外来化学療法:ポイントは自己管理! 治療と副作用への理解が外来化学療法成功へのカギ

監修●朴 成和 聖マリアンナ医科大学腫瘍内科教授
取材・文●伊波達也
発行:2013年6月
更新:2019年10月

副作用については神経質になりすぎない

 学療法を受けることに決めたら、初回治療以降のサイクルと副作用の波をきちんと把握して、日常生活とうまく組み合わせ、治療を円滑に進められるように心がける。不安に思う点は医師や看護師、薬剤師に遠慮しないで質問しておく。

「外来化学療法で、患者さんが一番不安に思うのは副作用です。副作用に立ち向かう心構えとしては、自ら心配事を増やさないことです」

がんという病気、そして抗がん薬治療は患者さんにとってつらい特別なものだが、それをいかに日常生活の中に受け入れていくかだと朴さんは強調する。

「抗がん薬の治療中だからといって、軽い副作用にまで過剰に反応する必要はありません。がんになる前なら、37度程度の熱が出たためにすぐ病院に行くことはなかったはずです。1日に1~2回程度の下痢でも病院には行かないでしょう。逆に、39度の熱が出れば多くの人が病院に行くように、抗がん薬治療を受ける前と同じような判断規準で、病院と連絡をとったり、来院してください。

副作用による軽い症状は、抗がん薬の副作用として予測されているわけですから、治療開始時に指導を受けた副作用対応方法にそって自宅で対処することができます。ただし、骨髄抑制など注意すべき副作用はもちろんありますので、指導を受けた通りの対処をしても、38度以上の発熱や水様の便が5回以上続くといった症状などがあれば、すぐに連絡してください。医療者側が適切に対処します。夜間でも対応できるようになっています。私たちは、初回投与の1週間後に必ず経過観察するようにしています」

「たとえば、極めて重篤なカンプト/トポテシンによる白血球減少などは8日目に発見できることが多いからです。このように例外的に起こる重篤な副作用は医師も注意しています。あとは、起こったとしても通常の範囲内の副作用であり、多くの場合には事前に指導した対処方法で管理できます。

大体の副作用は2週間程度で出そろいますが、吐き気、嘔吐は最初の数日、下痢も1週間以内にはよくなります。1度経験すると患者さん自身も慣れて、自己管理がやさしくなると思います。それでも心配なときは、まず病院にお電話ください。時間内であれば、腫瘍センターの看護師が対応しています」

副作用とうまくつきあって、普段と変わらない生活を心がけることが、外来化学療法を完遂するためのコツになる。

「病院へ行くべき副作用かそうではないかを知るには、日頃から『副作用メモ』を作り、副作用の種類、程度、持続時間などを簡単に書いておき、外来時に医師や看護師に伝えてアドバイスを受けてください」

自分の治療レジメンではどういう副作用が出るのかを知っておくことも大切だ(表3)。たとえば、FOLFOX療法では手足のしびれ、FOLFIRI療法では下痢が特徴的であり、それ以外の他のレジメンと共通の吐き気・嘔吐・食欲不振、口内炎、便秘、ほかの副作用それぞれについて自分で一覧表にして1日1回確認すると、自己管理にも役立つだけでなく、医療者にも正確な情報を伝えることができ、副作用対応のさらなる工夫にもつながる。

■表3 大腸がん化学療法のレジメンと副作用

 副作用の症状
レジメン 悪心・嘔吐 食欲不振 下痢 白血球
(好中球)
減少
赤血球減少 血小板減少 脱毛 口内炎 手足の皮膚
症状
末梢神経障害 高血圧 出血 皮膚障害 アレルギー反応
5-FU*+アイソボリン*療法
UFT*+ロイコボリン*療法
ゼローダ*療法  ◎
TS-1*単剤療法  ○
カンプト(トポテシン)単剤療法
FOLFOX療法  ○  ◎
XELOX*療法  ○  ○  ◎
FOLFIRI療法  ○
5-FU+アイソボリン+アバスチン*療法  ○  △  △
ゼローダ+アバスチン療法  ○  ○  △  △
FOLFOX+アバスチン療法  ○  ◎  △  △
XELOX+アバスチン療法  ○  ○  ◎  △  △
FOLFIRI+アバスチン療法  ◎  ○  △  △
アービタックス単独療法  △  ○  △
ベクティビックス単独療法  △  ○
カンプト(トポテシン)+アービタックス併用療法  △  ○  △
FOLFOX+アービタックス療法  △  ○  ◎  ○  △
FOLFOX+ベクティビックス療法  △  ○  ◎  ○
FOLFIRI+アービタックス療法  ◎  ○  ○  △
FOLFIRI+ベクティビックス療法  ◎  ○  ○

△:軽度も含めた発現頻度10%以上 ○:軽度も含めた発現頻度20%以上 ◎:重い症状(米国国立癌研究所毒性基準のグレード3以上)の発現頻度10%以上
出典 「やさしい大腸がん外来化学療法の自己管理 改訂版」(医薬ジャーナル社)より一部改

カンプト/トポテシン=一般名イリノテカン FOLFOX療法=フルオロウラシル+レボホリナート+エルプラット(一般オキサリプラチン)FOLFIRI療法=フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン

副作用とQOLの関係性把握が適切な治療に

現在、朴さんのチームでは、「外来化学療法における有害事象スケールを利用した問診の有効性に関する検討」という臨床試験を実践中だ。

これは、レジメンごとに患者さんに副作用の出方や度合い、持続時間などの情報を毎日つけるマークシートを使って申告してもらい、集積したデータを色分けなどで可視化して患者さんの状況を正確に把握し伝達できるようにするものだ。

また、多くの患者さんの情報を集計することにより、患者さんは自分の副作用だけでなく、他の患者さんの副作用の出方を知ることで、さらに安心感を得ることができる。 医療者側は、副作用とQOLの関わりについて把握し、どのような副作用に対して重点的に介入していけばよいのかが明らかにできる。それによって、できるだけ普段に近い日常生活を患者さんに送ってもらうための適切な治療を目指している。

がん相談支援センターの有効活用が効果的

外来化学療法のあいだは、副作用以外にも、仕事のこと、治療費のことなどさまざまな心配事がある。全国のがん診療連携拠点病院には、その設置が課せられている「がん相談支援センター」がある。医師、看護師、薬剤師では相談しきれないことも含めて、利用することをおすすめする。

具体的には、医療費、福祉・介護など社会的サポートの活用法、セカンドオピニオンの受け方、医師の説明が理解できなかったこと、がんの一般的な知識といったことについて相談にのってくれる。

「医師に相談しにくいことでも、ソーシャルワーカーが相談にのってくれます。外来診療にいらした患者さんを、診療後すぐに紹介することもできます」

外来化学療法の場合は、自宅や勤務先で過ごす時間のほうが圧倒的に多いため、日頃から心身の悩みを気軽に話せる、かかりつけ医と付き合っておくことも大切だ。

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