進行別 がん標準治療 治療の中心は外科手術。ただし、選択するのは患者自身

監修:上野文昭 大船中央病院特別顧問
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年2月
更新:2019年7月

4期・再発がん

症状緩和と延命を目指して化学療法中心

肝臓など遠隔臓器に転移した4期、あるいは再発との場合、治療法にもバラエティがあります。 「この場合は、患者さんが何に困っているのか。大腸にできたがんで困っているのか、肝転移に困っているのか、それによって治療法も変わってくるのです」と上野さんは語っています。

がんによって腸が狭窄して食べたものが通りにくくなっていれば、腹腔鏡によってがんの部位だけを切除することもあります。状態によっては内視鏡を肛門から挿入して狭窄した部位を広げ、ステントという金属製の筒を留置することもあります。これらは、症状を楽にするための治療です。したがって、方法もなるべく体に負担の少ない方法が選ばれるのです。

延命治療という意味では、抗がん剤が中心になります。大腸がんは肝臓に転移することが多いのですが、ここにひとつがんが転移していた場合、手術で完全に摘出できれば治る可能性もあります。手術後には化学療法が行われます。しかし、こうしたケースはそう多くはありません。

一般的には5-FUを中心にロイコボリン、さらにカンプト(塩酸イリノテカン)という抗がん剤を加えた、より強力な3剤併用療法が行われます。この場合、症状の緩和が中心的な効果ですが、積極的治療をしない場合に比較すると、多少延命期間が延びるとされています。

しかし、この場合の化学療法は術後補助療法として行われる治療より、さらに強力です。 「下痢や脱毛、全身的なつらさなど、副作用も決して少ないものではありません。患者さんそれぞれの状態や希望に合わせた治療法の選択が必要です」と上野さんは語っています。

一方、再発する場合も大腸がんでは、肝臓が多く、ついで肺やリンパ節に再発してくる可能性があります。この場合も、肝臓に再発したがんを切除できれば、肝切除を行うのが標準的な治療法です。切除ができなければ、ラジオ波焼灼やエタノール注入療法など、あるいは抗がん剤���直接肝動脈に注入したり、肝動脈に詰め物をしてがんを兵糧攻めにする肝動脈塞栓術などが行われます。

まだ標準治療として確立していない腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は、腹部にあけた数カ所の切開から、腹腔鏡や器具を挿入し、がんのできた腸管の切除、リンパ節郭清など開腹手術と全く同じことを行います。部位的に難しい部分はありますが、結腸から直腸まで実施は可能とされています。

最近では、粘膜下層に深く食い込んでいて内視鏡的治療の適応にならない早期大腸がん、あるいは内視鏡的治療後の追加手術として、開腹手術のかわりに腹腔鏡下手術を行うところも増えています。しょう膜下層まで食い込んだ進行した大腸がんに対しても、腹腔鏡下に手術を行う研究が熱心に行われています。腹腔鏡下手術は、傷が小さく、痛みが少ないこと、そのために回復も早く手術翌日には口から物をとることも可能、したがって入院期間も短く、社会復帰も早いなど多くの利点があります。

一方で、限られた狭い視野の中で手術操作を行わなければならない、開腹手術と違ってリンパ節や臓器を手で直接触ることができないので、リンパ節転移の有無は視覚でしか判断できないといった難点もあります。手術の操作一つひとつを慎重に行わなければならないので、開腹手術より手術時間は長く、手術を担当する医師の負担も大きくなります。

そのため、現在腹腔鏡下手術は内視鏡的治療と開腹手術の間をつなぐものという見方もあれば、将来的には開腹手術に代わるものと考える人もあり、コンセンサスが得られていない状況です。

これに対して上野さんは「それぞれの考え方があるでしょうが、まだ標準的治療法として確立したとは言えない状況です。腹腔鏡下手術は開腹手術と同じことができるわけですから、内視鏡的治療と手術のように物理的な限界というものがありません。

したがって、適応と限界も決まっていないのです。今のところ、腹腔鏡下手術で治療ができるかどうかは、担当する医師の技量と考え方によるところが大きいといえます。

部位的に難しい部分もありますが、患者さんにとっては腹腔鏡下手術は回復も早く楽な手術です。担当医にがんを取りきる技術があるのならば、止める必要はないと思います」と語っています。しかし、腹腔鏡下手術で安全、かつ確実に大腸がんを治療するために、専門的な技術や習練が必要なことも確かです。アメリカでは、第3セクターの独立した組織が専門医の認定を行っていますが、まだ日本ではそこまで進んでいません。

少なくとも患者としては、「本当に腹腔鏡下に手術ができるのか、健全な判断ができて、技術も知識もある人に行ってもらう」ように考えたいものです。

40歳過ぎたら便潜血反応検査を

今後の課題として、上野さんは「まず1期の中で内視鏡的治療の適応と限界をはっきりさせることが必要です。2期から4期では、腹腔鏡下手術に関わる技術を標準化してその適応と限界を明らかにしていくこと、3期では補助化学療法が有効であることはわかりましたが、副作用という点も含めてもう少しいい抗がん剤が欲しいというのが、我々の願いです」と語っています。大腸がんは、早期にさえ発見できれば治りやすいがんであり、大きな後遺症が残ることも少ないがんです。その意味でも、40歳を過ぎたら年に一度は便潜血反応の検査を受けてほしい、本当に心配ならば内視鏡検査を受けてほしいと上野さんは語っています。内視鏡検査の場合、1回異常がなければ次の検査は3年後で十分とのこと。上野さんもそのとおり実践しています。

直腸がんの手術

大腸がんには、詳しく言えば結腸がんと直腸がんがあります。結腸の場合は、手術で摘出しても生活を障害するような後遺症が残ることはほとんどありません。臓器の中で組織を摘出することによる障害がもっとも少ないとも言われています。問題は、直腸がんです。

直腸は、肛門につながる便の貯蔵庫です。狭い骨盤の中にあり、周囲には排尿や排便、性機能に関係する神経や臓器が集中しています。そのため、部位によってはがんを取りきろうとすると、肛門を締める肛門括約筋の切除による人工肛門、自律神経の切断から起こる排尿障害やインポテンツなどの後遺症に悩む人も少なくなかったのです。しかし、現在ではこうした問題も、手術法の改良などによってかなり少なくなっています。

それが、「自律神経温存術」や「括約筋温存手術」です。日本では、再発や転移の芽を摘むために、直腸がんの手術でも周囲のリンパ節の郭清をきちんと行います。ところが、排尿や勃起をつかさどる神経は直腸の両脇を走っています。そのため、徹底的にリンパ節郭清を行うと、こうした神経まで切除され排尿障害やインポテンツを起こしたのです。

しかし、現在では検査機器も発達し、がんの広がり方やリンパ節転移のしかた、神経の走り方やその働きなどがわかってきました。そこから、がんを徹底的に切除しながら、必要な神経を残す、つまり自律神経温存術が生まれたのです。もちろん、早期がんほど神経が温存できる可能性は高く、また場合によっては一部の神経を残すにとどまることもあります。一部を残す人も含めれば、8割ぐらいの人で機能を温存できるようになっています。

一方、人工肛門を設置する人も、少なくなっています。施設によっては2割足らずというところもあります。これは自動吻合器という腸を縫い合わせる器械が登場し、肛門近くで手術で短くなった直腸と結腸を繋ぐことができるようになったおかげです。肛門は、実際にはお尻の皮膚由来の組織が中に入り込んだ部分と直腸側の組織からできている部分があります。そのつなぎ目が歯状腺です。この歯状線から2センチ以上離れていれば、自然の肛門を残すことが可能になっています。

といっても、肛門ぎりぎりのところにがんがあった場合、必ずしも肛門を残すことがいい結果につながるとは言えないようです。直腸という便の貯蔵庫が無くなるので、異常に便が近い、夜間に失敗するなど切実な問題が起きてくることもあるからです。

最近は、人工肛門も性能が良くなっていますから、どういう手術にするかは主治医とよく相談するべきです。また、最近は残った結腸をJ型に折り曲げて直腸の代用にする方法なども研究されています。直腸がんの場合も、早期であるほど機能が温存できる可能性が高くなっているのです。


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