あきらめることはない!大腸がんの再発治療

監修:畠 清彦 癌研究会付属病院化学療法科部長
水沼信之 癌研究会付属病院化学療法科医局長
取材・文:菊池憲一
発行:2004年11月
更新:2019年3月

再発大腸がんの世界標準治療と日本の現状

[FOLFOX療法の効果]

化学療法の内容 患者数
(人)
奏効率
(%)
無病
生存期間
(月)
生存期間
中央値
(月)
オキサリプラチン+
フルオロウラシル+
ロイコボリン
(FOLFOX療法)
225 50.7 9.0 16.2
フルオロウラシル+
ロイコボリン
219 22.3 6.2 14.7
de Gramont et al.
J Clin Oncol 2000 Aug 18
奏効率ではオキサリプラチンを併用したほうが圧倒的に勝っており、他の数値もオキサリプラチンを併用したほうが勝っている

[化学療法の効果(世界的評価)]

化学療法の内容 奏効率
フルオロウラシル+ロイコボリン 20~30%
オキサリプラチン+フルオロウラシル+ロイコボリン
(FOLFOX療法)
40~50%
イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン
(IFL療法)
39~50%
FOLFOX療法が標準治療として評価されつつあり、IFL療法はそれよりもやや劣り、副作用も強いという報告もある

現在、再発大腸がんの世界標準の再発治療は、以下のようになっている。

術後補助化学療法を受けなかった場合、第一選択はオキサリプラチン+フルオロウラシル(商品名5-FU)+ロイコボリンカルシウム(商品名ロイコボリン)の3剤併用療法(FOLFOX療法と呼ぶ)である。第二選択は、イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリンカルシウム(IFL療法)だ。FOLFOX療法がIFL療法を上回る治療効果を上げているからだ。米国国立がん研究所(NCI)の協賛による試験結果で、FOLFOX療法は生存率、奏効率、安全性などの点でIFL療法を上回ることが明らかになった。生存率では19.5カ月と14.8カ月で、FOLFOX療法のほうが4.7カ月も長かった。

さらに、世界的にはベバシズマブを加えた併用療法が注目されている。IFL療法にベバシズマブを加えた治療とIFL療法だけの治療を比較した臨床試験の結果、生存期間では20.3カ月と15.6カ月で前者のほうが約5カ月長く、非再燃期間でも10.6カ月と6.4カ月で約4.2カ月長かった。再発しても最新の化学療法を行えば、生存期間は19.5カ月、20.3カ月と延びている。

一方、手術後に補助化学療法を受けたにもかかわらず再発した場合、世界標準の再発治療もFOLFOX療法が第一選択である。

このように世界標準の再発大腸がんの化学療法は、生存期間を飛躍的に延ばしている。しかし、残���ながら日本では新薬の承認に時間がかかるなどの理由で、世界標準の再発大腸がんの化学療法は受けられないのが現状だ。

[大腸がんにおけるIFL療法+アバスチンの効果]
図:大腸がんにおけるIFL療法+アバスチンの効果

日本での再発大腸がんに対する化学療法は以下のように行われている。術後に補助化学療法を受けなかった場合、通常レボホリナート(商品名アイソボリン)とフルオロウラシルの併用療法が第一選択である。この2剤にイリノテカンを加えた3剤併用療法(IFL療法)を行うこともある。癌研病院の外来治療センターでは第一選択はIFL療法で、第2選択がレボホリナート・フルオロウラシル療法である。

「近々、再発大腸がんに対して、オキサリプラチンやテガフール・ギメラシル・オテラシル(商品名TS-1)を中心とした新併用療法を導入します。また血管新生阻害剤やがん遺伝子を特異的に阻害する新規薬剤の臨床研究も開始します。これらの薬剤で、世界レベルの化学療法を行います」と水沼さんは言う。

一方、手術後、補助化学療法を受けたにもかかわらず再発した場合、再発治療は以下のようになる。日本では通常、大腸がんの術後補助化学療法はレボホリナートとフルオロウラシルの併用療法が行われる。この補助化学療法を受けた場合、再発ではこの併用療法が効かないことがあるため、再発治療の第一選択はイリノテカンの単独投与である。

日本での再発大腸がんに対する化学療法は、残念ながら世界標準の化学療法の一歩手前のところでストップし、足踏み状態である。

[大腸がんに対して承認されている抗がん剤]
  一般名 製品名
代謝拮抗薬
(フルオロウラシル系薬剤)
フルオロウラシル 5-FU
テガフール フトラフール
ドキシフルリジン フルツロン
テガフール・ウラシル UFT
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム TS-1
トポイソメラーゼ阻害剤 イリノテカン カンプト、トポテシン
マイトマイシンC マイトマイシンC マイトマイシン
その他 シクロフォスファミド エンドキサン
塩酸ニムスチン ニドラン
シタラビン キロサイド
アドリアマイシン
ほか
アドリアシン

副作用はコントロールすることが可能!

欧米先進国ではオキサリプラチンやベバシズマブ、セツキシマブなどの新しい薬の登場で、大きく変わろうとしている。化学療法科部長の畠さんは次のように述べる。

「従来から行われている再発大腸がん患者さんに対する5-FUとロイコボリンの併用療法の有効率は20~30パーセントでした。イリノテカンを加えた3剤併用療法、あるいはイリノテカンの替わりにオキサリプラチンを使った3剤併用療法で有効率は40~50パーセントになりました。さらに、ベバシズマブを加えた4剤併用療法なら有効率は60パーセントになります。4剤を併用しても薬の作用が違うため、重篤な副作用の心配はありません。

これまで、大腸がんで再発した患者さんに化学療法を説明する際は、『100人のうち20人にしか効きません。80人は効かなくて、副作用が出ます』と言わなければなりませんでした。しかも、無治療に比べて、化学療法をやった場合の延命効果は5~6カ月ほどでした。しかし、今、ようやく『50人以上の人に効きます』と言えるようになりました。しかも延命効果でも2年近い治療成績が次々に出てきています」

10数年前の再発治療の現場では、抗がん剤を注射すると吐き気や下痢に苦しめられ、外来で点滴治療を受けるのを拒否する患者もいた。抗がん剤は、有効率が低く、副作用で苦しめられるだけと思われていた。しかし、抗がん剤治療は進歩した。

「制吐剤をきちんと用いさえすれば、抗がん剤による吐き気や下痢の副作用で苦しめられることはなくなりました。外来で抗がん剤治療を受けながら、仕事を続けられる時代になりました」と畠さん。

抗がん剤は一定期間に規定量を使用することが重要

大腸がんで再発しても、世界標準の再発がん治療が受けられれば、かなりの生存期間が可能になった。だから、再発してもあきらめることはない。しかし、やはり再発は厳しく、手ごわいのも事実だ。抗がん剤治療をためらう患者も少なくない。抗がん剤治療は受けないという考え方も選択肢の一つだ。

ただし、「抗がん剤治療を受けよう」と決めたら、エビデンス(科学的根拠)のある処方で治療を受けるようにしたい。畠さんは次のように語る。

「副作用を恐れて、抗がん剤の量を減らしたり、投与時期を遅らせたりする場合もあるようです。しかし、量を減らして、投与を遅らせると抗がん剤の効果はダウンします。少ない量の抗がん剤でよい治療成績は得られません。量は落としても80パーセントまで、投与時期は遅れても1週間遅れまで。決められた処方通りに、きちんと受けてほしい」

また、治療効果をチェックせず、同じ抗がん剤を漫然と使い続けるのも問題だ。

「抗がん剤をだらだらと使い続けると、骨髄異形成症候群という抗がん剤による2次性のがんになります。治療効果を高めるには患者さんに本当に有効な抗がん剤をある期間、決められた量をきちんと使うことが大切です」と畠さん。

再発大腸がんの化学療法は目覚ましい進化を遂げつつある。信頼できる腫瘍内科医を探し、十分な説明を受けて、納得のできる再発治療を受けていただきたい。

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