食道がんの基礎知識:初期症状がなく、転移もしやすいが…… 高精度の内視鏡で早期発見が可能 手術以外にも根治的治療の選択肢が

監修●堅田親利 北里大学医学部消化器内科学診療講師
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年9月
更新:2020年3月

術前の化学療法はどのように行われる?

日本におけるステージⅡまたはⅢの標準的な治療は、5-FUとシスプラチン(一般名)を併用するFP療法を2コースおこなってから手術をするという方法です。この治療の5年生存率は55%です(JCOG9907試験)。

手術の前の化学療法を、タキソテール、シスプラチン、5-FUの3つを併用するDCF療法にすることによって、さらなる予後の改善を目指す方法もあります。

術前のベストの治療は、FP療法なのか、DCF療法なのか、それとも欧米で広く普及している化学放射線療法なのかを調べるために、現在、国内で多施設臨床試験(NEXT試験)が実施されています。

5-FU=一般名フルオロウラシル シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ タキソテール=一般名ドキタキセル

手術以外の根治的治療法は?

■mRTOG regimen第Ⅱ相試験での全生存率

ステージⅡまたはⅢで、最初から手術を受けることを希望しない患者さんには、根治的化学放射線療法を勧めています。化学療法と放射線療法を同時に行う治療法です。以前、この治療の5年生存率は37%でした(JCOG9906試験)。

近年は、5-FUとシスプラチンの用量を増量し、多門照射という効率的な放射線照射技術を導入することによって、治療成績の向上に成功しています。国内で多施設臨床試験(mRTOG regimen第Ⅱ相試験)を実施したところ、この改良で5年生存率が55%に向上しました。

また、当院では、手術の対象からは除外されてしまうような、がんが周囲の組織(臓器)に入り込んでいる症例、頸部リンパ節や腹腔動脈周囲リンパ節に転移している症例を対象に、化学療法をDCF療法に強化した、根治的化学放射線療法も開発してきました(DCF-RT第Ⅱ相試験)。完全奏効率52%、無増悪生存期間11カ月、生存期間中央値29カ月、3年生存率45%と、従来の根治的化学放射線療法よりも治療成績が向上したことを、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2013)で報告しました。

咽頭がんなどにもなりやすい?

食道がんの患者さんが咽頭がん、喉頭がん、口腔がんになる率は15~20%ほどです。もしこれらが食道がんと同時に発生している場���は、同時に治療するのか、別々に治療するのかについても考えなければなりません。

食道がんを治療した後に、食道がんの再発、咽頭がん、喉頭がん、口腔がんが発生することもありますので、治療後であっても、口・のど・食道を定期的に検診することをお勧めします。

また、食道がんの治療後は、禁酒をすることが大切です。国内で実施した多施設臨床試験(JEC試験)において、食道がんの患者さんが禁酒をすることにより、その後の食道がんの発生率が減少したことを、今年の米国消化器病週間で報告しました。

化学放射線療法でも根治を狙える

堅田親利 北里大学医学部消化器内科学診療講師

現在、当院では、個別化医療(テーラーメード治療)の開発も進めております。個別化医療は、患者さん1人ひとりに合わせた治療をご提案する医療です。ステージⅡまたはⅢの患者さんに対して、一律に手術を勧めるのではなく、根治的化学放射線療法(mRTOG regimen)でも十分に治せる可能性がある症例を選び出そうというものです。
また、当院では手術前の化学療法をDCF療法に強化しています。このDCF療法を3コースおこなうことによって、食道がんがほとんど消失してしまうことをよく経験するようになりました。
このように、化学療法が良く効くことが証明され、残ったがんの量もごくわずかという症例であれば、手術ではなく改良を加えてきた根治的化学放射線療法でも、十分に根治を狙えるのではないかというコンセプトのもとに、現在、国内の多施設で臨床試験(ケモセレクション臨床試験)を実施しています。治療法の研究も進んでいますが、何より大切なのは、早期に発見することです。内視鏡検査はのどに不快感があるので敬遠されがちですが、社会全体がもっと食道がんについて理解し、医師に勧められる前に内視鏡検診を申し出ていただくような雰囲気になって欲しいと願っています。

■DCF療法が良く効いたために化学放射線療法を実施した症例の経過

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