進行別 がん標準治療 治療の中心は外科手術。ただし、選択するのは患者自身
大腸がんの進行期と治療法
一般的に、がんの進行期を分類する場合、がんの大きさと深さが問題になります。しかし、大腸がんの場合は、大きさではなく、大腸の壁にどこまで深くがんが食い込んでいるか、その深さと転移の有無によって進行期が決まります。大腸壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、しょう膜下層、しょう膜という5層から成立しています。下表のようにステージ別の分類(0~4期)とデュークス分類(A~D)という分け方があり、各病期によって治療法も変わってきます。
進行度 | がんの深さ | リンパ節転移の 有無 | 多臓器への転移 | |
---|---|---|---|---|
*TNM分類 | *デュークス分類 | |||
0 | ― | 粘膜内に留まる | なし | なし |
1 | A | 粘膜下層・固有筋層に達する | なし | なし |
2 | B1 | しょう膜に達する | なし | なし |
B2 | 大腸の外に飛び出している | なし | なし | |
3 | C1 | 粘膜下層から固有筋層に達する | あり | なし |
C2 | しょう膜から大腸の外にまで飛び出している | あり | なし | |
4 | D | がんの深さとは無関係 | 無関係 | あり |
*TNM分類=がんの大きさ、リンパ節転移、多臓器への転移を考慮してがんの進行度を分類。他の部位のがんの分類と共通している
*デュークス分類=イギリスの腫瘍学者、カスバート・デュークスが1930年代に確立した大腸がんの病期分類。リンパ節転移、腫瘍の大きさ、組織への浸潤の深さを考慮してがんの進行度を分類
- がんを調べる検査
- 便潜血反応検査(便にがんからの出血が混じっているかどうかを調べる検査)
- 直腸指診(医師が肛門から指を入れて、肛門から直腸にがんやポリープができていないかどうかを調べる検査)
- 大腸内視鏡検査(下剤で大腸内を空にした後、肛門から内視鏡を入れて、大腸の粘膜を調べる検査)
- 注腸造影検査(下剤や浣腸で大腸内を空にした後、肛門から造影剤〈バリウム〉と空気を注入して、大腸全体をX線撮影する検査)
- 転移したがんを調べる検査
- 超音波内視鏡検査(内視鏡に超音波発振装置をつけて腸壁の断層撮影を行う検査)⇒がんの深さ、リンパ節転移を調べる
- CT(コンピュータ断層撮影、体の周囲からぐるりとX線を照射し、コンピュータ処理で大腸やその周囲の様子を調べる検査)⇒肝臓や肺などへの転移、膀胱や前立腺、子宮など周囲の臓器への浸潤、リンパ節転移を調べる
- 腹部超音波検査⇒肝臓への転移、リンパ節転移を調べる
- 胸部X線⇒肺への転移を調べる
- MRI(核磁気共鳴断層撮影)⇒多臓器への転移、骨盤内臓器への転移や浸潤を調べる
- 65歳以上
- 高脂肪、低繊維質の食事をとっている
- クローン病
- 乳がん、卵巣がんの病歴のある女性
- 座って仕事をしている
- 腸ポリープがある
0期
内視鏡的治療の適応
がんが粘膜内にとどまる粘膜内がんの場合、開腹手術をする人はいないそうです。つまり、内視鏡的粘膜切除術など内視鏡的治療の適応になります。肛門から内視鏡を挿入。がんが隆起していればそのままワイヤーで切ることもありますが、生理食塩水などをがん病巣の下に注入して、病巣を隆起させ、ここにスネアというワイヤーを引っかけて病巣を切除します。「患者さんの全身状態や希望にもよりますが、日帰りでも十分に行える治療」だそうです。
1期
内視鏡的治療か手術かの分かれ目
1期は、粘膜下層とその下の固有筋層にがんがとどまり、リンパ節転移がないものです。まだ、大腸壁の局所にがんはとどまっていますが、同じ1期でもがんが粘膜下層にとどまるか、その下の固有筋層に入り込んでいるかで、治療方針が大きく変わってきます。
上野さんによると「内視鏡的粘膜切除術でとれるのは、原則として粘膜下層までにとどまるがんです。固有筋層に入ると、がんを切除する際に大腸壁に孔をあける危険が高くなるので、物理的に内視鏡治療は難しい」のだそうです。したがって、原則的には手術ということになります。
一方、粘膜下層にとどまる場合は、内視鏡でもがんを摘出することは可能です。しかし、問題はリンパ節転移の有無です。リンパ節にがんが転移しているかどうかは、予後や治療の方針を決定する重要な因子です。上野さんによると「ある程度は、超音波検査やCTでわかりますが、開腹手術を行ったほうがより確実です」といいます。つまり、開腹手術をしてリンパ節郭清を行い、病理検査で転移の有無をみるのが、やはり一番確実なのです。
内視鏡治療は、肛門から入れた内視鏡で大腸という管の内側からがんを切除する方法です。したがって、大腸周囲にあるリンパ節を切除することはできません。もし、リンパ節転移があったならば、がんを取り残すことになってしまいます。
そこで、現在は粘膜下層をさらに細かく分け、どこまでならばリンパ節転移の可能性が低いのかが研究されています。「2~3段階に粘膜下層を分けて考えるのですが、一般的には粘膜下層への食い込み方が深いほどリンパ節転移の可能性も高くなります」と上野さん。粘膜下層にがんが食い込んだ場合、リンパ節転移の可能性は10パーセント前後と言われており、ごく浅い食い込みならば転移の可能性はほとんどないとされています。しかし、「ここで問題になるのは、数字のとらえ方なのです」と上野さん。わずかな危険でも怖いと考えるか、あるいは手術という負担をかけるよりは、内視鏡による治療を選択するか。
わずかな危険を考えて、体に負担の大きい手術をすることには見直しの機運が高まってはいますが、現在のところ粘膜下層に入ったがんを手術で摘出するか、内視鏡でとるか、医学的なコンセンサスは得られていない状況です。
最終的には患者が治療法を選択する
上野さんは、「最終的には患者さんの選択ですが、我々としては患者さんの年齢と全身状態、高分化型腺がんかどうかなど、がんの細胞型、がん自体が隆起型か陥凹型か、さらにがんの深さによるリンパ節転移のリスクを総合的に考えた上で、どうするかを勧めることになります」と語っています。一般的にがんが盛り上がった隆起型のほうが、大腸がんとしてのタチはいいのです。
たとえば、40代で他にとくに病気もなく、平均余命からみてもあと40年くらいは生きていける。こうした場合には、たとえ小さなリスクであっても、無視はしないというのが、上野さんの考え方です。逆に、70代後半で心臓病や糖尿病などいくつも持病があり、多種の薬を飲んでいるという場合は、生命予後もだいぶ前者とは異なります。手術による危険も大きければ、手術を受けることによって得られる利益も少なくなります。こうした場合は、患者さんによく状況を説明して手術は勧めないと上野さんは言います。この場合は、(1)手術をしないで経過をみる、(2)内視鏡治療を行って、がんの食いんだ深さを確認し、必要ならば追加手術を行う、(3)抗がん剤などで治療する、といった選択肢が生まれることになります。
もっとも「現在わかっているのは、がんの深さによって何パーセントにリンパ節転移があるかということだけで、追加手術を行えば治療成績が向上するというエビデンスはないのです」と上野さん。おそらく追加手術は行ったほうがいいだろうという判断で手術が行われているそうです。
また、内視鏡的治療ができない早期の大腸がんや追加手術などを中心に、最近は開腹手術のかわりに腹腔鏡下手術が行われることも多くなっています。ただし、これはまだ標準治療とは言えない段階だそうです(コラム参照)。
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