ビタミンDの驚くべき効果がわかってきた 消化管がん手術後の再発・死亡リスクを大幅に減少
ビタミンDの服用によってわかったことは?
「アマテラス試験やSUNSHINE試験の結果が発表された後、ドイツの研究グループが中心となり、我々も参加して、ビタミンDとがんに関する*メタ解析を行いました。アマテラス試験の対象者を含む10万人以上のデータを解析したのです」
対象となった患者数は10万4,727人にのぼり、その内の2,015人ががんで死亡していました。明らかになった注目ポイントは、毎日ビタミンDを服用することで、がんによる死亡を12%抑制できるということでした。がんを発症していない人であれば、がんによる死亡を13%抑制。がんで手術を受けた人でも、手術後に服用を開始することで、がんによる死亡を11%抑制できるという結果でした。
「現在、世界中で毎年1,000万人ががんで命を落としています。ビタミンDを服用することで、がんによる死亡を10%抑制できたら、毎年100万人の命を救えることになります。逆にどんな名医であっても、年間にこんなに多くの命を救うことはできません」
ただ、ビタミンDでがんの再発・死亡リスクが減少することをダイレクトに証明した二重盲検ランダム化比較試験は、未だに存在していません。それが残された問題だったのです。
「たとえばアマテラス2試験で決定打となる結果を出せれば、世界中のがん診療ガイドラインが書き換えられ、がんの手術後にビタミンDが処方されるようになるでしょう。それによって、がんの再発・死亡が減ると考えられます。それを実現させるためには、過去に行ったアマテラス試験を徹底的に解析する必要があると考えました」
いくつかの事後解析が行われましたが、その中の1つが、「p53がん抑制遺伝子に関わる解析」でした。p53は、がんの抑制遺伝子で、この遺伝子に変異があると、がんの再発率や死亡率が高くなることはよく知られています。そこで、病理検査の結果p53が過剰発現しており、かつ血液中にp53抗体が検出される患者さんを選んで解析してみたのです(図5)。

「アマテラス���験に参加した417人中80人が、この条件に当てはまりました。2割くらいの人が、p53が過剰発現し、p53抗体を持っていたのです。80人の内訳は、ビタミンD群が54人、プラセボ群が26人でした」
少ない人数ですが、ビタミンDの効果を見るため、両群の5年無再発生存率を比較してみました。すると、ビタミンD群は81%なのに対し、プラセボ群は31%でした。ハザード比は0.27。つまり、ビタミンDの服用によって、がんの再発・死亡が73%も抑制されていることがわかったのです。
「p53が過剰発現し、かつp53抗体をもつ患者さんは、もともと再発リスクの高い人たちです。これに当てはまらない患者さんは、比較的再発リスクが低く、ビタミンDを飲んでも飲まなくても、再発・死亡はあまり変わりません。再発・死亡リスクの高い人たちがビタミンDを服用すると、再発・死亡リスクがもともと低い人たちと同じレベルまで低下する、と考えることができます。このように、リスクの高い患者さんにビタミンDが有効なのは朗報ですし、リスクを73%も減少させるというのは、他の研究でも類を見ないきわめて高い効果だと言えます」
この解析結果に対し、ボストン大学のホリック教授は、「ビタミンDとがんにとって、この研究結果はゲームチェンジャーとなる可能性がある」と高く評価しています。
*メタ解析=似ている複数の研究結果を統合して解析すること
消化管がん以外のがん種も含めてアマテラス2試験が2022年にスタート
二重盲検ランダム化比較試験の「アマテラス2試験」は、東京慈恵会医科大学病院と国際医療福祉大学病院の多施設共同試験という形で、2022年1月に始まりました。
対象となるのは、肺がん・大腸がん・肝がん・胃がん・乳がん・食道がん・膵がん・頭頸部がんのⅠ~Ⅲ期で、手術により完全にがんを切除できた患者さんです。
ビタミンD(2,000IU)を服用するビタミンD群とプラセボ群にランダムに振り分け、がんの患者さん全体と、p53陽性の患者さんで、再発・死亡を比較することになっています。p53陽性のがんの患者さんは、30~50%程度。試験の対象となるがん種では、40%程度が陽性になると考えられています。
「この試験のポイントとなっているのが、最初の1年間の再発・死亡は含めず、遅発性のがんの再発・死亡を見ていく点にあります。過去のアマテラス試験でも、最初の1年は両群で差がつかず、2年目くらいから差がつき始めていました。ビタミンDで予防できるのは、2年目以降の再発ではないかと考え、1年後からの成績を比較することにしたのです」
目標人数は1,430人で、順調に進んでも、エントリーが終了するまでに5年ほどかかります。そこから3年間は経過を追う必要があり、データの解析に1年ほどかかります。そのため、結果が出てくるのは、2030年末頃になるのではないかと見られています。
「日光に当ることにより皮膚で合成され、また安価で副作用の心配もないビタミンDで、がんの再発・死亡リスクが減少することが明らかになれば、がんの治療は大きく変わることになるでしょう」
周到に準備されてスタートしたアマテラス2試験に、大きな期待が寄せられています。
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