヒトの抗体を100パーセント用いて作った抗体薬剤で、アレルギー反応が非常に少ないという。したがって、アービタックスよりもいい薬と思われる。

ただし、皮膚毒性の頻度はアービタックスとほぼ同じ。バイオテクノロジー世界大手の米国アムジェンが開発中で、米国で承認申請中だ。

2つ目はEMD72000(一般名マツズマブ)だ。これはヒトの抗体を95パーセント用いて作った抗体薬剤で、アレルギー反応も皮膚毒性も少ないという。日本の武田製薬が開発に乗り出し、臨床試験を計画中である。

「アービタックスとABX-EGF、EMD72000の3つの抗体製剤の治療効果はほとんど同じです。副作用などを考慮すると、いずれアービタックスの代わりに、ABX-EGFもしくはEMD72000が使われるようになるかも知れません」(大津さん)

使い方の工夫から新しい薬剤の上乗せ効果

いま、海外では、再発大腸がんの化学療法にはたくさんの新しい薬剤が次々に登場して、ものすごいスピードで開発と臨床試験が行われている。海外での最新の動向を踏まえると、再発大腸がんに対する世界の標準的な化学療法は以下のようになる。

第1選択は、FOLFOXもしくはFOLFIRIにアバスチンを上乗せした化学療法である。第2選択は、そのいずれか逆の化学療法となる。

第3選択は、アービタックス単独もしくはアービタックスとイリノテカンの併用療法だ。

さらに、アービタックスの代わりに、アービタックスよりも副作用の少ないABX-EGF、EMD72000という新世代の抗体製剤が開発中というわけである。

[進行大腸がん治療の海外と日本の比較]

  海外 日本
ファーストライン FOLFOX+アバスチン FOLFIRI+アバスチン FOLFOX(+アバスチン)
セカンドライン イリノテカン/ FOLFIRI FOLFOX イリノテカン/ FOLFIRI
サードライン イリノテカン+アービタックス イリノテカン+アービタックス (イリノテカン+アービタックス)
( ):2006年内開始予定治験

[大腸がん用の抗がん剤の出現と生存率の関係]
図:大腸がん用の抗がん剤の出現と生存率の関係

[進行再発大腸がんに対する化学療法の生存期間]
図:進行再発大腸がんに対する化学療法の生存期間

現時点では、日本と海外とでは再発大腸がんの治療内容は少し異なる。残念ながら、海外のほうが進んでいるようだ。しかし、その差はかなり縮まっている。ここ1~2年以内には、日本でも海外とほぼ同じ化学療法が受けられようになる見込みだ。

「20世紀の間は、有力な抗がん剤は10年に1~2個しか開発されませんでした。そのため、数少ない抗がん剤を、使い方を工夫することによってその最大限の効果を引き出すように努力してきました。しかし、海外を中心に2000年前後からものすごい勢いで次々と有力な薬剤が開発されています。かつてのように、数少ない抗がん剤の使い方を工夫するよりも、新しい薬剤を上乗せして、新しい化学療法の組み合わせを試したほうがずっと治療効果が期待できるようになっています。化学療法に対する価値観の転換を求められています。また、最近は、再発大腸がんに対する化学療法もかなり進歩しています。世界の化学療法と時差を感じなくなっています。数年以内には、日本でも海外と同じ化学療法が可能になると思います」(大津さん)

海外での新しい薬剤の開発と臨床試験にスピーディに対応するために、国内での臨床試験も大きく変わる。今年4月、10数年ぶりに改訂された「抗悪性腫瘍薬の臨床評価に関するガイドライン」がスタートしたからだ。

これまで、日本では海外の大規模な臨床試験でその有効性が証明された抗がん剤についても、その承認を得るために日本人だけを対象にした独自の臨床試験が要求されてきた。そのため、海外ですでに承認された薬剤でも国内の臨床現場での使用が大幅に遅れたりした。

「しかし、今回のガイドラインの改訂によって、海外ですでに承認されている抗がん剤や、信頼できる臨床試験の結果が得られている治験薬については、それらの海外での成績をもとに、国内での承認申請を行なうことが可能になりました。現在、抗がん剤の臨床試験は世界で同時に取り組まれて、その承認も世界同時に行われるように変わりつつあります。日本もようやくその中に入りつつある状況です」と大津さん。

こうしてみると、大腸がんで運悪く再発したとしても、希望を持てる時代になったといっていい。日本でも世界標準の化学療法が受けられるようになりつつあるからだ。

[大腸がんに対する日本での新薬の承認状況(2005)]

  臨床試験 保険適用
イリノテカン 終了 承認
オキサリプラチン 終了 承認
ゼローダ 終了 未承認
アバスチン フェーズ1 登録終了 未承認(申請作業中)
アービタックス フェーズ1 登録終了 未承認


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