さまざまな治療方法を駆使して根治を目指す 食道がん治療、その選択のカギは?
化学療法は2剤併用が標準。3剤併用は臨床試験中

術前に行う化学療法では、現在、5-FU*とシスプラチン*の2剤併用が標準的治療である。最近はこれにタキソテール*を加えた3剤併用を行うところも増えているという。2剤併用より奏効率(がんの縮小が確認できた割合)が高いと考えられているためだが、副作用が強くなることも心配されている。
これについては、術前治療として①2剤併用、②2剤+タキソテールの3剤併用、③2剤+放射線治療を投与・照射する比較試験が実施中である(図4)。
JCOG1109と呼ばれる試験で、登録期間(患者さんが参加する期間)が6年、主たる解析は登録終了後3年後に予定されているので結果は先だが、患者さんは条件があえば臨床試験に参加も可能だ。
手術と化学放射線療法の効果を比較した試験は、Ⅰ期では行われている。JCOG0502と呼ばれる試験で、こちらは患者さんの登録が終了したところという。
また、がんの深さが浅く、粘膜内にとどまるようなリンパ節転移の可能性が非常に少ない0期では、内視鏡による粘膜切除が行われる。ただし、切除したがんを顕微鏡で確認してがんが粘膜より深く及んでいる場合は、リンパ節に転移している可能性が高くなるためリンパ節も含めた追加治療(手術や化学放射線療法)が必要となる。
わが国での化学放射線療法の位置づけは「Ⅰ期症例では、外科手術との同等性が期待されているものの、Ⅱ~Ⅲ期症例では術前化学療法+手術の成績が化学放射線療法を上回ると推定されている」と『食道癌診断・治療ガイドライン』にも記載されている。
では、話題になった陽子線による治療はどうだろう。
*5-FU=一般名フルオロウラシル *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *タキソテール=一般名ドセタキセル
陽子線治療の効果は? 新薬の可能性は?
陽子線治療はブラーグピークという特性で、ある一定の深さで吸収がピークになり、止まる性質がある。そのため、病巣周囲の正常な組織のダメージを低減できるという利点がある。脳腫瘍や頭頸部がん��肝細胞がん、前立腺がんなどを中心に適応されてきており、現在は先進医療に指定されている。小児がんや局所進行肺がん、食道がんなどでも陽子線治療単独や化学療法との併用で行われてきている。しかし、まだ長期的なデータが充分でないため、「今後、食道がんでもデータを集積し、効果と安全性を検証していくことが必要」と小島さんも語る。
新しい抗がん薬がなかなか出てこないのも、食道がん治療のもどかしい点だ。
「分子標的薬のEGFR阻害薬などが臨床試験で有効性を検討されていますが、新薬承認に結びつくものは出ていません。他に海外で臨床試験が行われている薬剤もありますが、残念ながら食道がんで有効との結果は出ていません。分子標的薬に限らず、新たな薬剤が承認され、治療の選択肢が増え、治療成績がより良くなることを期待しています」
根治を目指して集学的治療を

さまざまな治療法を組み合わせた集学的治療を行うのが食道がん治療の特徴だ
それでも、化学療法+手術、化学放射線療法など、複数の手段を組み合わせて効果をあげる集学的治療が可能であることは、食道がんの特徴と小島さんは語る。
「手術、化学療法、放射線治療、内視鏡治療が密接にかかわりあい、可能な限り根治性を追求しているのが食道がん治療の現状です(図5)。
初回治療の患者さんだけでなく、内視鏡治療や手術後の再発の方、化学放射線療法でがんが残ってしまったり、再発した方などに対しても、根治治療の可能性を追求しています。さまざまな薬剤による臨床試験も随時行っています。そのような中から、効果的な治療法が出てくることを期待したいと思います。患者さんも前向きに、主治医の先生とよく相談して最良と思われる治療を選択してください」
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