渡辺亨チームが医療サポートする:大腸がん編

取材・文:林義人
発行:2005年2月
更新:2019年7月

大腸がんが肝臓に転移しても、抗がん剤治療に希望がある

大腸がんを早期発見する腫瘍マーカーはない

朴成和さんのお話

*1 腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは血液検査でがんの量の目安となる指標です。手術後の再発の有無や、再発後の抗がん剤治療時の治療効果を知る際の参考値として用いられています。がん検診などにも用いられますが、大腸がんを早期に発見できる腫瘍マーカーはまだありません。大腸がんではCEAとCA19-9と呼ばれるマーカーが一般的ですが、進行大腸がんであっても約半数が陽性を示すのみです。つまり、転移・再発した場合でも必ずしも異常値を示すわけではなく、逆に転移・再発していない場合でも異常値を示すときもあります。ですから、あくまでも大腸がんの診断では、腫瘍マーカーは目安の1つであり、再発はCTなどの検査で診断します。

*2 大腸がんの転移

大腸がんの患者さんは、最初にがんが見つかったときに肝転移が見つかるものと、再発が起こったときに肝転移を診断されるものを合わせて、全体のおよそ50パーセントが肝臓に転移・再発します。この肝転移を治すことができれば、大腸がんを征服できるともいわれます。大腸がんの転移先で肝臓の次に多いのが、肺です。

*3 肝転移大腸がんの治療
[治療前]
治療前
[治療後]
治療後
大腸がんの肝転移に対する抗がん剤治療

大腸がん以外のがんでは転移・再発した場合に手術を行うことはまれですが、大腸がんでは肝臓や肺、骨盤内に転移・再発し、他の臓器に転移・再発していないなど、完全に切除できると判断された場合には、手術を行います。

肝転移を切除できれば5年生存率は約40パーセントと報告されています。一般的に手術が適応の症例は、大腸の原発巣が治癒切除されていて、転移巣を切除しても肝臓が働くことができる量を保つことができる場合です。

それ以外の部位に転移・再発が発見された場合、その部位や転移の個数により治療方法が異なります。肝転移についで多いのは肺転移ですが、転移先が肺だけに限られていればやはり積極的に転移巣の切除手術が行われるようになりました。肺転移を切除できたときの5年生存率は約35パーセントと報告されています。


奏効率、無病生存期間、生存期間のどれも凌駕

朴成和さんのお話

*4 再発大腸がんの抗がん剤

再発した結腸がんでは、抗がん剤が一時的な症状の緩和や延命のために使用されます。1990年代前半までの古いデータですが、海外で抗がん剤治療を行ったグループと治療しないにグループに分けて行われた臨床���験では、抗がん剤治療を行わないグループの生存期間中央値は5~6カ月であるのに対して、5-FUという抗がん剤で治療したグループは11~12カ月と、抗がん剤治療が有効(延命効果)であることが示されています。

欧米では1990年代後半に5-FU+ロイコボリンとカンプト(トポテシン)や、エロキサチン(日本では未承認)などの薬を組み合わせた併用療法が開発されました。この結果、従来5-FU系の薬剤のみでは12カ月前後であった生存期間中央値が、最近は20カ月を超える結果が出てきています。

カンプト(トポテシン)は新しいメカニズムで働く抗がん剤で、単剤での奏効率(腫瘍縮小の割合)27パーセントと報告されています。肺がんや子宮がんなどの細胞を殺す効果があるとして使われてきましたが、5-FU+ロイコボリンとの併用療法が開発されたことにより、大腸がん用の抗がん剤としても注目されるようになりました。

海外にカンプト(トポテシン)+5-FU+ロイコボリンの3剤併用と5-FU+ロイコボリンの併用を比較した試験の報告があり、奏効率やがんが悪化するまでの期間、生存期間など、どれをとっても3剤併用のほうが優れていることが示されています。

ただし、カンプト(トポテシン)は、骨髄機能抑制、ひどい下痢等、重篤な副作用が起こることがあり、100人中1人くらいの頻度で致命的な経過をたどることもあります。アメリカには、3剤併用のほうが治療開始後60日以内の早期に死亡する割合が3倍になるという報告もあるので、注意する必要がありますが、外来で治療可能です。切除不能・再発大腸がんに対して、現在わが国でできる最善の治療は、このカンプト(トポテシン)+5-FU+ロイコボリンの3剤併用です。

*5 エロキサチン

エロキサチンはもともと日本で開発され、欧米では標準治療薬となっていますが、国内では未承認の抗がん剤です。白金を使った「プラチナ系」と呼ばれる抗がん剤の一種で、このグループの中でもとくに大腸がんの細胞に対してよく働くことが示されています。5-FU療法に抵抗性を持った患者さんなどに対して、有望な作用があることが示されました。エロキサチンを再発大腸がんの患者さんに単独投与した治療成績は、1年生存率43パーセント、治療開始から半数の患者さんが死亡するまでの期間は338日です。

現在、患者団体などからエロキサチンの国内での保険収載が求められています。本年1月の厚生労働省の未承認薬使用問題検討会議で、エロキサチンは混合診療の対象とする(ほかの診療は保険適用で、エロキサチンの分だけ実費負担)ことが了承されていますが、まだ実現していません。しかし、まもなく保険収載され、一般診療で用いることができるようになります。


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