内視鏡治療最前線:体に傷をつくることなく、一括切除できる最新治療法 早期大腸がんの内視鏡治療最先端・日本が開発したESDとは
保険適応になったものの……

大腸がんのESDは技術的な難易度の高さから、2009年から先進医療の対象になったものの、限られた施設で行われるにとどまっていた。
しかし、その有効性とともに技術の向上や手技の普及が進んだ結果、2012年4月からは保険適応となった。
それでも、依然として高い技術が要求される難易度の高い治療に変わりはなく、どの施設でも行えるものではない。
まず、保険適応を受けるには施設要件があり、一定の条件が整った施設でないと実施できない(図5)。しかし、それ以上に重要な点は、保険の対象となるのが「最大径が2cmから5cmの早期がんまたは腺腫を、一括切除した場合」に限定され、大きさの上限が設けられたことだろう。
この上限について大圃さんは疑問を投げかける。
「そもそもESDは、EMRでは2cmまでしか一括切除できないため、それ以上の大きさの早期がんを一括切除するために開発された治療法なのに、5cmまでという縛りがかかってしまった。それは薬事行政が、ESDはまだ技術的難度が高いため、5cm以上になると合併症の率が高くなって危険と判断したためでしょう。しかし、その結果、これまで先進医療で行ってきた5cm以上の病変の一括切除が保険診療になったらできなくなるという、おかしなことになっています」
しかも、分割切除した場合は保険請求ができない。
実際には16cmの切除例も
「5cmまで」と上限が設けられたうえに、「一括切除した場合」と限定されれば、5cmを超えるがんは手術にゆだねるしかなくなってしまう。
現実には、ESDでかなり大きながんまで一括切除が可能になっており、大圃さんがこれまで一括切除した最大のものは16cmの大きさだったという。
「その患者さんの場合は、内視鏡で一括切除ができ、その後の再発はありません。さらに直腸にあった病変を内視鏡で治療できたので、人工肛門にもならずに済みハッピーエンドでした。保険適応の条件に合わせていたら、ESDを受けられずに手術を選択せざるを得なかったケースです」
では今後、5cmを超えるがんでESDを希望する患者さんは、どうなるのか。
大圃さんの考えは、こうだ。
「学会としてサイズの制約をなくそうという動きは当然出ていま��ので、いずれは保険適応になるでしょう。これまでに先進医療でESDを実施し、十分な技術と経験をもっている施設では、5cm以上のがんでも安全にESDを実施できるわけです。このような施設では、現状では自費診療で行えるようにするなど、いろいろな方法を講じて患者さんの希望に応えていくしかないのではと思います」
ESD治療、どう受けるか
内視鏡治療を受けようとするとき、どのような注意が必要だろうか。高度な技術と経験が必要とされる治療であるのは変わらないから、施設要件を満たしているかどうかなど、しっかりと確かめたうえで治療を受けたい。これを前提に、大圃さんは次のようにアドバイスする。
「外科の手術の場合は、手術が終わったあとも長期にわたって通院が必要です。家や勤め先の近くとか、家族のサポートを得やすい場所にある病院を選ぶことも、施設選択で考慮すべき要因の1つとなります。
これに対してESDの対象は、治療が終われば理論上ほぼ100%再発しないので、治療後のこまめな通院は必要ありません。その後は定期的に年1回など、内視鏡検査をしていくのみです。それならば、片道3時間かかるとか、新幹線で行くような多少不便な立地であっても、安心して治療を受けられる施設を選ぶことをお勧めします」
内視鏡治療は先端技術の進歩により、ますます進化している(図6)。内視鏡と腹腔鏡とを使い、がんを治す新たな手術の取り組みも始まっている。大腸がんを根治するさまざまな努力が、今、盛んに行われている。

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