化学放射線と全身化学療法を術前に行うTNT療法が話題 進行下部直腸がん 手術しないで完治の可能性も!
TNT療法+Watch&Waitで再発したら、どんな治療になりますか?
完全奏効に至らなかった患者さんには、TNT治療後、手術が必要です。術前CRT→手術→全身化学療法という通常のスケジュールで治療を進めた場合とほぼ変わらない状態で、手術を受けることができます。
一方、Watch&Waitに入ったけれども局所再増大してしまった場合も、判明した時点で手術を行います。しかも、その9割以上は切除可能で、腹腔鏡やロボット手術など体に負担の少ない手術で切除できるとする報告もあります。
TNT療法は今後どのような展開になりますか?
まだ新しい治療なので、確立していないところが多々あります。例えば、術前CRTと全身化学療法のどちらを先に行ったらいいのかなども、明らかになっていませんでした。しかし、世界各国でさまざまな臨床試験が進み、結果も出ています。
2020年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、ステージⅡとⅢの下部直腸がんを対象にCAPOX*6コースまたはFOLFOX*8コース、CRTの前か後に行った結果を比較した「OPRA試験」の中間報告が行われました。
それによると、CRTを先に行い、そのあとCAPOX*6コースまたはFOLFOX*8コースを行うと、3年間の手術回避率はなんと58%です。要は半分以上の人は3年経った時点でも直腸切除せずにすんでいる。もちろん、成績は少しずつ下がると思いますが、進行下部直腸がんで半分以上が手術せずにすむかもしれないというデータは、かなり衝撃的です(図3)。

当院が中心になって現在取り組んでいるのは、肛門から5㎝以内の進行下部直腸がんに対してTNT療法後に臨床的完全奏効が得られた患者さんにWatch&Waitを行う多施設共同ランダム化第Ⅱ相試験「NOMINATE試験」という前向き試験です。2021年1月に登録を開始し、66人を予定しています。結果は4、5年先になりそうですが、このような進行がん患者対象で、前向きデータの発表ができるのは意義深いと思います。
NOMINATE試験では、術前CRTのあとに全身化学療法を行う群と、全身化学療法をCRTの前後に分ける(サンドイッチ)群をランダム化の上比較します。サンドイッチ群では、放射線の感度を高める効果が期待できるアバスチン(一般名ベバシズマブ)をCAPOXに加えて3コースを先に行い、CRT後の3コースはCAPOXを行います(症例画像)。

世界ではたくさんTNT療法+Watch&Waitの臨床試験が行われていますので、これから新しいデータが出てくると期待しています。
TNT療法+Watch&Waitはどこで受けられますか�� 気をつけることは?
今のところ、この治療が受けられる医療機関は少ないですが、そうした医療機関を探して、訪ねるのも方法です。これらの施設では臨床試験も行われていることも多いので、条件があえばそこに登録するのもいいでしょう。
気をつける点というより、心にとめておいていただきたいことはあります。
Watch&Waitというものがあることを知っていただきたいのですが、過大に期待されるのは禁物です。手術しなくていいかは、TNT療法を行ってみなければわかりません。臨床的完全奏効に至らなければ、手術が必要です。
また、TNT療法はCRTと全身化学療法を続けて行うかなり強い治療です。結果的に手術せずにすんだ患者さんにはメリットがとても大きいですが、手術が必要となった方には過大治療という側面もあります。QOLを考えると若い人にメリットがある治療と言えるでしょう。
次に、運良く臨床的完全奏効となりWatch&Wait に持ち込めた場合でも、3割くらいの患者さんでは直腸のがんが再増大してきます。臨床的完全奏効はあくまで肉眼的にがんが消えたと考えられる状態なので、3割くらいの患者さんは小さながん細胞が残っているということです。
重要なことは、局所再増大したとしても、早期に発見し手術を受けていただければ、長期の予後にはあまり悪影響はないと言われていることです。そのため、Watch&Waitでは少なくとも3カ月に1回内視鏡やMRIなどで、局所のがんの再増大が起きないかを慎重に経過観察する必要があるのです。
また、Watch&Waitを行うかどうかの判定は重要なポイントなので、当院のようにたくさん経験している施設で受けていいただきたいと思います。
とにかく、TNT療法とWatch&Waitがあることを知っていただき、そのメリット・デメリットをしっかり理解し、選択していただくことがとても大事です。
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