分子標的薬と抗がん剤併用による大腸がん休眠療法 何を投与するかよりも、どのくらいの量を投与するかが決めて
再発しても長生きするがん患者
それでは、この休眠療法により、大腸がんが再発しても長生きしている典型的な例を紹介しよう。
便秘がきっかけで大腸がんが発見されたAさんは、そのときすでに肝臓にも数箇所の転移が見られた。このような場合、まず、大腸のがんを切除し、その後に肝転移を治療することが多い。他のがんでは全身に転移している場合、原発巣は切除しないのが標準的だが、大腸がんでは、腸閉塞を防ぐために切除するのが普通だ。
しかし、大腸がんよりも肝転移のほうが命の危険性が大きいと判断した高橋さんは、まず肝転移の治療から手をつけた。TS-1とイリノテカンを併用した抗がん剤治療だ。幸いにも、この治療は功を奏し、肝転移の増殖を止めることに成功し、結果的には大腸がんとともに縮小した。この間を利用して高橋さんは、転移の元になっている原発巣の大腸がんの切除に踏み切った。
しかし、その後、抗がん剤が効かなくなり、再び肝転移が増殖へと転じだした。そこで今度は、現在大腸がんの抗がん剤治療で最良といわれているFOLFOXの治療を行った。これまた効いて、肝転移の増殖は止まった。ただし、転移巣が小さくなったわけではない。大きさは変化せず、そのままの状態で、今も治療は継続している。AさんのQOL(生活の質)もよく、病気以前と同様、仕事にも精を出しているという。

駅伝のようにつなげていく治療
「FOLFOXという治療は、実は他の抗がん剤に比べてそれほど縮小効果は高くないとされています。しかし、がんの不変状態が長く、生存期間が長く、いわば休眠療法に近い治療といえます。その秘密の1つに、FOLFOXに使われるオキサリプラチンという薬の存在があります。オキサリプラチンは白金系の抗がん剤です。人体にはこれを分解する酵素がないため、血中濃度や毒性に個人差が小さいのです。そのため、標準的な投与量が多くの人の適量近くになっており、それがいい効果をもたら��ていると考えられます」
冒頭でも記したように、大腸がんでも分子標的薬の時代がもう間近に迫っている。この新しい時代への展望について、高橋さんはこう語る。
「現在は、5-FU、イリノテカン、オキサリプラチンの3つが大腸がんの抗がん剤治療の中心です。しかし、5-FUでは、その改良剤で経口剤のTS-1やゼローダが期待されています。さらに、分子標的薬としてアバスチンに加えて、アービタックスという薬が日本でも近々使えるようになるでしょう。このように使える薬が多くなるというのはすばらしいことです。ただ休眠療法にとっては、この中の何を投与するかよりも、どのように投与するかが大事です。そしてさらに大事なのは、駅伝のタスキによるリレーのように、これらの薬をいかにうまくつなげていくかです。それが長期の延命につながるのです」

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