術後補助化学療法:病期Ⅱ・Ⅲで重要な術後の補助化学療法。効果や副作用を知って6カ月の治療完遂へ 大腸がん手術後の再発を予防するベストな治療法を選ぼう
見えない副作用と見える副作用がある
FOLFOX療法とXELOX療法に、共通する副作用は、エルプラットによる末梢神経障害だ(図9)。
「手足がしびれたり、感覚が鈍ったり痛みを感じる状態です。手先の感覚が鈍りボタンがかけられない、ピリピリしたしびれで包丁が握れない、足の痛みで靴がはけない、などが起こります。大切なのは、生活に支障をきたす状態にしないことです。
また、重症化すると、治療の終了後もしびれなどの症状が残ってしまうことがあります。術後補助化学療法は、再発を防いで、その後何10年を生きるために行うのですから、生活に支障をきたすような後遺症を残してはいけません」
手足のしびれで生活に支障をきたしそうなら、エルプラットを中止する。ここでも大切なのは、我慢しすぎないことだ。また、手足のしびれは、患者さんが感じていても、医療者にはなかなか伝わらない。症状をきちんと伝えることも大切となる。
このほかの副作用には、両治療法間で違いがある。
FOLFOX療法で最も問題となる副作用は好中球減少だ。好中球は免疫に関わる白血球の1種で、減少すると細菌感染などが起こりやすくなる。場合によっては命に関わる重大な状況を招くこともある副作用だ。XELOX療法でも起こるが、FOLFOX療法のほうが頻度が高い。
「好中球減少が起きていても、患者さん自身は気づきません。〝見えない副作用〟と言ってもいいでしょう。そのため、通院時には血液検査を行い、副作用をチェックします」
一方、XELOX療法で最も問題となるのは、ゼローダによって起こる手足症候群。手の平や足の裏がヒリヒリしたり、赤く腫れたりする。皮膚が黒ずんだり、爪の色が変化することもある。重症化させないために保湿効果のあるクリームなどを使うのがよいが、それでも症状が重くなることもある。
「手足症候群は〝見える副作用〟です。患者さんは気になりますが、命に関わるような状況になる心配はありません。患者さん自身が気づく症状なので、手の平や足の裏がひどく痛むときはゼローダの服用をやめてください、などと伝えることにしています」
症状が出ている際に服用を続けると、副作用が重くなることがあるので、患者さんは自分の症状をよく観察し、副作用が出たときは、病院に連絡して服用を継続するか相談する必要がある。場合によっては、自分��判断で服用を中止してもよい。ただしその場合は、次の受診時にその旨を主治医に伝えることが大切だ。
症 状 | 対処法・予防法 | |
好中球減少 | 血中の好中球が減少し、感染症にかかりやすくなる | ・外出時はマスクをし、手洗いうがいにより、感染症を予防する |
38℃以上発熱があるときは、感染の可能性がある | ||
手足症候群 | 手のひらや足の裏が、赤く腫れたり、ひび割れ、水ぶくれ、痛みが生じる。つめが黒ずむ | ・適切な減量、休薬をする ・保湿クリームで皮膚の保湿を保つ ・やわらかい靴を履き、長時間の歩行は避ける |
XELOX療法ではゼローダの服用量が少ないため、グレード3以上になる場合は少ない | ||
下 痢 | 水のような便が頻繁に出る | ・適切な減量、休薬をする ・下痢止めを服用する ・脱水を避けるため水分をこまめに補給する |
腹痛、吐き気、食欲不振、口内炎などの消化器症状として現れることもある | ||
血管痛 | 点滴針を刺している付近の静脈が痛む | ・点滴の前後に患部を温める |
エルプラットによる副作用 | ||
末梢神経障害 | 手、足、口などがしびれる。のどが締め付けられる感じがする | ・適切な減量、休薬をする ・冷気に触れないようにする、冷たいものを口にしない ・対処薬の処方 |
急性の症状は数日で回復することもある |
薬の量を減らしても効果は変わらない

XELOX療法の副作用として起こる手足症候群は、徐々に進行する。重症になると、足の裏が痛くて歩けない、手の平が痛くて物が持てない、などの状態になることもある。ただし、XELOX療法では、ここまでの症状になることはあまりない。大切なのは、痛みなどの早期段階の症状が現れた時点で、休薬・減量していくことだ(図10)。
「XELOX療法は、適切に減量しながら継続することを前提とした治療です。減量することで、その患者さんにとって最も適切な投与量になるのです。減量しても、治療を続けていれば効果は変わらないというデータもあります。よくないのは、我慢しすぎて症状を悪化させ、6カ月間続けられなくなることです」
副作用の上手なコントロールが、XELOX療法の効果を引き出すコツといえそうだ。
下痢が起こることもある。しかし、これも患者さんに前もって説明しておくことで、問題が大きくなることなく乗り切ることができるという。
6カ月間の治療だから頑張ることができる
XELOX療法には、エルプラットを点滴するときに血管痛が起こることがある。血管に沿って痛みが生じるのだ。痛みが強い場合は、薬剤をポートから太い静脈に入れれば、血管痛が起こらなくなる。
「確かに血管痛を訴える患者さんは多いのですが、腕を温めるなどの方法で対処しています。いきなり痛みが生じると患者さんも不安になるので、血管痛について事前によく説明しておきます。6カ月間で終わる治療なので、患者さんも頑張れるのだと思います」
後悔しないために治療法を選択する
「大腸がんの手術の後、補助化学療法をどうするか、迷う患者さんもいるでしょう。そんなときに心に留めてほしいのは、後悔しない治療を選択する、ということです。補助化学療法によって再発を減らせるというデータがあるのなら、そしてその方法が標準治療になっているのなら、ぜひ受けるべきでしょう。また、FOLFOX療法やXELOX療法によって、再発をさらに減らせる可能性がある状況かどうかを主治医と良く相談して、メリットがある場合は受けて頂くことを勧めます」
多くの患者さんと向き合ってきた医師として、金澤さんは次のようにアドバイスする。
「患者さんには、せっかく再発を予防するチャンスがあるのなら、それをうまく生かしてほしいと思います。また現在は、さまざまな治療法があります。患者さん自身のライフスタイルに合った治療法はどれか、それらの効果や副作用、利便性などについて、医師とよく相談して選択してほしいと思います」
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